異界育ちの幻使い

yasunari311

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7話

陽の差す方へ

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 まぶたの裏に、じんわりと光が滲む。
 アヤトはゆっくりと目を開けた。

 ──朝だった。

 風が静かに吹いている。
 地面の感触は冷たく、背中に感じる金属の硬さが現実に引き戻す。

 ここは、自動販売機の裏手。
 昨夜、大群の異形と戦った直後、アヤトは幻で姿を曖昧にし、この陰に身を潜めていたのだった。

 壁にもたれた体勢のまま、しばらく動かずにいた。
 幻はまだ続いている。が、もう見つかる気配はない。

「……よう寝たな」

 かすれた声で、ひとりごちる。
 体に痛みはない。だが、疲労は確実に蓄積していた。

 幻装──全身に幻を纏った状態での戦闘。
 傷は避けられたが、気力と体力は削られる。
 全身が重い。

 それでも、父上との稽古に比べれば──これしき。
 戦うこと自体が、彼にとっては特別ではない。

 立ち上がろうとして、腰に手を当て、ゆっくりと背筋を伸ばす。
 筋肉が軋むように重く感じた。

 冷たい空気が頬をなでた。
 街に差す朝の光は白く乾いている。

 アヤトは、周囲を見渡した。

 地面には乾いた血が染み、破れた肉片のような残骸が点々と転がっている。
 ビルの外壁は抉れ、電灯は片側に傾いていた。
 壊れた看板が倒れ、焦げたコーンが風に転がっていく。

 焦げ臭さ、鉄の匂い、そして……異形の残した異様な臭気が、まだ空気に混じって漂っていた。

「……ちゃんと、いた痕跡だな」

 かすれた息で、吐き捨てるように言う。

 昨夜の戦いが幻ではないことは、身体の奥がよく知っている。
 ただの“悪夢”ではない。現実の戦いだった。
 この静寂こそが、むしろ異常だった。

 ──なぜ、異形が現れたのか。
 なぜ、人の気配が完全に消えたのか。

 誰も答えてくれない問いが、胸の奥で燻っている。

(……一度、帰るか)

 ここにいても、答えは出ない。
 異界に戻り、あの方たちに話を聞くしかない。

 師匠。
 そして、母上。
 彼女たちなら、この異常の原因を何か知っているかもしれない。

(……母上、師匠。誰か、気づいてるか)

 アヤトは目を閉じ、短く息を整える。
 そして、母上から授かった術式を発動した。

 空気が微かにきらめき、周囲の風景がゆっくりと歪む。
 陽光の中、ぼやけるようにして“通路”が現れた。

 ──異界への帰還手段だった。

 最後に一度だけ、街を見渡す。

 朝の光は、あらゆるものを静かに照らしていた。
 だが、その光景の片隅には、確かに“地獄の名残”が焼き付いている。

 自販機は沈黙し、街灯は傾き、血の跡が乾いている。
 風に乗って、どこか焦げたような匂いが鼻をついた。

「……異界より、こっちの方がよほど現実離れしてやがる」

 アヤトは通路へと足を踏み出す。
 光の向こう、懐かしくも不穏な異界が、彼を待っていた。

 

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