異界育ちの幻使い

yasunari311

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26話

幻は、誰の姿か

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 身体が、動かない。
 仰向けに倒れたまま、空を見ていた。

 幻装は砕け、息は浅く、胸が焼けるように痛む。
 姉貴はすでに立ち上がっていたが、俺は──起き上がれなかった。

「アタシは、まだやれたけどね。……あんたはどう?」

 背を向けたまま、姉貴の声が届く。
 けれど、俺は何も言えなかった。

 ──負けた。

 命を削るように戦った。
 それでも、父上には届かなかった。

 姉貴とふたりで、連携して、全力で挑んでも。
 傷ひとつつけることすら、できなかった。

(……これじゃ、世界は救えない)

 歯を食いしばる。
 空が、やけに青くて──腹立たしいほどだった。

(やっぱり……ダメだ。俺の幻は、ただの幻に過ぎない)

 何度も感じていた不安が、今回ばかりは“確信”になった。
 力不足。届かない現実。
 幻じゃ、何も変えられない。

 砕ける。揺らぐ。
 そんな脆さで、誰かを守れるはずがない。

 ──そう思ったのに、心の奥で、別の声がした。

(……違う。俺は、“幻でしかない”んじゃない)

 喉の奥が苦しくて、胸が詰まりそうで、
 でも、逃げるように閉じたまぶたの裏に、あの背中が浮かんだ。

 ただ立っているだけで、空気が変わる。
 声ひとつなくても、抗いがたい威圧を放つ姿。

(……あれが、“在る”ってことだ)

 父上は、そこに立つだけで強い。
 語らずとも示す、揺るがぬ強さ。

 ──ずっと、背を追ってきた。

(なら、俺が……纏えばいい)

 幻が、わずかに揺れる。

 俺は“幻を操る者”。
 なら、ただ力を模倣するんじゃなく、あの“在り方”を再現すればいい。

(父上の姿を、俺の幻で──)

 幻だからこそ、辿り着けるかもしれない。
 幻だからこそ、あの背中を纏える。

(……俺の幻は、誰のためにある)

 そう問うた瞬間、ぼんやりとしていた心の景色が、わずかに輪郭を持った。

 ──そのとき。

 ごつん、と額に衝撃。

「……いって!」

 目の前に姉貴がいた。
 拳を引きながら、じろりと睨んでいる。

「無視すんなよ。……聞こえてんだろ、アタシの声」

 その一言が、胸にじわりと刺さる。

「……すまん。考えごとしてた」

「考えすぎて沈むくらいなら、殴ってやろうと思ってな」

 姉貴が鼻を鳴らす。
 どこか、優しさの滲んだ声音だった。

「──ありがとな」

「ったく。……次はちゃんと並んで立て。アタシが前を張るからさ」

 言い終えると、姉貴はくるりと背を向ける。
 俺はその背中を見て、小さく笑った。

 ──このままじゃ、終われない。
 けれど、“まだ先がある”と、ほんの少しだけ思えた。
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