アストラ金貨物語

友永ゆう

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第六章

ベルを狙う者

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 馬車はギルドに預け、二人は街を散策する。

「ベル、準備をするからあちこち寄るぞ」

「わーい!おなか空いたのよ」

「だと思ったよ。そこらで何か買って食べながら歩こうか」

「うん、そういうの好きよっ」

二人で他愛のない事を話していた時だった。目の端に路地裏からこちらに向かって小弓を引き絞っている黒ローブがいるのが見えた。
声を出す間もなく矢は勢いよく放たれ、それはラウルではなくベルに向かってくる。
ラウルは咄嗟に大剣を抜き、盾代わりにしてベルを護った。

「ベル、気を付けろ!お前が狙われている!」

「なんで私!?」

黒ローブは次々と矢を放つ。しかし、ラウルが全て弾き、ベルは無傷だ。
ラウルがいる限りベルに攻撃できないとわかった黒ローブは踵を返した。

「ベル!追うぞ」

「わかった!任せて!」

ベルは急上昇して上空から相手を追い、ラウルはそのまま路地裏に突入し追跡する。
黒ローブは素早く、細い路地を逃げていく。

(ちっ・・・早いな・・・追いつけない)

その時、突然バランスを崩したのか、黒ローブが派手に転倒した。

「んぎゃんっ」

素っ頓狂な声を上げて転がり倒れる黒ローブにラウルは追いついた。そのまま組み伏せてフードを取った。

「お前は・・・!」

黒ローブは女だった。しかも、肌が透き通るように白く耳が長い。美しい彼女はエルフ族だった。

「くっ・・・はなして!」

「おい、なぜベルを狙った!」

「そうよぉ。狙われる謂われはないわよ」
上からベルが降りてきた。

「黒妖精は生かしておいたらいけないの!決まってるのよ!」

「どういうことだ。わかるように説明してくれないか?」

「痛いから放してよ!」

「あ、ああ」

エルフの女はラウルが手を離すと、やれやれと言った感じで、その場に座り髪をかき上げた。そして
息を一つつくと話し出した。

「私たちの里では、黒妖精は不吉の象徴なの。だから見つけ次第殺さないと、世界が不幸に見舞われるって言い伝えがあるのよ。私はその言い伝えに従ったまでよ」

そう言ってプイっと横を向く。

(これは・・・魔神の解放の事を言ってるのか。エルフは長命だ。ソルゼウデルの事もきちんと伝わっているのかもしれない。だが、このままベルを殺させるわけにはいかない。俺も死んでしまうしな・・・)

