26 / 31
26話
しおりを挟む
「実は…美味しいクッキー、お土産で貰ったんです!なのでその、」
お土産を貰ったのは事実だ。この前孤児院から近況を聞く手紙と共に送られてきたのだ。
先輩と食べようと思ったが、如何せん先輩はダンジョンへ王令で出張中だった。
僕の部屋にも来ませんか?
その一言が喉奥に突っかかり、中々言えなかった。
前回、先輩がお前の部屋にも行くなんて言っていたのを鵜呑みにして、意を決したが。
自室に誘うのは、少しはしたなく見えるだろうか?
いつもなら調子良く誘っているであろう僕は、そんな葛藤に頭を悩ませる。
最近、どうも調子が狂っているようで。僕らしくない僕が居るような気もしていた。
「なんだ?一緒に食べようってお誘いかー?」
うじうじとした僕に助け舟を出すかのように、先輩はそう言ってくれた。
ハッと見上げれば、存外近くにあった先輩の顔に思わず時計の針が止まるような、周りの音が消えるくらいシヴァン先輩に目を奪われてしまった。
絡む視線に気がつけば、息苦しいくらいに鳴る心臓が僕を現実に引き戻す。
「…そうです。なので、少しだけ僕の部屋でお茶していきませんか?」
「へーぇ、ドアから凝ってるな。相当思い入れ強いんだろ。」
「…そうなんですかね?でも、僕の実家に近しい感じがします。完全に同じって訳じゃないですけどね!」
シヴァン先輩を部屋の前まで案内し、もう既に僕の手に馴染んだドアノブに手をかける。
カチャン、と子気味のいい音と共に木製の扉が開く。
「じゃあシヴァン先輩、どうぞ中に入ってください!」
「ん、ありがと。」
微笑みを零しながら、先輩は中に入っていった。
僕も続き、暖炉前のテーブルに案内する。
布を張ったソファに座ったシヴァン先輩は辺りを眺めほっと息をついていた。
「…凄いな、ログハウスか。良く似てるな。」
「似てる?」
先輩は確か、エルディア出身のような話しぶりだったから豪雪地帯のないここではあまり見ないと思っていたけど。
まぁ、でもシヴァン先輩は色んな国に行ってそうだから分かんないなぁ。
「あぁ、1度見た事があってな。その街の家と雰囲気が似ていて。こういう家も楽しいだろうな。」
棚に置いてあった、ハルラスがオススメしていた紅茶を取り出し、お湯の張ったティーポットに茶葉を入れた。
クッキー缶と一緒に先輩の元へ持っていく。
「先輩、色んなところ行ってるんですね。良いなぁ、僕も色んなところを旅行するのがちょっと夢です。」
コト、と先輩の前にカップを置き僕も向かいの席に座ろうとする。
「あれ、フレイそっち?てっきり俺の隣に座るかと思ってたのに。」
おいで。そう言って手をちょいちょいと手招きする先輩。
お言葉に甘えて(?)即隣に移動した。
クッキー缶を早速開ければ、色んな形や味のクッキーが、2,3枚ずつ入っていた。センスの良さに思わず感嘆を漏らす。
「ふはっ、こういうの好きなのか?甘いものとか、可愛いのとかさ。」
1つ貰うぞ。そう言って端にあるスノーボールを手に取り口に運んだ。
僕も一緒にジャムが中心に入ったクッキーを口に運ぶ。やっぱり想像したとおり、いやそれ以上に美味しく感じる。
「はい、お菓子とか凄い好きです!でも僕、1人より誰かとこうやって一緒に食べるのが好きで。なので今日はシヴァン先輩を誘えて良かったです。」
カモミールの香りがする紅茶は僕の心を落ち着かせていたのか。さっきよりも先輩とちゃんと喋れている気がした。
「そうか。じゃあ、またどこかに行ってきたら買ってくるから、俺と一緒に食べないか?まぁ、一緒に行くのも全然…」
最後の方は正直くぐもっていてあまり聞こえなかったけど。
先輩は今度お土産をくれるらしい!
「本当ですか!じゃあ、また紅茶用意して待ってますね!」
僕も少し調子よく、その答えに返す。
パチパチと、時折薪の水分が抜ける音と共に2人の笑い会う声が混じり合う。
エルディアの急な雨は止み、虹が東の空に掛っていた。時間はゆっくりと進んでいき、西日をキラキラと水溜まりが反射している。
部屋の中にいる2人には、しんしんと降る雪が窓から見えるだけだった。
お土産を貰ったのは事実だ。この前孤児院から近況を聞く手紙と共に送られてきたのだ。
先輩と食べようと思ったが、如何せん先輩はダンジョンへ王令で出張中だった。
僕の部屋にも来ませんか?
