異界育ちの幻使い

yasunari311

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40話

KAMRIS

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 アヤトがふと口を開いた。

 

「……聞いてもいいか」

 

 ナギリはアヤトを見つめ、静かに頷いた

 

「人間界が、ああなった理由。……お前は知ってるのか?」

 

 ナギリは小さく頷いた。

 

「はい。──ほんの一端ではありますが」

 

 少し間を置いて、彼女は静かに口を開く。

 

「地の果て──海の向こうに、“宇宙船”が帰還しました。
 星の外から、長い時を経て……ようやく戻ってきたのだと聞いています」

 

 アヤトの眉がわずかに動く。

 

「──けれど、それからすべてが変わりました」

 

 風が通り抜ける。枝の影が、ふたりの足元に揺れる。

 

「その宇宙船の名は、“KAMRIS(カムリス)”。」

 

「……」

 

「異形たちは、今ではその名を取って“カムリス”と呼ばれています」

 

 アヤトは目を伏せ、ぽつりと漏らす。

 

「……そいつが、元凶ってわけか」

 

 ナギリは頷きもせず、否定もしなかった。
 ただ、変わらぬ眼差しでアヤトを見つめていた。

 

 そして、そっと手元の端末を取り出す。

 


「……お見せしたい記録があります。島の者が保存していたものです」

 

 画面に、ひとりの男が映し出された。

 背景は無機質な壁。室内の照明も不安定で、非常灯のような光がぼんやりと揺れている。
 そこに、疲れた顔の男がまっすぐカメラを見据えて立っていた。

 

『こちら──宇宙船KAMRIS(カムリス)艦長、クラウス・レンベルグ。』

 

 その顔には、深い悔いと、長く抱えてきたものの重さが刻まれていた。

 そして、ゆっくりと、深く頭を下げる。

 

『……まず、謝らせてほしい。
 俺たちは──取り返しのつかないものを、地上へと持ち帰ってしまった。』

 

 わずかに震える声。
 だが、逃げるような素振りはない。

 

『KAMRISは、俺の意思で帰還したわけではない。
 異形と化した乗員たちによって、艦は制御不能となった。
 さらに──船の中枢を担っていたAIも暴走し、進路を変える術すら失われていた。』

 

 彼は一度、息を整えるように目を伏せた。

 

『宇宙に漂う“瘴気”のようなもの……
 それが、乗員たちの身体と精神を、静かに、確実に蝕んでいった。
 だが、それは検知できなかった。異常があった時には、すでに──』

 

 彼は言葉を切り、苦しげに目を伏せる。

 

『“人間”のまま戻れた者は、一人もいなかった。
 俺たちは……もう、帰るべきではなかったんだ。』

 

 短く息を吸う。

 

『止めようとした。
 けれど──その手は、届かなかった。』

 

 そして、再びカメラを見据え、静かに続けた。

 

『俺には、力も、時間も、選択肢もなかった。
 ……結果として、KAMRISは地上に帰ってしまった。』

 

 沈黙が流れる。
 だが、その表情には、ひとつの決意が浮かんでいた。

 

『これは、俺自身の記録だ。
 誰に届くかは分からない。
 だが──伝えておきたい。』

 

 ほんのわずか、声の調子が変わる。

 

『俺は、逃げない。
 KAMRISを、俺自身の手で終わらせる。
 それが……俺に残された、最後の責任だ。』

 

 画面は、静かに暗転する。
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