ある雪の降る日に

喜市

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25話

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急な雨天により午後の実習は中止となり、座学へと変更になった。

教室の窓をちら、と横目で眺める。

どんよりと煙ったその灰の雲は、教室の窓に乗っかるように広がり、暗いブラウンの縁はその重そうな雲を支えている。

目先に広がる曇天は辺りに影を落として、しきりに地面や窓を濡らして行った。

ぽたん、ぽたん。

見た目とは裏腹に、それは軽やかな音を奏でている。

その不思議な光景に、視覚を、聴覚を、五感だけではない奥底にまで響くような感じがした。

ひとしきり、吸い寄せられるように空から降る雫を目で追いかけていた。

「フレイ」

隣からの肘打ちに、ハッと目が覚めた気分になった。
そちらを見やれば、ハルラスがこっそりと耳打ちをして来る。

「今授業が終わったから、もうすぐ終業の挨拶だよ。…どこか具合悪い?」

そんなに時間が過ぎていたのだろうか。
まだ降り続いている窓の外を1度振り向き、僕はハルラスに首を振った。

「ううん、全然大丈夫だよ。なんかこの雨の音、不思議でさ。」

僕がそう言うと、ハルラスは少し怪訝な表情を見せた。

「不思議?結構ザーザー聞こえてきてはいるけど、豪雨ってこんなもんじゃないかな。」

ザーザーという言葉に僕はあまりピンと来ていなかった。

確かに窓から見える景色にはバケツをひっくり返したような雨、と言っても過言じゃ無い程大粒の雫がそこかしこに降り注いでる。

「でも、ぽちゃんっみたいなコロンとした感じの…なんか軽い音が聞こえない?」

何とか言語化させて、ハルラスに伝えてみる。

「ぽちゃん、かー。生憎だけど僕にはさっぱり。…もしかしてフレイの特殊能力とか!」

「えぇ!…そうなのかな?」

だったらちょっと嬉しいかも。
…何に使えるかは分からないけれど。







「じゃあねー!」

「うん。また明日!」
 
ハルラスは最近入ったサークルによく参加しに行っている。
今日もまた、先にハルラスはサークルへと向かっていった。

自分もゴソゴソと教科書などを鞄にしまい、席を立つ。

シヴァン先輩はどこにいるだろうか?

玄関に続く廊下を歩きながら、そっと深めにコートに付いているフードを被る。

傘を持って来れば良かったな。
玄関を出た瞬間に目の当たりにする雨の強さに、すくんだ足は庇の下で立ち止まってしまう。

少し止むまで待つべきか、このままならいっその事もう先輩を探しに行くべきか。

そう逡巡していても、答えはまだ定まらない。
1年塔の玄関にいる生徒もまばらになり、道が少し空いてきたように思えた。

いや、もう行ってしまおう。
弱まる事を知らない雨に僕は決心をして、一歩踏み出した。

靴の先に雨水がぽたぽたと落ち、一瞬で色を塗り替えていく。

ぱしゃぱしゃと水飛沫を上げながら、4年塔へ向かっていた。

勝手知ったる4年塔までの道のり。雨の中軽やかな足取りで石畳の道を走る。

強い雨に晒されないように、前かがみだった僕は前方から来る人に思わずぶつかってしまった。

「っあ!ごめんなさい、僕見てなくて。」

失礼だと思い、慌ててフードを取る。

「良いよ、全然。こんな大雨の中そんなに走ってどうしたんだ?」

面を上げて見てみれば、そこにはシヴァン先輩がいた。
思いがけない再会にびっくり半分、嬉しさも込み上げてくる。

「シヴァン先輩!」

「ほら、雨に濡れたら風邪ひくから、こっちおいで。」

そう優しい口調で僕の腰を引く。
先輩の腕の下に潜り込むような形になると、何故か無性に早くなる鼓動が少し恥ずかしくもなった。

「…っ、あれ?」

ふと、降り続いていた雨が不思議と当たっていないことに気がついた。

よく見れば先輩は濡れてすらいない。

「シヴァン先輩、どうして濡れてないんですか?こんな大雨なのに…」

純粋な疑問をそのまま先輩にぶつける。

「濡れないって言うか、なんと言うか。まぁ、あれだ、水使いだからだな。 」

「先輩、僕のことからかってるでしょ。」

「まぁまぁ、でも大体合ってるよ。」

そう言ってカラッと笑う先輩。
それにつられ、空がスッと少し雨が弱まった気がした。

「今日は何かしたい事あるのか?」

そうシヴァン先輩は聞いてきた。

「実は…」

とある言葉を聞いてから、ずっとしたかった事を提案してみることにした。
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