娼年赤ずきんは暗殺者

百駿歌翅(ナナシノネエム)

文字の大きさ
12 / 18
第二章 とある少年の物語

娼年メイドは暗殺者

しおりを挟む
「あっ……」

 獣人のヴォルグは、その様子を見て呆気あっけに取られていた。
 確かに、自分だってこの商会の会長を殺すことは考えてはいた。だが、まさか、こんなにもあっさりと、その怨敵がこの世から退場するなんて、思ってもいなかったのだ。

 そうしている間にも、吹き出す血の勢いはだいぶ弱まり、人間だった肉のかたまりは徐々に熱を失い始める。

「まったく。外の連中は何をやっているんだ? 部外者を侵入させるなんて、クソが……」

 少年メイドは乱れて顔に掛かった髪をかき上げながら、口悪く不満を漏らした。

 小声とはいえ、昼間とは全然違う口調の少年メイド。
 あまりの豹変ぶりに、昼間の少年と同一人物なのか疑わしく思えてくる。

「お前……本当にミトなのか?」
「……そんなやり取りをするほど、私たちは特別親しい仲ではなかったはずですが?」

 受け答えの際に、ミトの口調が丁寧ていねい語に戻った。しかし、それは心に壁のあるがゆえの敬語だ。
 少年メイドは目に見えて分かるほど邪険な態度で、辛辣しんらつな言葉をヴォルグに言い放つ。

「今さら貴方にできることなど、何もありません。さっさとお帰りください。それとも、出口まで案内が必要でしょうか?」
「なんで、お前がこんなことを……」

 少年メイドはさげすむような、あるいはあきれるような冷たい視線で獣人ヴォルグを見つめた。

「私が暗殺者だからに決まっているでしょう? そんなことも察しがつかないのですか? その頭に、ちゃんと脳みそは言ってますか?」
「ば、バカにするな!」
「貴方がもう少し慎重な性格なら……リンスさん、でしたっけ? 明日にはその恋人と一緒に、故郷へ帰ることもできたでしょうに」
「ハアッ!?」

 ヴォルグは驚きの声を上げた。

「簡単に説明いたしますと、今夜レジスタンス組織がこの商会を襲い、奴隷たちをみんな開放する予定だったのです」
「な!?」

 そんなの、聞いてない。
 言ってくれれば協力したのに――レイノルズ商会襲撃のチャンスに乗り遅れたヴォルグは、そのことを惜しく思った。

「な、なら昼間に! そう言ってくれればよかったじゃねえか!?」
「貴方が信用できる保証が、どこにありましたか? 例えば、私たちを売って恋人だけ確実に取り戻す……そう考えないという保証が、どこにありましたか?」
「俺は! そんなことはしない!」
「だから、それが信用できないと……言うだけ時間の無駄ですね」

 そしてミトは眉間を押さえる。単細胞なヴォルグとの会話に嫌気が差しているようだった。

「第一、貴方からしても、私が貴方のことを報告している可能性だってあったでしょうに……」
「ハッ、それはねえな。こう見えて、他人を嗅ぐ鼻には自信があるんだ!」

 それは『人を見る目には自信がある』の獣人版だろうか? 妙に自信満々なヴォルグに、ミトは再び深いため息をいた。

「とにかく、貴方は今からでも外に出てください。あとは私たちが――」

 ちょうどそのタイミングで、カーンカーンと警鐘が鳴る。
 ミトはジトッと懐疑的な目でヴォルグをにらんだ。

「……まさか、ここに来るまでに、誰かから目撃されていませんよね?」
「いや、何人かは仕方なかった。でも大丈夫だ。ちゃんと処理したぜ?」

 就寝中の従業員たちが騒ぎ出す。戦える者はすでに武器を取り、侵入者を探し始めているだろう。

「……ちゃんと?」
「ああ、ちゃんとふんじばって……」
「あーハイハイ。もう結構です。要するに、貴方のせいで騒ぎになったわけですね――オレの苦労を、台無しにしやがって!!」

 少年メイドはフリルのカチューシャを床に叩きつけながら叫んだ。

「ああもう! お前はさっさと行け! あとはオレ達がなんとかするから!」
「いや、ミト。俺も協力させてもらうぜ? 誰かが戦っているのに、俺だけ待つなんて、できねえや」

 我儘を言うヴォルグに、イライラした様子のミト。だが、口論する時間さえも、今は惜しい。

「クソッ! じゃあ、死なないように付いて来い。とりあえず、仲間と合流する!」
「おう、そう来なくっちゃな! 了解だ!」
「言っとくが、お前がピンチになっても、俺は助けないからな!」

 わざわざ警告してくれる少年メイド。
 ミトのその言葉に、ヴォルグはフッと笑った。

「なんだよ?」
「やっぱお前、良い奴だな。俺の鼻に狂いはなかったぜ……改めて、よろしくな、相棒!」
「勝手に相棒扱いするんじゃねえ!」

 ミトが不機嫌に言い放つと、ドアを開き、会長の死体が残る部屋を出る。
 それに続いて、ヴォルグも部屋を飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

豚公子の逆襲蘇生

ヤネコ
ファンタジー
肥満体の公爵令息ポルコは婚約者の裏切りを目撃し、憤死で生涯を終えるはずだった。だが、憤怒の中に燃え尽きたはずのポルコの魂は、社内政争に敗れ命を落とした男武藤の魂と混じり合う。 アニメ化も決定した超人気ロマンスファンタジー『婚約者の豚公子に虐げられていましたが隣国皇子様から溺愛されています』を舞台に、『舞台装置』と『負け犬』落伍者達の魂は、徹底した自己管理と泥塗れの知略で再点火する。 ※主人公の『原作知識』は断片的(広告バナーで見た一部分のみ)なものとなります。 己の努力と知略を武器に戦う、ハーレム・チート・聖人化無しの復讐ファンタジーです。 準備を重ねて牙を剥く、じっくり型主人公をお楽しみください。 【お知らせ】 第4話「追放魔術師の事件録」は2026/02/02 08:00公開予定です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

処理中です...