異界育ちの幻使い

yasunari311

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34話

幻装の代償

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 息が、まだ荒かった。

 模倣体は沈黙した。完全に、動かなくなった。
 それでも、俺の中では“戦い”が終わっていなかった。

 ──幻装、究極の一閃。

 一瞬の解放。だが、それは全身を焼くような激痛と共に訪れた。

 今もなお、拳がじんじんと痛む。骨の奥から響くような感覚だ。筋肉も、神経も、芯から痺れている。

 幻の力は、強い。だが──代償も、でかい。

 

 「……はぁ、はぁ……ったく、無茶したな……」

 声が漏れる。
 自分でも気づかないほど、脚がふらついていた。

 幻装は、すでに解けていた。
 黒鉄の鎧も、兜の影も、今はもうない。
 ただ、着慣れた衣服だけが、俺の身を包んでいる。

 それなのに──重い。

 まるで、鎧がまだ肩に残っているかのような感覚。

 

 ──脈が乱れてる。筋繊維も、幻の力と無理に融合させたせいで、ズタズタだ。

 わかってた。最初から。
 今の俺には、あれを使いこなすには早すぎるってことくらい。

 ……それでも、やらなきゃならなかった。

 模倣体は、あの時の“俺”の延長だった。
 過去の傷のような存在。だからこそ、逃げずに終わらせたかった。

 

 「──やれやれ。次は師匠の縁のある場所か……」

 ぼそりと呟いたあと、歩き出す。

 けれど、すぐに足が止まった。

 膝が笑った。

 体温が、脚から抜けていくような感覚。
 幻装を解いたあとの“空白”が、全身に広がっていく。

 

 「……っとと。……マジで、やばいな」

 ふらりと電柱に背を預け、深く息をつく。

 意識はある。だが、体がついてこない。
 幻の暴走ではない。ただ、純粋な“反動”だ。

 極限の力を、ほんの一瞬使っただけで──これか。

 

 「さすがに、ちょっと休んでくか……」

 誰にともなく呟きながら、壁沿いに腰を下ろす。

 空は静かだった。
 模倣体が倒れたあとの街には、風の音も戻っていた。

 遠くで、看板がカタンと鳴る。

 

 ──このまま、眠るわけにはいかない。

 俺は、わずかに指を動かした。

 幻を展開する。
 輪郭をぼかし、存在を曖昧にする──“見つからないため”の最低限の隠蔽。

 気配も、気息も。
 眠る間だけでも、自分がここにいる痕跡を消しておく。

 ……備えは、大事だ。

 

 俺は、まぶたを閉じる。

 意識はまだ冴えてる。だが、身体はもう──限界だった。

 

 「……また、頼るかもな。母上の、回復の術……」

 

 ただ、ひとまずは。

 このまま、少しだけ眠る。

 夢でも、見られればいい。

 そんなことを考えながら、俺は静かに、幻の余韻に身を委ねた。

 幻の帳が、そっと街の片隅を覆い──
 俺はそのまま、静かに意識を手放した。
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