最強技能を手に入れた一般学生

黄昏時

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第4話 隠される真実

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「私はフィリップ・ザ・サヴィオス。この国の王である。諸君らにはこの国、ひいては我々人類を滅亡の危機から救ってもらいたい」

 一番年のいった男性は、玉座と思われる一番豪華な椅子から立ち上がったかと思うと、唐突にそう言った。
 案の定国王様、か……

「もちろんこんな事を突然言われて混乱している事だろう。だが我々は諸君らに頼るほかないのだ。どうか頼む」

 国王はそう言うと、俺達に向かって丁寧に頭を下げた。
 とは言え、俺を除くほとんどのクラスメイト達が状況をあまり理解できておらず、かなり困惑しているのが見て取れる。

 そりゃぁ急に人類を救ってくれなんて言われたって、はいわかりましたとなるはずがない。
 それにクラスメイト達が今知りたいのは、俺達に何をして欲しいかではなく、どうしてこんな場所に居るのか? だろう。

「ん、んっ!」

 俺がそんな事を考えていると、先程国王を含めた王族が出てきた場所からあからさまな咳払いが聞こえてきた。
 そして同時に国王はハッとした様子ですぐさま頭を上げた。

 なるほど……
 国王はこういったことがあまり得意じゃないんだな。
 そして今咳払いした人物に任せている感じか。

 まぁ一国の王が、仮に人類を救ってくれるかもしれない人間だとしても軽々しく頭を下げるもんじゃないんだろうな。
 いや、本人の中では軽くは無かったのかもしれないが威厳は重要だろう。

「だがまずは詳しい事を説明させてもらう。ユリウスよ、出てまいれ」

 国王がそう言うと、先程咳払いが聞こえた方から一人の男性が出てきた。
 その男性は白髪交じりで、顔もげっそりしており、いかにも苦労していると言った感じの雰囲気だ。
 そしてその男性は国王の傍まで行くと立ち止まり、俺達の方へと体を向ける。

「此奴はユリウス・アルバート。此奴が私の代わりに諸君らに詳しい事情を説明してくれる。頼んだぞ、ユリウスよ」
「はっ!!」

 ユリウスと呼ばれた男性はそう言って、軽く頭を下げた。
 それは無礼に当たらないのか? と一瞬思ったが、恐らく先程咳払いしてた人だろうし、問題ないんだろう、とすぐさま納得してしまった。

 だが国王が自身で事情を説明せず、ユリウスという男性に話を任せたのはボロが出ないようにするためだろう。
 先程の咳払いまでの流れを見ただけでも、少し突っ込んだことを言えば返答に困りそうな気がするからな。

 だがそれはつまり、ボロが出ないよう何か隠したいことがある、という事になる。
 それについては恐らく、先程彼女が話してくれた内容だろう事は容易に想像できる。

 俺はそう考えながら、目の端で彼女、リリアン・ザ・サヴィオスを見る。
 勿論見ていると出来るだけ気づかれないように。

「では私の方から少々説明をさせていただきます」

 ユリウスと呼ばれた男性はそう前置きをしてから、ゆっくりと話し始めた。

 ……
 …………
 ………………

「……以上が事のあらましになります。質問等がございましたら、遠慮せずして頂いて問題ありません」

 語られた内容は、俺が先にリリアンさんから聞いていた内容とほぼ同じものだった。
 しかし案の定と言うかやはりと言うか、召喚された者がこの世界に適用できるように改変される、という部分は綺麗に省略されていた。

 更には、これは我々の意図したものではないという部分を強調し、しかしながら皆様に助けていただけるなら助力は惜しまない、という事がどんなバカであろうと理解できるよう、優しく説明してくれていた。

 俺も正直、リリアンさんから先に話を聞いていなければ危なかったかもしれない程に、ユリウスと呼ばれた男性の話は良かった。
 良かったと言っても、俺達にとっていい意味ではない。

 この国の、この世界で生きる人達にとって非常に都合が良いという意味だ。
 時に嘘は、多くの人を助けるかもしれないが、代わりに少数の人間を不幸にする。
 今回で言うなれば、前者はこの世界に生きる人達で、後者は俺達異世界から召喚された人間だ。

「……いいですか?」

 俺がそんな事を考えていると、クラスメイトの一人が軽く右手を上げながらそう言った。
 勿論静寂の中で上げられた声は、皆の視線を集めるには十分すぎるものだった。
 あれは……西君か?

「構いません」
「まず第一に貴方方の言う支援とはどういった事で、どこまでの事をしてくださんるんですか?」
「それについては私共が出来る事であれば何でもさせていただきます。ただ個人的なものだった場合は、その個人に判断を委ねさせていただきます」

 ……何でもとはよく言ったものだ。
 正直俺が彼らの立場だったら絶対に何でもとは言えない。
 何故なら、召喚された人間が全員良い人間だとは限らないからだ。

 そんな善人とも悪人ともわからない人間たちに何でも支援するなんて約束は、何をしても助け、何をしても許すと言っているも同然だ。
 とは言えそれは正直、個人的なものというのがどの程度の事まで適用されるかによるのだがな。

 どんな事であろうと、「それは個人的なものなので……」と対応すれば、あちら側の特にならない事を拒否する事は可能となってしまう。
 例えば仮に、誰かがこの国の王にしてくれと言ったとしよう。

 なら相手方は、「それは国王の個人的な意思が必要ですので……」と対応すればいい。
 かなり無理のある理屈ではあるが、そうすれば先程言った約束は破らずに王位を譲ることを拒否できる。

