異界育ちの幻使い

yasunari311

文字の大きさ
14 / 51
14話

模倣する影

しおりを挟む


 ──足音。

 砕けた地面に粉塵が舞う中、異形たちの群れがうごめいていた。

 咆哮もなく、ただ静かに、無数の目がアヤトを見据えている。その中央──まるで波が割れるように、異形たちが左右へと散った。

 重く、乾いた足音が、ゆっくりと地を打つ。現れたのは──異形。しかし、それは他とまるで異なる存在だった。

 黒と銀の外殻を纏い、全身は人型。異様なほど整った四肢。肩幅、重心、立ち姿……そのすべてが、アヤトの“幻装”に酷似していた。

 異形たちはまるでこの個体に“道を譲る”かのように静まり、動きを止める。

 アヤトはわずかに目を細めた。

「……気色悪い真似しやがって」

 異形は反応するように、口らしき部位をぬるりと開いた。濁った声が漏れる。

「ツヨイ……オマエ……クエバ……モット……ツヨク……ナレル」

 その言葉の端には、確かな“知性”と“欲望”が滲んでいた。

(……喋る、だと?)

 アヤトは直感する。こいつは、ただの異形ではない。

 自分を“模している”。幻装の形だけではない。構え、立ち振る舞い、その戦気──すべてがアヤトを真似ていた。

 そして、この模倣体を中心に、異形の群れがまるで兵士のように整列している。

 ──群れの中枢は、こいつだ。

 周囲の異形たちがざわめきを取り戻す。肉の擦れる音、甲殻の軋みが空気を震わせた。

 模倣体がゆっくりと右腕を掲げる。その動きに呼応するように、異形たちが一斉に吠えた。獣の咆哮ではない。どこか機械的で、だが確かに殺意に満ちた“命令の声”。

 それだけで、群れ全体がじわじわと前へにじり寄ってくる。

「……やっぱ、こいつが“指揮”してるってわけかよ」

 アヤトは苦笑しつつ、幻をまとった両手を開く。肩を落とし、重心を下げる。模倣体の気配は不気味なまでに静かで──だが、本能が告げていた。

 戦えば、ただでは済まない。

 しかも周囲にはまだ異形の大群がいる。

 ──だが。

「上等だ。まとめてやってやろうじゃねぇか」

 言葉と同時に、アヤトの幻装が淡く輝きを増す。肩から腕、脚から胸元へと幻の筋が浮かび、力が集束していく。

 先に動いたのは模倣体だった。

 足元を叩き割る踏み込み。鋭く突き出された外殻の腕は、まるで幻装を模したような形状をしていた。反応速度も、重さも、破壊力も──常軌を逸している。

 アヤトは一歩退き、滑るように攻撃をいなす。その刹那、左右と背後から異形の群れが殺到した。

 正面には“自分のような敵”、四方には無数の異形。

 ──状況は最悪だ。

 だが。

「だからこそ、燃えるんだよな」

 アヤトは地を踏み割り、大きく跳んだ。

 狙いはただひとつ──
 己を真似た異形に、“本物”の違いを叩き込むために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

蒼き樹海の案内人

蒼月よる
ファンタジー
辺境の森で育った少年ユーリには、不思議な目がある。魔素の流れが光の粒として見えるのだ。 蒼の樹海——人を喰らう巨大な森に足を踏み入れた彼は、遺跡屋の青年カイと出会い、冒険者として歩み始める。樹海の奥に眠る遺跡、港街の裏に潜む陰謀、灰に覆われた滅びの国、そして首都に隠された世界の秘密。 仲間と共に世界を巡るうちに、ユーリは気づいていく。この世界の「魔法」も「神」も、すべてが何かの残骸なのではないか——と。 冒険・バトル・素材経済・食文化を軸に、ファンタジーの裏に潜むSF的真実へと辿り着く、全4巻の冒険ファンタジー。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

壊獄の浄祓師

はといるか
ファンタジー
 人の悪面から生まれ落ちた穢れしモノ「穢者」  それらに対抗する力、浄力を操り穢者を排除すべく戦う「浄祓師」。  普通の高校生活を送っていた坂宮幽斗はとある事件によって浄穢の戦いに巻き込まれてしまう。  守るべきものの為に幽斗は浄祓師として戦いに身を投じていく。  

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...