異界育ちの幻使い

yasunari311

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5話

ひと息、夜の帳にて

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倒れた異形は数えきれなかった。
 駅前ロータリーのあちこちに、崩れた肉塊が転がっている。

 その中心に、アヤトはひとり立っていた。
 静かに、深く、息を吐く。

 

「──父上との修行に比べりゃ……」
 苦笑まじりに、ぽつりとこぼす。
「これしき、どうということもねぇな」

 

 肩、腕、脚、胴、兜──全身にまとっていた幻装は健在。
 今すぐ再戦できるほど、威圧を保ったままだった。

 だが、周囲にもう異形の影はない。
 すべてを捻じ伏せ、終わらせた。

 

 空気に、ようやく静けさが戻る。
 昼だった空は、いつの間にか夜に変わっていた。

 駅の看板が、かろうじて街を照らしている。

 

 アヤトはひとつ、首を回す。
 骨が鳴る。

 ──肉体は無傷。
 幻装によって補強された肉体は、すべての攻撃に耐え、反撃し、押し切った。

 それでも、疲労はあった。

 

 幻を展開し続けた反動は、体の奥にじんわりと積もる。
 骨でも筋肉でもない、“気力”が削られるような疲れ。

 

「……ふぅ」

 アヤトは幻装を解除した。
 鎧のような幻が、光とともにほどけ、夜風に溶けていく。

 とたんに、全身が重くなった。

 

 ──そして、膝をついた。
 片膝がアスファルトに触れ、かすかに音を立てる。

 

 ひどく静かな夜だった。
 風に混じる、血と鉄の匂い。

 空には月はなく、ビルの隙間から星がひとつだけ瞬いていた。

 

 アヤトは、それを黙って見上げていた。
 何も言わず、ただ静かに、そこにいた。

 

 膝をついても、敗北ではない。
 幻装を解いても、諦めたわけではない。

 

 ──意味を考えていたら、立ち止まる。
 やるべきことをやった。それだけだ。

 

 風が吹く。瓦礫が鳴る。
 どこかで、まだ“生きている”街の音がした。

 

 アヤトはゆっくりと立ち上がる。
 疲労の中でも、その姿勢に迷いはなかった。

 

「……まだ、終わっちゃいねぇか」

 誰に向けるでもなく、ひとりごちた。

 

 その声を、誰も聞いていない。
 ただ、街が黙って彼を見送っていた。

 

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