 要するに彼らが最後に付け加えた条件は、とても万能で、彼らに都合が良すぎるという事だ。
 まぁ冷静に考えればこの結論に辿り着く事が出来る者はいるだろうが、現状で冷静に今の説明を聞き理解できる人間が居るかと言われれば、答えはNOだろう。

 何せ別の世界に召喚されただの言われた後の話だからな……

「では例えば衣食住を要求した場合はどうなりますか?」
「その場合は我々に用意できる最高の衣服、最高の食事を提供させていただきます。もし仮に用意したモノがお気に召さない場合は、別のモノへと交換させていただく事も可能です。ただ住居に関しましては、当面の間は最初に目覚められたお部屋をご使用いただく事をご了承いただければ幸いです」

 ユリウスと呼ばれた男性の言葉を聞いたクラスメイト達は少しどよめいていた。
 まぁ理由はわからなくもない。
 要は国から最高の服と食事を提供すると約束されたようなものだからな。

 だが俺としては諸手を挙げて喜ぶ事は出来ない。
 理由は最後の住居の制限だ。
 当面の間と言ってるが、果たしてそれがいつまで続く事か……

 彼女やユリウスと呼ばれた男性によれば、俺達異世界人は皆特殊技能と呼ばれる特殊な力を保持しているらしいからな。
 仮に俺達が救世主なるもので無かったとしても、他国に流すには惜しい人材という事になるだろう。

 それに俺達の中に悪事を企てるものが居ないとも限らない。
 なら出来るだけ目の届く所に置き、更には監視をつける。
 逆に行動を制限し過ぎれば反感を買うのは目に見えているからな。

 出来るだけ自由に動けるようにして、ストレスを溜めさせないようにするべきだ。
 国益を考えるならばそうするべきだろうし、俺がこの国の王ならそうする。

「衣食住は提供していただけると……では先程話されていた特殊技能とやらは、どうすればわかるんですか?」
「それにつきましては、こちらのプレートにご自身の血を付着させていただければ確認する事が可能です」

 ユリウスはそう言いながら、ポケットから手のひらサイズの透明な板を取り出した。

「こちらのプレートに関しましては人数分用意させていただいております。よろしければ今お配り致しますので、技能をご確認ください」

 ユリウスはそう言うと、俺達の左右に立っている兵士たちに合図を出した。
 すると兵士達がそれぞれ俺達の元まで歩いてきて、「こちらをお使いくださいませ」と言ってプレートと縫い針のようなものを丁寧に手渡してきた。

 やはりまたこれをやらなければならないのか……
 俺はそう思いながら、不審がられないようにプレートと縫い針のようなものを受け取ると、プレートを訝しむように観察する。
 
 そして周囲のクラスメイト数人がプレートに血を付着させたのを確認してから、俺はの人差し指を軽く刺し、血をプレートに付着させる。
 すると先程と同じように空中に文字が浮かび上がる。

 ついさっき詳しく見たから確認する必要はあまりないが、ここでそんな事をすれば不自然なうえ、不審がられて警戒されるのが目に見えている。
 ならここは周りに合わせたリアクションをとるのが正解だ。

 リアクションがぎこちなくならないよう注意はしなければならないが、こうやって表示されているステータスに視線をやりながら別の事を思考していれば、能力について考えていると思われ疑われることはまずないだろうからな。

 にしても今更だが、西君の質問は最初にする質問としては相応しくないと言わざるを得ない。
 本来あそこで最初にされるべき質問は、どうすれば元の世界に戻れるか・・・・・・・・・・・・・・、が正しいだろう。
 
 何せユリウスと呼ばれた男性の話を含め、ここまで一切それ・・にはふれられていないのだからな。
 だが俺を含め、クラスメイト達はそれを全く気にしている様子はない。

 つまりそれ程俺達は元の世界に戻ることを重要視していないという事だ。
 これが改変の影響・・・・・……
 やはり実際に目の当たりにすると、わかっているからこそ、怖いものがあるな。

 俺はそう思いながら、両手が微かに震えているのを感じとる。

「我々といたしましてはその方々に合ったものを提供したく思いますので、もしよろしければプレートをお渡しいたしました騎士に、技能を説明して頂ければ幸いです」

 幸い、か……
 話さないという選択も可能だろうが、それはそれで技能を調べるために監視の目が増すのは必至だろう。
 ならここは話すべきだろうな。

「救世主様、お名前と技能をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。名前は緒方 章丞です。技能は【仲裁】で、指定した者同士の戦闘を強制的に禁ずるという感じです」

 俺の言葉を聞き、それを騎士の人は何かに書き記す。
 まぁ記憶に頼るよりは、メモを取っておくほうが正確だろうからな。
 えらく準備はいいとは思うが……

 他の皆も説明してるみたいだな。
 全員かどうかは流石にわからないけどな。
 皆の技能に関しては、後で本人達に聞けばほとんどの人が教えてくれるだろうから問題はないだろう。

「わかりました。教えていただきありがとうございます」

 そう言って書き記したものをしまう騎士を見て、俺は内心で安堵する。
 更に技能について追及された時はどうにかしてはぐらかすつもりだったが、どうやらその必要はなくなったみたいだな。

 信用できるかできないかに関してこれから判断していくつもりだが、態々自分の力の弱点を教える必要はない。
 まして彼女・・のように情報の対価を用意している訳でもない訳だからな。
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