その一言が喉奥に突っかかり、中々言えなかった。
前回、先輩がお前の部屋にも行くなんて言っていたのを鵜呑みにして、意を決したが。
自室に誘うのは、少しはしたなく見えるだろうか?
いつもなら調子良く誘っているであろう僕は、そんな葛藤に頭を悩ませる。
最近、どうも調子が狂っているようで。僕らしくない僕が居るような気もしていた。
「なんだ?一緒に食べようってお誘いかー?」
うじうじとした僕に助け舟を出すかのように、先輩はそう言ってくれた。
ハッと見上げれば、存外近くにあった先輩の顔に思わず時計の針が止まるような、周りの音が消えるくらいシヴァン先輩に目を奪われてしまった。
絡む視線に気がつけば、息苦しいくらいに鳴る心臓が僕を現実に引き戻す。
「…そうです。なので、少しだけ僕の部屋でお茶していきませんか?」
「へーぇ、ドアから凝ってるな。相当思い入れ強いんだろ。」
「…そうなんですかね?でも、僕の実家に近しい感じがします。完全に同じって訳じゃないですけどね!」
シヴァン先輩を部屋の前まで案内し、もう既に僕の手に馴染んだドアノブに手をかける。
カチャン、と子気味のいい音と共に木製の扉が開く。
「じゃあシヴァン先輩、どうぞ中に入ってください!」
「ん、ありがと。」
微笑みを零しながら、先輩は中に入っていった。
僕も続き、暖炉前のテーブルに案内する。
布を張ったソファに座ったシヴァン先輩は辺りを眺めほっと息をついていた。
「…凄いな、ログハウスか。良く似てるな。」
「似てる?」
先輩は確か、エルディア出身のような話しぶりだったから豪雪地帯のないここではあまり見ないと思っていたけど。
まぁ、でもシヴァン先輩は色んな国に行ってそうだから分かんないなぁ。
「あぁ、1度見た事があってな。その街の家と雰囲気が似ていて。こういう家も楽しいだろうな。」
棚に置いてあった、ハルラスがオススメしていた紅茶を取り出し、お湯の張ったティーポットに茶葉を入れた。
クッキー缶と一緒に先輩の元へ持っていく。
「先輩、色んなところ行ってるんですね。良いなぁ、僕も色んなところを旅行するのがちょっと夢です。」
コト、と先輩の前にカップを置き僕も向かいの席に座ろうとする。
「あれ、フレイそっち?てっきり俺の隣に座るかと思ってたのに。」
おいで。そう言って手をちょいちょいと手招きする先輩。
お言葉に甘えて(?)即隣に移動した。
クッキー缶を早速開ければ、色んな形や味のクッキーが、2,3枚ずつ入っていた。センスの良さに思わず感嘆を漏らす。
「ふはっ、こういうの好きなのか?甘いものとか、可愛いのとかさ。」
1つ貰うぞ。そう言って端にあるスノーボールを手に取り口に運んだ。
僕も一緒にジャムが中心に入ったクッキーを口に運ぶ。やっぱり想像したとおり、いやそれ以上に美味しく感じる。
「はい、お菓子とか凄い好きです!でも僕、1人より誰かとこうやって一緒に食べるのが好きで。なので今日はシヴァン先輩を誘えて良かったです。」
カモミールの香りがする紅茶は僕の心を落ち着かせていたのか。さっきよりも先輩とちゃんと喋れている気がした。
「そうか。じゃあ、またどこかに行ってきたら買ってくるから、俺と一緒に食べないか?まぁ、一緒に行くのも全然…」
最後の方は正直くぐもっていてあまり聞こえなかったけど。
先輩は今度お土産をくれるらしい!
「本当ですか!じゃあ、また紅茶用意して待ってますね!」
僕も少し調子よく、その答えに返す。
パチパチと、時折薪の水分が抜ける音と共に2人の笑い会う声が混じり合う。
エルディアの急な雨は止み、虹が東の空に掛っていた。時間はゆっくりと進んでいき、西日をキラキラと水溜まりが反射している。
部屋の中にいる2人には、しんしんと降る雪が窓から見えるだけだった。
11
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる