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視察に向かうことが、こんなにも大変なことだとはじめて知ることになった。幼い頃は、兄に着いて行きたくて「兄上、私も連れて行ってください」と公務の邪魔になることなど考えてもいなかった。必ず、兄は「今日だけだぞ」と考える振りをしながら毎回同じ台詞を口にしていた。
兄は剣の腕に自信があったようで、従者のみを連れていくだけで、いまとなってはあれを視察と呼んでいいものかはわからない。
ただの息抜きで、城を抜けだしていた可能性もある。
それに、ベネディクト様の剣の腕も素晴らしいと聞いたことがある。だが、兄とは違うとはいえ、従者と護衛2名だけとはいうのは、本当に視察なのかと疑いたくなる。
そもそも、私が行う公務は修道院への慰問が主で護衛も何故か多数いるためか、この少なさに驚いてしまう。
そこは、やはり男女の差なのだろう。
初めは不安で仕方がなかったが、ベネディクト様がそばにいてくれることが心強く徐々にだが、視界を外に向けることが出来るほどになり、チラリと盗み見る彼の姿はとても凛々しいものだった。
その姿に目を奪われながらも景色にも目を向けるが、ベネディクト様の姿を思い出してしまい、ただ流れるように絵画を見ているようだ。
視察という言葉に身構えていたのに、連れてこられたのは城下街を抜けて更に田畑を抜けて見えてきた小高い丘だった。
何故、このような場なのだろうかと疑問に思っていると「見せたいものがある」頭上から聞こえる。
何を見せたいのだろうか、と不安と期待が入り混じりながらも到着の時を待つ。
馬を止めるために強く手綱が引かれる。
「クリスティーナ様、お手をどうぞ」
ウィリアムがすぐに駆け寄り、手を貸してくれようとしてくれたので有難く手を差し出そうとすれば、「素早く降りろ」とベネディクト様が言うので、言われたとおりに降りようとすると、運動らしいことしていない私には無理だったらしく、崩れるように落ちそうになる。
ベネディクト様が腕を掴むよりも、ウィリアムに抱き込まれるようにされる方がはやかった。
「あまり、脅さないであげてくださいよ。そして、私を睨むのは止めてください。助けたことに対する礼を言われても、睨まれるようなことはしていませんからね」
「ああ、あの、ありがとうございます」
「いえ、役得と言うものですので。クリスティーナ様が無事でよかったですよ」
綺麗な笑みをみせてくるものだから、頬が熱を帯びるのを感じる。
中々、笑みを見せてくれはしないベネディクト様とは違うので男性に笑みを向けられるということに慣れていない。
それに、ウィリアムは優しそうな整った顔をしているので、きっと世の中の女性に好意を寄せられても可笑しくないような人物だ。
そんな彼に微笑まれてしまえば、仕方がないと心の中で言い訳をする。
「いつまで、そいつの腕の中にいるつもりだ」
鋭く刺さるような声に身体が震えてしまう。
耳元で囁くように「ベネディクト様が嫉妬していますよ」と言われるので、頬に集まっていた熱がさらに高くなり、熱を出したかのように身体の芯から熱くなる。
いつまでも、腕の中から動かないでいた私に痺れを切らしたのか後ろから抱き抱えるようにされ、立ち上がらせられた。
見渡せば、護衛騎士は見て見ぬ振りをしているのか、本当なのかは知らないが馬を休ませるように動かしている。
恥ずかしくなり下を向けば、小さな白い花がたくさん咲いているではないか。
振りむこうとすれば、そのまま抱きしめられてしまう。
「あ、ああのベネディクト様、皆が見ていますよ」
「見せつけてやればいい。特に、そこでへらへらしている奴にはな」
耳元で心地よい低音で囁かれるものだから、腰が抜けてしまう。
いままで、こんにも近くで話し掛けられたことがないので、どうすればいいのかわからない。
皇女として、皇太子妃として、もっと威厳を持った姿を見せなくては、と思いながらも慣れないことをされると、調子が狂ってしまう。
「今日だけで、ティナは何回、私に抱きかかえられるだろうな」
昔、見せられていた穏やかな笑みを浮かべるものだから、流石に脳の処理が追い付かなくなり意識を失いそうになる。
だが、ここで意識を失ってしまえばこの景色を焼き付けることが出来ない。
疲れも出てしまったのか、少しだけ甘えて目を瞑ってしまう。
