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40話
KAMRIS
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アヤトがふと口を開いた。
「……聞いてもいいか」
ナギリはアヤトを見つめ、静かに頷いた
「人間界が、ああなった理由。……お前は知ってるのか?」
ナギリは小さく頷いた。
「はい。──ほんの一端ではありますが」
少し間を置いて、彼女は静かに口を開く。
「地の果て──海の向こうに、“宇宙船”が帰還しました。
星の外から、長い時を経て……ようやく戻ってきたのだと聞いています」
アヤトの眉がわずかに動く。
「──けれど、それからすべてが変わりました」
風が通り抜ける。枝の影が、ふたりの足元に揺れる。
「その宇宙船の名は、“KAMRIS(カムリス)”。」
「……」
「異形たちは、今ではその名を取って“カムリス”と呼ばれています」
アヤトは目を伏せ、ぽつりと漏らす。
「……そいつが、元凶ってわけか」
ナギリは頷きもせず、否定もしなかった。
ただ、変わらぬ眼差しでアヤトを見つめていた。
そして、そっと手元の端末を取り出す。
「……お見せしたい記録があります。島の者が保存していたものです」
画面に、ひとりの男が映し出された。
背景は無機質な壁。室内の照明も不安定で、非常灯のような光がぼんやりと揺れている。
そこに、疲れた顔の男がまっすぐカメラを見据えて立っていた。
『こちら──宇宙船KAMRIS(カムリス)艦長、クラウス・レンベルグ。』
その顔には、深い悔いと、長く抱えてきたものの重さが刻まれていた。
そして、ゆっくりと、深く頭を下げる。
『……まず、謝らせてほしい。
俺たちは──取り返しのつかないものを、地上へと持ち帰ってしまった。』
わずかに震える声。
だが、逃げるような素振りはない。
『KAMRISは、俺の意思で帰還したわけではない。
異形と化した乗員たちによって、艦は制御不能となった。
さらに──船の中枢を担っていたAIも暴走し、進路を変える術すら失われていた。』
彼は一度、息を整えるように目を伏せた。
『宇宙に漂う“瘴気”のようなもの……
それが、乗員たちの身体と精神を、静かに、確実に蝕んでいった。
だが、それは検知できなかった。異常があった時には、すでに──』
彼は言葉を切り、苦しげに目を伏せる。
『“人間”のまま戻れた者は、一人もいなかった。
俺たちは……もう、帰るべきではなかったんだ。』
短く息を吸う。
『止めようとした。
けれど──その手は、届かなかった。』
そして、再びカメラを見据え、静かに続けた。
『俺には、力も、時間も、選択肢もなかった。
……結果として、KAMRISは地上に帰ってしまった。』
沈黙が流れる。
だが、その表情には、ひとつの決意が浮かんでいた。
『これは、俺自身の記録だ。
誰に届くかは分からない。
だが──伝えておきたい。』
ほんのわずか、声の調子が変わる。
『俺は、逃げない。
KAMRISを、俺自身の手で終わらせる。
それが……俺に残された、最後の責任だ。』
画面は、静かに暗転する。
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