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1章 開始までのあれこれ
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仄暗い気持ちになりかけていた私は、ドンっという音に驚きすぎてさっきまでのことがどうでもよくなりかけていた。
いきなり立ち上がったために、太股をテーブルにぶつけたみたいだが真顔で直立し敬礼をとる兄をみる。
何故、立ち上がったのだろうと不思議に思いそちらに目線を配れば、そこにいたのはこの国の王太子である第1王子 ジェード殿下がいた。
ジェード殿下はクリス様の同母兄弟であり、クリス様より2つ上の21歳。
金髪、アイスブルーの瞳までは、流石兄弟といわれるほど似ているがクリス様が甘い顔立ちをしており、ジェード殿下はどちらかというと視線だけで人を殺せるんじゃないかというだけ、冷たい印象を与える顔立ちをしている。まるで、ユーゴのような方だと思っている。
それに、優しさを履き違えない賢王になる器を持ち合わせた方だとユーゴは評価していた。
そんな方がいまここにいる。
私はどうすればいい。こんなにも王族に出会うのは新年の参賀会に参加したときではないだろうか。
手で兄を制して席に座らせる。その仕草からはやはり優雅さが滲み出てる。
「クリス、お前は何をそんなに大きな声を出している。あまりに煩いようだとここから追い出すぞ」
「……兄上。ですが、アンジュ…いえ、グレアム嬢がここで働きたいと申し出るため、王宮で行儀見習いをすることを勧めていたのです」
「ふむ、俺はグレアム嬢が王宮で働くことは賛成しない。あの件もあるしな。だが、ここで働きたいという気持ちがあるならいいではないか」
「兄上!ですが、グレア嬢は伯爵家の令嬢です。そのような身分の者がここで働くとなると」
「お前は、そこいるケイを差し置いてグレアム嬢の兄にでもなったつもりか。ここは俺が任されている公務の範疇だ。採用する。異論は認めん」
はっきりと宣言されたためか、苦渋を味わった顔をするクリス様を横に私はちょっぴり嬉しかった。
まわりには、私のことを可愛がってくれる人ばかりだった。そのため、何をするのにも制限がかかっていた。まるでペットのようだと考えたこともある。それでも、守られているのはわかった。
あの王宮の一件以来、私は限られた人としか交流しないようになったからだろう。
「殿下、ありがとうございます」
精一杯お礼を延べ、令嬢らし笑みを浮かべれば優しく微笑まれた気がした。
気のせいだろうと思うけど、少しユーゴに似ているためか体温が上昇する。
「ジェード殿下、差し出がましいかと思いますが我が愚妹はここでの働くことは無理だと思います。私があの一件を知らないとお思いですか?やはり、あの一件を知っていれば、勧めるべきではありません」
「俺の判断に間違えがあると言いたいのか」
「そういうことではなく」
口籠る兄に対しても王者の風格というか、上に立つものとしての威厳を存分に発揮している。
そんな姿をぼーっと眺めていると、ジェード殿下と目が合う。
「あまり閉じ込めておくと嫌われるぞ。では、グレアム嬢。後程連絡させていただきますので、これからよろしく頼みますよ」
ジェード殿下は私に教えたかったのだろう。先程から、あの一件と言われていることを、ここにいる兄やクリス様が知っているということに。
気付かれないはずはないとわかっていた。
それでも、私はあまりにも浅はかだったのだ。皆に守られていることに気づくことが出来ないほどに。
今日はやけに気持ちの起伏が激しくて仕方がない。
また、沈みそうになっていた気分をジェード殿下がクリス様を席から退かし、そっと手の甲にキスを落としたことによって沈むことはなくかった。
突然のことに何が起きたのだろうとパニックになりかけた。
だって、王太子であるジェード殿下にハンドキスされるなんて。騎士である人にされるのと、殿下にされるのは違う。
まして、私にハンドキスをしてくれるのはユーゴだけだったのに。
ユーゴに似たジェード殿下を見ているのが初めて辛いと思った。
それに気付いたのか、「レディにはまだ少し早かったみたいですね」と言われてしまった。
