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34話
幻装の代償
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息が、まだ荒かった。
模倣体は沈黙した。完全に、動かなくなった。
それでも、俺の中では“戦い”が終わっていなかった。
──幻装、究極の一閃。
一瞬の解放。だが、それは全身を焼くような激痛と共に訪れた。
今もなお、拳がじんじんと痛む。骨の奥から響くような感覚だ。筋肉も、神経も、芯から痺れている。
幻の力は、強い。だが──代償も、でかい。
「……はぁ、はぁ……ったく、無茶したな……」
声が漏れる。
自分でも気づかないほど、脚がふらついていた。
幻装は、すでに解けていた。
黒鉄の鎧も、兜の影も、今はもうない。
ただ、着慣れた衣服だけが、俺の身を包んでいる。
それなのに──重い。
まるで、鎧がまだ肩に残っているかのような感覚。
──脈が乱れてる。筋繊維も、幻の力と無理に融合させたせいで、ズタズタだ。
わかってた。最初から。
今の俺には、あれを使いこなすには早すぎるってことくらい。
……それでも、やらなきゃならなかった。
模倣体は、あの時の“俺”の延長だった。
過去の傷のような存在。だからこそ、逃げずに終わらせたかった。
「──やれやれ。次は師匠の縁のある場所か……」
ぼそりと呟いたあと、歩き出す。
けれど、すぐに足が止まった。
膝が笑った。
体温が、脚から抜けていくような感覚。
幻装を解いたあとの“空白”が、全身に広がっていく。
「……っとと。……マジで、やばいな」
ふらりと電柱に背を預け、深く息をつく。
意識はある。だが、体がついてこない。
幻の暴走ではない。ただ、純粋な“反動”だ。
極限の力を、ほんの一瞬使っただけで──これか。
「さすがに、ちょっと休んでくか……」
誰にともなく呟きながら、壁沿いに腰を下ろす。
空は静かだった。
模倣体が倒れたあとの街には、風の音も戻っていた。
遠くで、看板がカタンと鳴る。
──このまま、眠るわけにはいかない。
俺は、わずかに指を動かした。
幻を展開する。
輪郭をぼかし、存在を曖昧にする──“見つからないため”の最低限の隠蔽。
気配も、気息も。
眠る間だけでも、自分がここにいる痕跡を消しておく。
……備えは、大事だ。
俺は、まぶたを閉じる。
意識はまだ冴えてる。だが、身体はもう──限界だった。
「……また、頼るかもな。母上の、回復の術……」
ただ、ひとまずは。
このまま、少しだけ眠る。
夢でも、見られればいい。
そんなことを考えながら、俺は静かに、幻の余韻に身を委ねた。
幻の帳が、そっと街の片隅を覆い──
俺はそのまま、静かに意識を手放した。
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