異界育ちの幻使い

yasunari311

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12話

蠢くものの罠

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 それは──遠くで破裂音のような何かが響いたのが、始まりだった。

 空気が揺れた。乾いた風に混じって、ひどく不快な振動が鼓膜を叩く。耳ではなく、身体の奥に刺さるような異常な気配。

「……誘ってやがるな」

 アヤトは地面を蹴った。爆音とともに路面がひび割れ、粉塵が舞う。幻をまとった身体は一気に加速し、音を引き裂きながら前方へ跳ぶ。

 ひと跳びでビルを越え、軌道を描くことなく、地面へと落ちる──というより、撃ち抜く。地表が衝撃で砕け、アスファルトが爆ぜる。

 続く破裂音。──今度は一つではない。複数の鼓動のような音が連続し、街全体が“呼吸している”かのように感じられた。

(こっちを誘ってる……隠れてる気配じゃねえ。あからさまに“見つけさせよう”としてやがる)

 完全な罠だった。だがアヤトは止まらなかった。わずかでも生存者が囚われている可能性があるなら、見過ごすわけにはいかなかった。

 音の中心へ近づくにつれ、街の様子が変わっていく。崩れた建物、割れた窓、色褪せた看板──そのすべてが朽ち果てていく中、中央部だけが不自然に“静か”だった。

 異形が群れていた。

 道路、建物の屋上、窓枠の影──数十、あるいはそれ以上。腐敗と硬質が入り混じった異形たちが、まるで静止した映像のように動かず、ただ“待っている”。

 そして、その中心に──いた。

 ひときわ異質な存在。

 殻に覆われた胴体は滑らかに脈動し、そこから生える四肢は人間のようでありながら、関節が逆向きに折れ曲がっていた。掌の先には爪とも刃ともつかぬ突起。全身がまるで“兵器”のように設計されているかのようだった。

 首にあたる部分はなく、胴から直接伸びた頭部の左右に、複眼のような眼がぬるりと動く。その眼が、アヤトを捉えた。

(……あれが核か)

 異形に統率があるなど、本来あり得ない。だが、あの存在を中心に、異形たちはまるで兵士のように配置されていた。

 その視線に、確かな“意志”があった。呼び寄せ、罠にかけ、迎え撃つ──そんな、明確な悪意。

 同時に、周囲の異形たちがゆっくりと動き始める。軋むように身を起こし、咽喉の奥で異様な音を鳴らす。どこか──“喜んでいる”ようにも見えた。

「……わかりやすくて助かるぜ」

 アヤトはひと息つき、姿勢を低く構えた。幻がその身体を包み直し、気配を鋭く絞り込む。

 狙うはただひとつ。

 この群れの“核”──あの異形の存在だけだ。
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