兄やクリス様が暗い表情をしているのにきづかないほど、心に余裕がなくなっていた。
いきなり立ち上がったために、太股をテーブルにぶつけたみたいだが真顔で直立し敬礼をとる兄をみる。
何故、立ち上がったのだろうと不思議に思いそちらに目線を配れば、そこにいたのはこの国の王太子である第1王子 ジェード殿下がいた。
ジェード殿下はクリス様の同母兄弟であり、クリス様より2つ上の21歳。
金髪、アイスブルーの瞳までは、流石兄弟といわれるほど似ているがクリス様が甘い顔立ちをしており、ジェード殿下はどちらかというと視線だけで人を殺せるんじゃないかというだけ、冷たい印象を与える顔立ちをしている。まるで、ユーゴのような方だと思っている。
それに、優しさを履き違えない賢王になる器を持ち合わせた方だとユーゴは評価していた。
そんな方がいまここにいる。
私はどうすればいい。こんなにも王族に出会うのは新年の参賀会に参加したときではないだろうか。
手で兄を制して席に座らせる。その仕草からはやはり優雅さが滲み出てる。
「クリス、お前は何をそんなに大きな声を出している。あまりに煩いようだとここから追い出すぞ」
「……兄上。ですが、アンジュ…いえ、グレアム嬢がここで働きたいと申し出るため、王宮で行儀見習いをすることを勧めていたのです」
「ふむ、俺はグレアム嬢が王宮で働くことは賛成しない。あの件もあるしな。だが、ここで働きたいという気持ちがあるならいいではないか」
「兄上!ですが、グレア嬢は伯爵家の令嬢です。そのような身分の者がここで働くとなると」
「お前は、そこいるケイを差し置いてグレアム嬢の兄にでもなったつもりか。ここは俺が任されている公務の範疇だ。採用する。異論は認めん」
はっきりと宣言されたためか、苦渋を味わった顔をするクリス様を横に私はちょっぴり嬉しかった。
まわりには、私のことを可愛がってくれる人ばかりだった。そのため、何をするのにも制限がかかっていた。まるでペットのようだと考えたこともある。それでも、守られているのはわかった。
あの王宮の一件以来、私は限られた人としか交流しないようになったからだろう。
「殿下、ありがとうございます」
精一杯お礼を延べ、令嬢らし笑みを浮かべれば優しく微笑まれた気がした。
気のせいだろうと思うけど、少しユーゴに似ているためか体温が上昇する。
「ジェード殿下、差し出がましいかと思いますが我が愚妹はここでの働くことは無理だと思います。私があの一件を知らないとお思いですか?やはり、あの一件を知っていれば、勧めるべきではありません」
「俺の判断に間違えがあると言いたいのか」
「そういうことではなく」
口籠る兄に対しても王者の風格というか、上に立つものとしての威厳を存分に発揮している。
そんな姿をぼーっと眺めていると、ジェード殿下と目が合う。
「あまり閉じ込めておくと嫌われるぞ。では、グレアム嬢。後程連絡させていただきますので、これからよろしく頼みますよ」
ジェード殿下は私に教えたかったのだろう。先程から、あの一件と言われていることを、ここにいる兄やクリス様が知っているということに。
気付かれないはずはないとわかっていた。
それでも、私はあまりにも浅はかだったのだ。皆に守られていることに気づくことが出来ないほどに。
今日はやけに気持ちの起伏が激しくて仕方がない。
また、沈みそうになっていた気分をジェード殿下がクリス様を席から退かし、そっと手の甲にキスを落としたことによって沈むことはなくかった。
突然のことに何が起きたのだろうとパニックになりかけた。
だって、王太子であるジェード殿下にハンドキスされるなんて。騎士である人にされるのと、殿下にされるのは違う。
まして、私にハンドキスをしてくれるのはユーゴだけだったのに。
ユーゴに似たジェード殿下を見ているのが初めて辛いと思った。
それに気付いたのか、「レディにはまだ少し早かったみたいですね」と言われてしまった。
兄やクリス様が暗い表情をしているのにきづかないほど、心に余裕がなくなっていた。
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