そのまま、少しの間寝ていたようで目が覚めた時には、敷物の上に寝かされていた。
敷物といっても見覚えのあるマントだ。このマントはベネディクト様、が身に着けていた物だ。
そのような物を私が敷物にしてしまっていたとは。
「目が覚めたようだな。ティナには少しだけ厳しかったようで、無理させたな」
「いえ、私こそこのような大事な物を」
「気にするな」
顔を見ることもなく、景色のみに視線に入れての会話。
連れて来てもらった場所は、綺麗な花が一面に咲く丘だった。
こんな場所がこの国にもあるものだと思うと、私はこの国自身とも向き合っていなかったのだと思えて恥ずかしい。
そして、このような素敵な場所は御伽噺にしかないと思っていた。
いつこのような場と出会ったのかは聞かないが、私のことを想って連れて来てくれたと思うと心の奥深くが温まる。
「…少し歩いてみてもよろしいですか」
「好きにしろ」
ベネディクト様がふと笑ったように見えた。それだけ、彼の顔が穏やかに見える。
連れてきてくれてこの丘は私に、否、私たちにとって大切な場所になるだろう。
成長してからベネディクト様と見る、はじめての世界。
綺麗な花を摘みながらひとつの花冠を作る。子どもみたいなことをしているとは、わかっている。
昔、憧れていた本の騎士と姫が誓いを立てた花畑。
そこで、姫は騎士に花冠をつくり渡して「あなたは私だけのもの」と告げると騎士が「あなたの命が尽きるその時まで」と誓うのだ。
その単語場面が好きで、何度もやりたいと兄に頼み込んでも、許してもらえなかった。
いまはあの時の憧れはなく、ただ純粋に懐かしいと思ってしまう。
だから、私は大きな声をだしてベネディクト様に告げた。
「ベネディクト様、ありがとうございます」
ただ、その言葉を伝えたくて久しぶりに大きな声を出した。
ウィリアムは驚いていたけれど、ベネディクト様はずっと穏やかそうな顔をしていた。
嬉しくなり、不器用ながらに作った花冠をベネディクト様の頭にのせてみるとウィリアムが肩を震わせていたのが気になったが、またベネディクト様が睨んでいた。
年甲斐もなくはしゃいでしまったため、帰りはぐったりとしてしまい迷惑を掛けてしまった反省していると「また、あとで行くか」と言われたので、「楽しみにしています」と告げれば、顔を逸らされた。
兄は剣の腕に自信があったようで、従者のみを連れていくだけで、いまとなってはあれを視察と呼んでいいものかはわからない。
ただの息抜きで、城を抜けだしていた可能性もある。
それに、ベネディクト様の剣の腕も素晴らしいと聞いたことがある。だが、兄とは違うとはいえ、従者と護衛2名だけとはいうのは、本当に視察なのかと疑いたくなる。
そもそも、私が行う公務は修道院への慰問が主で護衛も何故か多数いるためか、この少なさに驚いてしまう。
そこは、やはり男女の差なのだろう。
初めは不安で仕方がなかったが、ベネディクト様がそばにいてくれることが心強く徐々にだが、視界を外に向けることが出来るほどになり、チラリと盗み見る彼の姿はとても凛々しいものだった。
その姿に目を奪われながらも景色にも目を向けるが、ベネディクト様の姿を思い出してしまい、ただ流れるように絵画を見ているようだ。
視察という言葉に身構えていたのに、連れてこられたのは城下街を抜けて更に田畑を抜けて見えてきた小高い丘だった。
何故、このような場なのだろうかと疑問に思っていると「見せたいものがある」頭上から聞こえる。
何を見せたいのだろうか、と不安と期待が入り混じりながらも到着の時を待つ。
馬を止めるために強く手綱が引かれる。
「クリスティーナ様、お手をどうぞ」
ウィリアムがすぐに駆け寄り、手を貸してくれようとしてくれたので有難く手を差し出そうとすれば、「素早く降りろ」とベネディクト様が言うので、言われたとおりに降りようとすると、運動らしいことしていない私には無理だったらしく、崩れるように落ちそうになる。
ベネディクト様が腕を掴むよりも、ウィリアムに抱き込まれるようにされる方がはやかった。
「あまり、脅さないであげてくださいよ。そして、私を睨むのは止めてください。助けたことに対する礼を言われても、睨まれるようなことはしていませんからね」
「ああ、あの、ありがとうございます」
「いえ、役得と言うものですので。クリスティーナ様が無事でよかったですよ」
