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26話
幻は、誰の姿か
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身体が、動かない。
仰向けに倒れたまま、空を見ていた。
幻装は砕け、息は浅く、胸が焼けるように痛む。
姉貴はすでに立ち上がっていたが、俺は──起き上がれなかった。
「アタシは、まだやれたけどね。……あんたはどう?」
背を向けたまま、姉貴の声が届く。
けれど、俺は何も言えなかった。
──負けた。
命を削るように戦った。
それでも、父上には届かなかった。
姉貴とふたりで、連携して、全力で挑んでも。
傷ひとつつけることすら、できなかった。
(……これじゃ、世界は救えない)
歯を食いしばる。
空が、やけに青くて──腹立たしいほどだった。
(やっぱり……ダメだ。俺の幻は、ただの幻に過ぎない)
何度も感じていた不安が、今回ばかりは“確信”になった。
力不足。届かない現実。
幻じゃ、何も変えられない。
砕ける。揺らぐ。
そんな脆さで、誰かを守れるはずがない。
──そう思ったのに、心の奥で、別の声がした。
(……違う。俺は、“幻でしかない”んじゃない)
喉の奥が苦しくて、胸が詰まりそうで、
でも、逃げるように閉じたまぶたの裏に、あの背中が浮かんだ。
ただ立っているだけで、空気が変わる。
声ひとつなくても、抗いがたい威圧を放つ姿。
(……あれが、“在る”ってことだ)
父上は、そこに立つだけで強い。
語らずとも示す、揺るがぬ強さ。
──ずっと、背を追ってきた。
(なら、俺が……纏えばいい)
幻が、わずかに揺れる。
俺は“幻を操る者”。
なら、ただ力を模倣するんじゃなく、あの“在り方”を再現すればいい。
(父上の姿を、俺の幻で──)
幻だからこそ、辿り着けるかもしれない。
幻だからこそ、あの背中を纏える。
(……俺の幻は、誰のためにある)
そう問うた瞬間、ぼんやりとしていた心の景色が、わずかに輪郭を持った。
──そのとき。
ごつん、と額に衝撃。
「……いって!」
目の前に姉貴がいた。
拳を引きながら、じろりと睨んでいる。
「無視すんなよ。……聞こえてんだろ、アタシの声」
その一言が、胸にじわりと刺さる。
「……すまん。考えごとしてた」
「考えすぎて沈むくらいなら、殴ってやろうと思ってな」
姉貴が鼻を鳴らす。
どこか、優しさの滲んだ声音だった。
「──ありがとな」
「ったく。……次はちゃんと並んで立て。アタシが前を張るからさ」
言い終えると、姉貴はくるりと背を向ける。
俺はその背中を見て、小さく笑った。
──このままじゃ、終われない。
けれど、“まだ先がある”と、ほんの少しだけ思えた。
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