「おい。言い伝えかなんか知らないが、こいつは大切な仲間だ。殺させるわけにはいかない」
ラウルは立ち上がった。

「行くがいい。お前は女だし、それほど腕が立つとも思えないから今回は許す。だが次襲ってきたら容赦しない」

「えー逃がしちゃうの?」

「連れてっても面倒だろ」

「奴隷に売っちゃいましょう?エルフは高く売れるのよ」

「ひっ」
怯えるエルフ。

「お前どこからそんな情報仕入れてくるんだよ・・・。とにかく今回は見逃す。さあ、行くがいい」

エルフは慌てて立ち上がると、フードを被って路地の奥に走り去っていった。

「さて、それじゃ何か食べよう。そのあとは出発の準備だ」


ラウル達は準備を整えて翌日、アンセルムスの街を出発して開拓地へ向かった。

「ねえ、ラウル」

「ん?」

「仲間は集まらなかったの?」

「ああ、こちらの要求に合うのがいなくてね」

「腕の立つ女の子だっけ」

「そうそう。違うわっ」

「腕が立つかどうかわからないけど、一人いるじゃない」

「ああ、ついてきてるな。あのエルフ」

「襲ってくるかしら?」

「何とも言えないな・・・油断はしないようにしよう」

目的の開拓地は広い荒野で、所々沼地や岩場がある。ラウル達は岩場に拠点を作って、ここからモンスターを狩りに出かけることにした。

「準備した食料と水で5日というところか。まあ、十分だろう。ベルは俺から離れるなよ。あのエルフが狙ってる」

「隠れてるっぽいけど、バレバレなのよね~」

この日は日中だけでジャイアントアントを20匹、岩場に現れたトロールを5匹オーク13匹を倒した。
到着が遅かったため、もう日は沈んで辺りはすっかり暗くなっていた。

「まだいるわね」

「そのようだ。寝込みを襲う気かな。エルフは夜目がきく。気を付けねば」

「ライトならすぐかけるから大丈夫よ~」

その夜、ラウル達が眠りについた頃だった。
岩場に悲鳴が響いた。

「ラウル!」

「あいつだろうな・・・・仕方ない」
ラウルは大剣を手に幌馬車から飛び出し、そして叫ぶ。

「おい、エルフ!死にたくなくばこっちに来い!ベル上空から探せ」

「はいはい~」

「ラウル、東の方向。こっちに向かってるみたい」

「よし、死にたくはないようだ。ならば助けてやる」

ベルがライトをかけると、ラウルが駆ける前方から黒いローブを纏ったエルフが近づいてきていた。
彼女を追うのはウルフの群れ。数ははっきり見えないが、10数匹のようだ。

「伏せろ!!」

ラウルの叫びにエルフはペタンと地面に伏せる。

「いい反応だ!!焔嵐!!」

大剣から放たれるファイヤーストームは、ウルフを数匹纏めて消し飛ばす。
警戒心の強い獣達は、慌てて逃げ散っていった。
ラウルはエルフに近づいて手を差し延べる。

「大丈夫か?」

「・・・私は黒妖精を狙っているのよ。あれは貴方の仲間なのでしょう?何故助けてくれたの?」

「その黒妖精が助けてやれって言ったんだ」

「黒妖精が?私命を狙ったのに・・・」

エルフはラウルの手を掴んで立ち上がった。
ベルが上空から降りてきた。

「黒妖精!!あなた、何のつもりなの?」

「どんな者でも女の悲鳴を聞き捨てるなんてできないからよぉ。彼はね」

「とりあえず、また獣に襲われたくなくばキャンプに来るといい」


ラウル達の後ろから少し離れてエルフはついてきた。
火を熾して暖かい飲み物を淹れ、それを彼女にも渡してやった。

「ありがとう・・・。あたたかい」

彼女は美味しそうに、ほっとしたようにゆっくりと飲んでいる。

「助けてくれてありがとう。私はハリムの里のナディーリア」

「俺はラウル。こいつはベルだ」

「よろしくね~」

「思っていたのと違うのね。黒妖精」

「そうかしら?」

「もっと邪悪な存在って教えられてきたから・・・。助けてくれるなんて思ってもみなかった」

「ナディーリア、君は里を出てきて黒妖精を探して殺すことを目的としているのか?」

「へ?違う違う。私は修行に出てきたの」

「修行か」

「ええ・・・。私は里で一番出来が悪くて・・・弓も上手くない、魔法もすぐ魔力が尽きちゃうし威力もない。何しても全然ダメで・・・」
()は項垂れる。

「それで里であまりいない治療師をやろうと思って勉強をしていたんだけど・・・皆なかなか怪我しなくて、人間の街になら修行がいっぱいできると思って出てきたの。そこで黒妖精を偶々見かけて・・・」

「ラウル!」

「ああ、見つけた・・・!なあ、ナディーリア。俺たちお一緒に旅をして修行をしてみないか?」

「え?あなた達と?」

「ああ、俺たちはこれから危険な旅をしないといけない。それには治療師の手がどうしても必要になる」

「それに一緒に来れば、黒妖精を見張る事もできるわよ」

「・・・そうね。助けてもらった恩もあるし、見張りもできるし・・・いいわ、一緒に行く」

「よし、それじゃ今日から仲間だ。よろしく頼む。ナディーリア!」

「よろしく!」

こうしてラウル達のパーティに実力は未知数だが、念願の治療師が加わったのだった。
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