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3章
馬車での触れ合いは禁止です
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乗り込む際に、先に乗ったユーゴが手を差し出してくれたので、手を重ねた。そのため、躓くことなく乗ることが出来た。いつもより少しだけ高いミュールを履いているためか、歩く度に躓きそうになる。
転がり込むように、椅子に腰かける。侯爵家が用意した馬車は家で使っている物より座り心地がいい。やっぱり、爵位の力関係か。
ユーゴより先に座ったが、咎める者(ミーナ以外)はいない。その座り心地を堪能していて、対面に座る予定のユーゴをみると、何故か隣に腰かけてくる。
どういうことだ。私の隣にはミーナが座るはずだったのに。
そう思いながら、ミーナを見ると、いい笑顔している。怒らせてはいけない人を怒らせた時の感覚だ。
「ハミルトン様、うちのお嬢様の隣には私が座りますので、向かいの席にお座りいただいてもよろしいですか?劇場での密着に関しては目を瞑りますが、この馬車で密着は許容の範囲外です」
「ミーナ、君はいつからそのようなこと言うようになったのかな」
「旦那様から命じられていますので」
毅然とした態度で言うものだから、私の顔色が悪くなりそう。というよりも、何だがお腹のあたりがチクチク痛い。
素知らぬ顔でミーナが後ろを向けば、ユーゴの従者が笑いを堪えながら、「だそうですよ。ユーゴ様も少し落ち着いてください。今日という時間はまだありますので」と、言うが今日は観劇だけ共にするのだから、あまり時間はないだろうに、何でそのようなことを言うのだろう。
ただ、盗み見たユーゴの顔は真顔に近かった。
「ユーゴ、ここはミーナたちの言うとおりにして」
「わかりました。今日は我慢します…が、次はアンの隣に座ります」
「え、ええ」
渋々といった形で納得はしてくれ、正面に座った。
馬車が走り出してから、車内は無言だ。いつもなら、いろいろな話をしてくれるのに今日はどうしたのだろう。
きっと、さっき誰もユーゴの味方をしなかったから落ち込んでいるのだわ。気分を変えて、今日の舞台の話をしよう。何処で何を観るのかは伝えられていないから、昨日から少しだけ気になっていた。
「今日の観劇って何を観るの?」
「花の妖精ですよ」
「あのお話なのね!!私の好きなお話覚えてくれていたなんて嬉しいわ」
―――花の妖精
この国住むものなら知らない人はいないくらい有名な恋愛物語。
幼少期に花が咲き乱れる庭で出会い「花の妖精が、いるのかと思った」と、そのひとことに微笑みながら「私は妖精よ」と返す。そのふたりは、そのまま将来を誓いあう。
ただ、ふたりの家は表面上友好的な態度だが政敵としていがみ合っていた。
そのことを知らずに、ふたりは出会う場で徐々に仲を深めていく。そのことに気付いた家族が、ふたりを引き裂こうと互いに婚約者を立てたるが、親に従う振りをしながらも女に想いを告げ、最後には結ばれる。
最後の場面での「やっと、私の元に花の妖精がやってきてくれた」と言う台詞が私の中ではお気に入りだ。
昔、ユーゴにこの話を読んでいたときに「アンのこと離さないから」と言われたから「私のことも花の妖精って言ってくれたら、ずっと一緒にいる」と言ったのはいい思い出だ。
と、懐かしんでいると、先程ユーゴに「花の妖精」と言われたことを思い出す。
もしかして、もしかすると。彼は覚えていてさっき言ったのだろうか。
「ねえ、アン。花の妖精は僕のそばにずっといてくれるんですよね?」
確信した。これは、絶対に覚えていた。
「そのドレスも、花の妖精にはぴったりなデザインですよね。ここに花冠があれば、もっとアンの可愛さを引き立てられたのに残念です」
ちっとも残念そうにみえない。むしろ、楽しそうに次の着飾りを考えているだろう。
優しい瞳で見つめられると、きゅんとしてしまう。
「ユーゴは、その…あのことを、覚えていたの?」
「忘れるはずがないです。僕だけの花の妖精」
「は、恥ずかしいから、もう止めて」
プイっと、車窓に目をやれば、隣から振動が伝わって来る。ミーナが笑いを堪えているようだ。
この侍女は有能なのに、主人のことを敬っていない気がする。と、思いながら過ぎ去る街並みをみていた。
転がり込むように、椅子に腰かける。侯爵家が用意した馬車は家で使っている物より座り心地がいい。やっぱり、爵位の力関係か。
ユーゴより先に座ったが、咎める者(ミーナ以外)はいない。その座り心地を堪能していて、対面に座る予定のユーゴをみると、何故か隣に腰かけてくる。
どういうことだ。私の隣にはミーナが座るはずだったのに。
そう思いながら、ミーナを見ると、いい笑顔している。怒らせてはいけない人を怒らせた時の感覚だ。
「ハミルトン様、うちのお嬢様の隣には私が座りますので、向かいの席にお座りいただいてもよろしいですか?劇場での密着に関しては目を瞑りますが、この馬車で密着は許容の範囲外です」
「ミーナ、君はいつからそのようなこと言うようになったのかな」
「旦那様から命じられていますので」
毅然とした態度で言うものだから、私の顔色が悪くなりそう。というよりも、何だがお腹のあたりがチクチク痛い。
素知らぬ顔でミーナが後ろを向けば、ユーゴの従者が笑いを堪えながら、「だそうですよ。ユーゴ様も少し落ち着いてください。今日という時間はまだありますので」と、言うが今日は観劇だけ共にするのだから、あまり時間はないだろうに、何でそのようなことを言うのだろう。
ただ、盗み見たユーゴの顔は真顔に近かった。
「ユーゴ、ここはミーナたちの言うとおりにして」
「わかりました。今日は我慢します…が、次はアンの隣に座ります」
「え、ええ」
渋々といった形で納得はしてくれ、正面に座った。
馬車が走り出してから、車内は無言だ。いつもなら、いろいろな話をしてくれるのに今日はどうしたのだろう。
きっと、さっき誰もユーゴの味方をしなかったから落ち込んでいるのだわ。気分を変えて、今日の舞台の話をしよう。何処で何を観るのかは伝えられていないから、昨日から少しだけ気になっていた。
「今日の観劇って何を観るの?」
「花の妖精ですよ」
「あのお話なのね!!私の好きなお話覚えてくれていたなんて嬉しいわ」
―――花の妖精
この国住むものなら知らない人はいないくらい有名な恋愛物語。
幼少期に花が咲き乱れる庭で出会い「花の妖精が、いるのかと思った」と、そのひとことに微笑みながら「私は妖精よ」と返す。そのふたりは、そのまま将来を誓いあう。
ただ、ふたりの家は表面上友好的な態度だが政敵としていがみ合っていた。
そのことを知らずに、ふたりは出会う場で徐々に仲を深めていく。そのことに気付いた家族が、ふたりを引き裂こうと互いに婚約者を立てたるが、親に従う振りをしながらも女に想いを告げ、最後には結ばれる。
最後の場面での「やっと、私の元に花の妖精がやってきてくれた」と言う台詞が私の中ではお気に入りだ。
昔、ユーゴにこの話を読んでいたときに「アンのこと離さないから」と言われたから「私のことも花の妖精って言ってくれたら、ずっと一緒にいる」と言ったのはいい思い出だ。
と、懐かしんでいると、先程ユーゴに「花の妖精」と言われたことを思い出す。
もしかして、もしかすると。彼は覚えていてさっき言ったのだろうか。
「ねえ、アン。花の妖精は僕のそばにずっといてくれるんですよね?」
確信した。これは、絶対に覚えていた。
「そのドレスも、花の妖精にはぴったりなデザインですよね。ここに花冠があれば、もっとアンの可愛さを引き立てられたのに残念です」
ちっとも残念そうにみえない。むしろ、楽しそうに次の着飾りを考えているだろう。
優しい瞳で見つめられると、きゅんとしてしまう。
「ユーゴは、その…あのことを、覚えていたの?」
「忘れるはずがないです。僕だけの花の妖精」
「は、恥ずかしいから、もう止めて」
プイっと、車窓に目をやれば、隣から振動が伝わって来る。ミーナが笑いを堪えているようだ。
この侍女は有能なのに、主人のことを敬っていない気がする。と、思いながら過ぎ去る街並みをみていた。
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