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2章 アルバイト開始
第一印象が大切って知ってました?
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とうとうこの日がやって来た。
グラッチェの目の間でうろうろとして、店に入るべきかと悩んでしまう。
さっきから、店前を通る人たち何人かに見られている気がする。きっと、不審者に思われているのかもしれない。治安部隊に連絡されて、近くの治安本部に連れていかれたら、兄に怒られてしまう。
あの日、きちんとグレン様に何処から入ればいいのか聞いておけばよかった。今更後悔しても遅いが、兄や父がいないことが、こんなにも心細いとは。
ここに送ってくれた兄は、一緒に店内まで行こうとしていたが、それは意地でも断った。
初めて働く場所に兄同伴で来る者などいないだろう。それをバカ兄はやろうとしたのだから、恥ずかしくて仕方がないが、この状況だったら断らずにいればよかったと思う。
数分前の自分を説得したくて仕方がない。
今日ここへの見送りについて兄と父とで、だいぶ揉めたらしい。早朝会議のため早く家を出る父が泣く泣く兄に譲る形で決着がついたのだと執事長が話してくれた。だが、迎えはどうしても父がすると譲らなかったらしく、迎えに来るらしい。兄も父と一緒に来ると言っていたが、近衛の仕事はどうするのだろう。きちんと、仕事をしているのか心配になる。
何処までも過保護なふたりに困ってしまうが、いまだけなのかもしれない。結婚して生家を離れれば、この困ったふたりとも中々会うことが出来ないのだから。
ユーゴと結婚したら、彼は私のことをどう扱うのだろう。ふっと、考えたがいま彼が何を思っているのかわからない。そのため、想像することも出来なかった。
私はユーゴのことが好きなのだろうか。結婚生活が想像できないなんて、きっと本当は好きではないのかもしれない。理想の結婚生活があったのだけれど…。昔の優しかった王子様はどこに行ってしまったのだろう。
ぐるぐる回る思考と、行ったり来たりしていたら「まだ、オープン前なのにこの店に何か用?」と赤毛の美女に話しかけられた。きっと、不審者だと思っているはず。
この人が治安部隊の人だったらどうしようと思いながら「私、不審者ではないです。グレアム伯爵家の」と続けようとしたら、口元に人差し指を近づけ「しーっ、ここではその名乗りは禁止だと言われているでしょ。アンジュちゃん」と笑いながら注意される。
私の名前をよく知っているなと思いよくよく見ると、リジェン男爵家のアイリーン様だった。
アイリーン様のご実家は、元々貿易を生業としている商家だったが3代前に爵位を賜ったばかりの新興貴族ということで、家柄に囚われている貴族たちからあまりよく思われていないらしく、たまたま同じお茶会の席で私がうまく話すことが出来ないでいたら話し掛けてくれたのだ。爵位が低い者が高位の者に話しかけてはいけないという暗黙の了解を、人見知りでどうすることも出来ないでいた私に「無礼だとわかっているけれど、あなたのこと可愛いと思っていたの。仲良くできたら嬉しいな」と、真顔でそう言われたら信じるしかなかった。
ミーシャやカロリーナほど交流があるわけではないが、会えば話す程度の仲ではある。
そんな彼女が、何故ここにいるのだろう。疑問を口に出せば答えはすぐに返ってきた。
「ふふふふ、ここで働いているからだよ。この前、来た時に気付かなかった?」
「その…はい、気付かなかったです」
語尾が段々と小さくなる。前回、来た時はユーゴのことや久しぶりにクリス様にジェード殿下と対面したことの印象が強すぎて、正直、案内してくれた方や給仕してくれた方の顔を覚えていない。
どう伝えるべきか迷ってしまう。
「あの時は、何だか物凄い人たちに囲まれていたから仕方ないか」
そう言いながら、ずっと笑顔を保っている彼女の後ろから新たに何人もの人たちがやって来る。
「それで、どうしてここにいるのかな?」
その答えを知っているのに、わざわざ質問してくるアイリーン様に困ってしまう。
返事がない私を後ろにいる人たちは、どう思っているのだろう。
人見知りすぎて、どうすればいいのかわからなくなってしまった。
グラッチェの目の間でうろうろとして、店に入るべきかと悩んでしまう。
さっきから、店前を通る人たち何人かに見られている気がする。きっと、不審者に思われているのかもしれない。治安部隊に連絡されて、近くの治安本部に連れていかれたら、兄に怒られてしまう。
あの日、きちんとグレン様に何処から入ればいいのか聞いておけばよかった。今更後悔しても遅いが、兄や父がいないことが、こんなにも心細いとは。
ここに送ってくれた兄は、一緒に店内まで行こうとしていたが、それは意地でも断った。
初めて働く場所に兄同伴で来る者などいないだろう。それをバカ兄はやろうとしたのだから、恥ずかしくて仕方がないが、この状況だったら断らずにいればよかったと思う。
数分前の自分を説得したくて仕方がない。
今日ここへの見送りについて兄と父とで、だいぶ揉めたらしい。早朝会議のため早く家を出る父が泣く泣く兄に譲る形で決着がついたのだと執事長が話してくれた。だが、迎えはどうしても父がすると譲らなかったらしく、迎えに来るらしい。兄も父と一緒に来ると言っていたが、近衛の仕事はどうするのだろう。きちんと、仕事をしているのか心配になる。
何処までも過保護なふたりに困ってしまうが、いまだけなのかもしれない。結婚して生家を離れれば、この困ったふたりとも中々会うことが出来ないのだから。
ユーゴと結婚したら、彼は私のことをどう扱うのだろう。ふっと、考えたがいま彼が何を思っているのかわからない。そのため、想像することも出来なかった。
私はユーゴのことが好きなのだろうか。結婚生活が想像できないなんて、きっと本当は好きではないのかもしれない。理想の結婚生活があったのだけれど…。昔の優しかった王子様はどこに行ってしまったのだろう。
ぐるぐる回る思考と、行ったり来たりしていたら「まだ、オープン前なのにこの店に何か用?」と赤毛の美女に話しかけられた。きっと、不審者だと思っているはず。
この人が治安部隊の人だったらどうしようと思いながら「私、不審者ではないです。グレアム伯爵家の」と続けようとしたら、口元に人差し指を近づけ「しーっ、ここではその名乗りは禁止だと言われているでしょ。アンジュちゃん」と笑いながら注意される。
私の名前をよく知っているなと思いよくよく見ると、リジェン男爵家のアイリーン様だった。
アイリーン様のご実家は、元々貿易を生業としている商家だったが3代前に爵位を賜ったばかりの新興貴族ということで、家柄に囚われている貴族たちからあまりよく思われていないらしく、たまたま同じお茶会の席で私がうまく話すことが出来ないでいたら話し掛けてくれたのだ。爵位が低い者が高位の者に話しかけてはいけないという暗黙の了解を、人見知りでどうすることも出来ないでいた私に「無礼だとわかっているけれど、あなたのこと可愛いと思っていたの。仲良くできたら嬉しいな」と、真顔でそう言われたら信じるしかなかった。
ミーシャやカロリーナほど交流があるわけではないが、会えば話す程度の仲ではある。
そんな彼女が、何故ここにいるのだろう。疑問を口に出せば答えはすぐに返ってきた。
「ふふふふ、ここで働いているからだよ。この前、来た時に気付かなかった?」
「その…はい、気付かなかったです」
語尾が段々と小さくなる。前回、来た時はユーゴのことや久しぶりにクリス様にジェード殿下と対面したことの印象が強すぎて、正直、案内してくれた方や給仕してくれた方の顔を覚えていない。
どう伝えるべきか迷ってしまう。
「あの時は、何だか物凄い人たちに囲まれていたから仕方ないか」
そう言いながら、ずっと笑顔を保っている彼女の後ろから新たに何人もの人たちがやって来る。
「それで、どうしてここにいるのかな?」
その答えを知っているのに、わざわざ質問してくるアイリーン様に困ってしまう。
返事がない私を後ろにいる人たちは、どう思っているのだろう。
人見知りすぎて、どうすればいいのかわからなくなってしまった。
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