異界育ちの幻使い

yasunari311

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16話

鬼火

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 ──模倣体の読み通り、このまま“削られ続ければ”終わる。

 アヤトは理解していた。だが、それでも止まる気はなかった。

(こっちは、“本物”の力だ)

 再び群れの中へ斬り込む。迫る爪と牙をさばきながら、肩越しに気配を探る。模倣体の動きが──また、消えた。

 背後から仕留めに来るつもりだ。

 ならば──こちらも、切り札を使うしかない。

「……ったく、使うつもりなかったんだけどな」

 右腕を低く構え、アヤトは微かに笑う。

 幻装の内側。血脈の奥が、じわりと熱を帯びる。

 ──育ての親から受け継いだ、鬼の力。

 アヤトは鬼ではない。だがその身には、確かに鬼由来の“業火”が刻まれていた。

(姉貴みてぇには、上手く扱えねぇが……)

 右掌に灯ったのは、幻ではない現実の熱──朱の鬼火。

 うねる炎が暴れ、熱をまとう。

「──喰らえ、“鬼火”」

 解き放たれた瞬間、爆風が地を抉った。

 怒りを叩きつけるような熱波。爆裂する鬼火が爆風とともに広がり、周囲の異形を片っ端から焼き払い、弾き飛ばす。

 肩口から放たれた炎は、拡散しながらも一点を狙っていた。──模倣体。

 咄嗟に腕で身を庇ったが、遅い。

 炸裂する火撃が、外殻を焼き裂き──その身体を吹き飛ばす。

「グ……ア……アァア……!」

 咆哮。あれほど冷静だった模倣体が、初めて悲鳴を上げた。

 黒煙が立ち込め、アヤトは片膝をつく。

(……クソ……持ってかれるな、やっぱ……)

 これは幻の力ではない。扱い慣れていない“異質な力”だ。反動は大きく、膝に震えが走る。

 だが、それでも──形勢は明らかに傾いた。

 模倣体は明確に“怯んだ”。

「……どうした、“模写”野郎。追いつけねぇか?」

 ゆっくりと立ち上がる。アヤトの周囲には、焦げた異形の残骸が散っていた。

 模倣体は構え直す。だが、さっきまでの余裕はない。

 ──次で、決める。

 アヤトの視線が、黒煙の向こう──戦場の中心へと定まった。

 崩れた外殻。潰れた複眼。焼け爛れた肉。模倣体は、見るも無惨な姿をさらしていた。

 それでも──まだ、生きている。

 アヤトが踏み込もうとした、その刹那。

 模倣体が地を蹴った。

「──逃げる気かよ」

 追おうとする足が、止まる。鬼火の反動。幻装の消耗。今、無理をすれば倒れるのは自分だ。

 模倣体は、地を這うようにして逃げる。その速度は、なおも驚異的だった。

 黒煙に紛れ、影が建物の裏へと消え──姿を失う。

 アヤトは歯噛みしながら、拳を握りしめた。

「……ちっ。仕留め損ねたか」

 だが、勝ちは勝ちだ。異形の群れは殲滅。指揮官も致命傷。次に出くわす時には、二度と逃がしはしない。

「……あれほど執拗に、仕掛けてきたくせによ」

 崩れた壁にもたれ、アヤトは腰を下ろす。

 眼前には、焼き尽くされた異形たち。風に舞うのは、焦げた灰と血の臭い。

 ──勝利。しかし、完勝ではない。

(次は……確実に、仕留める)

 静かに目を閉じ、煙に霞む空を見上げた。
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