ある雪の降る日に

喜市

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29話

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ーーーー春の3月、朝2刻
 
ピロロロ…
怪鳥の小鳥が軽快な鳴き声を上げている。


長閑な陽光がさんさんとこの広場に降り注ぐ。
いつもなら今頃、この春の温かさにうとうととまどろみ始めるだろう。

だが今日の僕は少し、いや大分緊張していた。
もう心臓バックバク。

何故なら今日は待ちに待った新歓旅行の«チーム決め»の日だ。
1~3年生は皆主に屋外に呼び出され、大体寮ごとでバラけて先輩に誘われる(半分誘拐される)のを待つ、らしい。

朝に先生が頭を抱えながら説明していたが、怪我が無いよう十分気をつけるように、と何度も言っていたのを思い出す。

いや、どんだけヤバいのこの行事?
なんか、鍛えるとか言っていたシヴァン先輩も日に日にゴツ…強そうになっていたような?

考え事をしながら、高く澄んだ青空を見上げる。
太陽の眩しさに左手をかざせば、腕にはめたミサンガが視界に入った。

これ、昨日の放課後にシヴァン先輩から貰ったんだよな。

思い出したかのようにそれを撫でれば、不思議と水泡のような、透き通った儚い雫を思わせる魔力を感じた。
これはシヴァン先輩の魔力だろう。魔道具を自作してるって言っていたし。

「それにしても、高純度な魔力…」

この小さなミサンガからでさえ、シヴァン先輩の実力がどれ程ハイクラスであるのかが伺えてしまう。

太陽の光に照らされ、キラキラした1本の糸は水が流れるような、そんな反射の仕方をしていた。


かざした手の奥には真っ青な空には似つかわしい暗黒色の羽を広げた鳥が飛んでいて。

その姿はみるみるうちに眼前に広がって行って、

「ーーーーえ」

気づいた頃には、僕はもう地上にいなかった。

広場にいる生徒にざわめきを与える余裕も無いうちに、高度を上げていく僕の体は先程まで空を飛んでいた、あの暗黒の羽を持つレイブン鳥に捕まれている。

「なっ、なにこれ、ちょ、ちょっと待って!やばい、これ落ちたら」

死んでしまう、そんな考えが頭をよぎり体の芯まで震え上がってしまう。

状況が上手く飲み込めず、体が硬直している。
思わず下を見れば、結構な高さに来てしまったようで足が竦む思いだったが、それ以上に下も悲惨だった。  

ようやく先生が頭を抱えていた理由が分かった気がする。
これは、確かに争奪だ。

争奪戦は始まったみたい。

広場を見渡す限り、紳士的に誘っている先輩は全く見当たらない(見えてないだけ?)。
地上ではボコスカと雷や風が巻き起こっているのが見える。

…なんか、空中こっちの方が安全な気がしてきた。

意外と安定感のあるレイブン鳥に抱えられたまま、僕はどこまで行くのだろうか。その悩みだけがずっと残った。
何で僕は先輩じゃなくて鳥に誘拐されてるの?

諦めモードでちょっとばかりいじけていると、すぅっと時計台から一筋の光が目の前まで走ってきた。
それに気づいたのか、レイブン鳥もその赤く光るそれを前に動きを止める。

その光はつうっ…と僕の目の前で回った後、僕の頭上にいる鳥の顔の方に向かって行った。



バンッッッッ



その赤い光は、レイブン鳥の顔付近に着くなりけたたましい爆音とともに白いモヤのような煙になった。

声を上げる間もなく、ロック鳥は気絶し下降を始める。

「…っえ、え、ええぇぇぇぇっっ!?」

支えの無くなった僕の体はロック鳥の鉤爪に引っ張られるようにしてどんどん速度を上げながら落ちていく。

あまりの出来事に気を失いそうになりながら、必死で目をつぶる。

「う゛ぁっ!?」

ローブに着いているフードを引っ張られ、宙ぶらりんになるようにして、また僕は空中に浮いた。

ガクンと降下が止まった拍子に、思わず声が漏れてしまう。

浮いた僕の足元では、落ちていったロック鳥が空中で砂のように消えていく光景が見えた。
あれはだったんだ。

そんな事を考えている暇なんてなく、相変わらず僕のフードを掴んでいる上級生であろう人が声をかけてきた。

「ねぇー、大丈夫?」

気だるげな声でそう問うその人。
多分さっきの光の招待はこの先輩なのだろう。幻術使いか、はたまた高位魔法か。

「はい…いや、やっぱり大丈夫じゃないので足が着くところに行きたいです。」

正直このままいられても先に僕の限界が来てしまう。

「ふーん。良いけど、じゃあチーム一緒に組んでよね?俺、助けてやったんだからさ。」

そう言ってその人は紙を1枚僕の前に飛ばしてきた。
思わず見上げてみたが、なんせフードを捕まえられているもんで先輩の姿は全く見えない。見えるのはローブの裏地だけだ。

…本当は、シヴァン先輩に誘ってもらいたかったんだけどな。

「どうすんの?別に、こっから落としても良いんだけど。」

いやいや怖すぎ、脅し方とかもうヤ〇ザかな?

足元にある遠くの時計台はまだ2刻を少し過ぎた所だ。まだ全然時間が経っていなかったことに驚きつつ、シヴァン先輩はもしかして来てくれないんじゃないか、そんな想像が頭を巡る。

「おーい」

「うわ、もっ、分かりましたからぁ!」

グラグラと体を揺らされるだけで、僕の生死は全然、この頭上の先輩が握っているということに気付かされてしまう。

もう、待ってても無駄か。そう思い紙に手を伸ばす。
それを見た先輩も揺らすのをとめ、こちらを見ているのか、視線が刺さるのをひしひしと背中で感じる。


「ーーーなぁ、ってあれじゃねぇか?」

ふと、後ろから急にそんな声が聞こえてきた。

その声が聞こえて来る方に視線を向ければ、そこには竜族の先輩がポツンと浮かんでいる。
その周辺にはさっきの声を皮切りに、徐々に人が集まりだしていて。

「チッ…」

頭上の先輩は舌打ちをすると、僕の体を軽く引きあげて横抱きにした。

安定したところに収まった…と思うのも束の間、その先輩は僕を抱えたまま勢いよく降下して行った。

「ぁ、わ、またぁっ!?」

その先輩はビュンビュンと音を立てて鋭い降下を始める。
レイブン鳥なんて比じゃないくらい、空を切って行く先輩にとてつもない恐怖を感じた。

落ちていくまま上を見れば、そこにも降下を始めていた生徒が5、6人着いてきている。


怖い、怖い、なにこれ、何で僕なんかが…

グルグルと僕を渦巻く思考は、恐怖を増長させる。
ぶるぶると震える手で左手にはめたミサンガにそっと重ねた。

シヴァン先輩、助けて

恐怖に打ち震えて絞るようにして出た涙も、憎いほど青々とした空に吸い込まれていく。

あまりに強く重ねた手からは少しづつ、春の暖かい気候には似つかない極寒の冷気が隙間から流れ出ていた。
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