綺麗な笑みをみせてくるものだから、頬が熱を帯びるのを感じる。
中々、笑みを見せてくれはしないベネディクト様とは違うので男性に笑みを向けられるということに慣れていない。
それに、ウィリアムは優しそうな整った顔をしているので、きっと世の中の女性に好意を寄せられても可笑しくないような人物だ。
そんな彼に微笑まれてしまえば、仕方がないと心の中で言い訳をする。
「いつまで、そいつの腕の中にいるつもりだ」
鋭く刺さるような声に身体が震えてしまう。
耳元で囁くように「ベネディクト様が嫉妬していますよ」と言われるので、頬に集まっていた熱がさらに高くなり、熱を出したかのように身体の芯から熱くなる。
いつまでも、腕の中から動かないでいた私に痺れを切らしたのか後ろから抱き抱えるようにされ、立ち上がらせられた。
見渡せば、護衛騎士は見て見ぬ振りをしているのか、本当なのかは知らないが馬を休ませるように動かしている。
恥ずかしくなり下を向けば、小さな白い花がたくさん咲いているではないか。
振りむこうとすれば、そのまま抱きしめられてしまう。
「あ、ああのベネディクト様、皆が見ていますよ」
「見せつけてやればいい。特に、そこでへらへらしている奴にはな」
耳元で心地よい低音で囁かれるものだから、腰が抜けてしまう。
いままで、こんにも近くで話し掛けられたことがないので、どうすればいいのかわからない。
皇女として、皇太子妃として、もっと威厳を持った姿を見せなくては、と思いながらも慣れないことをされると、調子が狂ってしまう。
「今日だけで、ティナは何回、私に抱きかかえられるだろうな」
昔、見せられていた穏やかな笑みを浮かべるものだから、流石に脳の処理が追い付かなくなり意識を失いそうになる。
だが、ここで意識を失ってしまえばこの景色を焼き付けることが出来ない。
疲れも出てしまったのか、少しだけ甘えて目を瞑ってしまう。
そのまま、少しの間寝ていたようで目が覚めた時には、敷物の上に寝かされていた。
敷物といっても見覚えのあるマントだ。このマントはベネディクト様、が身に着けていた物だ。
そのような物を私が敷物にしてしまっていたとは。
「目が覚めたようだな。ティナには少しだけ厳しかったようで、無理させたな」
「いえ、私こそこのような大事な物を」
「気にするな」
顔を見ることもなく、景色のみに視線に入れての会話。
連れて来てもらった場所は、綺麗な花が一面に咲く丘だった。
こんな場所がこの国にもあるものだと思うと、私はこの国自身とも向き合っていなかったのだと思えて恥ずかしい。
そして、このような素敵な場所は御伽噺にしかないと思っていた。
いつこのような場と出会ったのかは聞かないが、私のことを想って連れて来てくれたと思うと心の奥深くが温まる。
「…少し歩いてみてもよろしいですか」
「好きにしろ」
ベネディクト様がふと笑ったように見えた。それだけ、彼の顔が穏やかに見える。
連れてきてくれてこの丘は私に、否、私たちにとって大切な場所になるだろう。
成長してからベネディクト様と見る、はじめての世界。
綺麗な花を摘みながらひとつの花冠を作る。子どもみたいなことをしているとは、わかっている。
昔、憧れていた本の騎士と姫が誓いを立てた花畑。
そこで、姫は騎士に花冠をつくり渡して「あなたは私だけのもの」と告げると騎士が「あなたの命が尽きるその時まで」と誓うのだ。
その単語場面が好きで、何度もやりたいと兄に頼み込んでも、許してもらえなかった。
いまはあの時の憧れはなく、ただ純粋に懐かしいと思ってしまう。
だから、私は大きな声をだしてベネディクト様に告げた。
「ベネディクト様、ありがとうございます」
ただ、その言葉を伝えたくて久しぶりに大きな声を出した。
ウィリアムは驚いていたけれど、ベネディクト様はずっと穏やかそうな顔をしていた。
嬉しくなり、不器用ながらに作った花冠をベネディクト様の頭にのせてみるとウィリアムが肩を震わせていたのが気になったが、またベネディクト様が睨んでいた。
年甲斐もなくはしゃいでしまったため、帰りはぐったりとしてしまい迷惑を掛けてしまった反省していると「また、あとで行くか」と言われたので、「楽しみにしています」と告げれば、顔を逸らされた。
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