異界育ちの幻使い

yasunari311

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41話

灯がある場所にて

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 ──沈黙が、ふたりを包んでいた。

 祠の前。
 わずかに苔むした石段に立ち、アヤトは風を受けながら空を仰いでいた。
 傍らでは、巫女・ナギリが手にしていた端末を静かに閉じる。

 さきほどまで映っていたのは、“クラウス”と名乗る男だった。
 画面はすでに消えている。けれど、あの“気配”だけが、なお残っていた。

 まるで、あの場に何かが──“別の存在”が、とどまっているかのように。

 

「……あれが、クラウス」

 

 アヤトの声は低く、掠れていた。
 言葉では言い尽くせない違和感が、胸の奥に燻っている。

 ナギリは頷きも否定もせず──ただ、風を受けていた。
 まるで、自分に答えを出す資格などないとでも言うように。

 

「姿も言葉も、人だった。……でも、違う。あれはもう、別物だ」
「表に出てるのは、“仮面”みてぇなもんだ。中身は……なんだ、ありゃ」

 

 アヤトは目を細め、拳を握る。

 

「見たことねぇ。……あんな存在感。
 気配の底が見えねぇ。──ぜんぶ、呑み込まれそうだった」

 

 胸の奥に、ぞくりとした感覚が這い上がる。
 恐れとは違う。けれど、限りなく近い。

 それは本能が、“敵わぬかもしれぬ何か”を察したときの反応だった。

 

「……勝てるか、わかんねぇな」

 

 そのひと言だけが、夜の空気に妙に重く沈み込んだ。



 しばらくして、ナギリがそっと問いかける。

 

「……あの方は、人の味方なのでしょうか」

 

 揺れのない声だった。けれど、どこか遠くを見るような眼差しだった。

 信じたいわけでも、疑っているわけでもない。
 ただ、映像を見た者としての素直な問いだった。

 

 アヤトは、すぐには答えなかった。

 腕を組み、空を見上げる。

 

「……わからねぇ」

 

 ぽつりと、短く。
 だが、それだけで十分だった。

 

「言葉は穏やかだった。理屈も通ってた。でも……」

 

 目を閉じ、記憶の中のクラウスをもう一度思い返す。

 

「あれは、ただの“人”じゃねぇ。……何かが違う」

 

 それ以上は言葉にならなかった。

 正体でも、目的でもない。
 ただ、あの男の“存在感”──その底知れなさだけが、いまも胸に残っていた。

 

 ナギリはそれ以上、何も問わなかった。

 ただ祠に一礼し、静かに言った。

 

「……よろしければ、この島をご案内します」

 

 アヤトは視線を戻し、小さく頷く。

 風が吹いた。葉が揺れた。

 

 ふたりはゆっくりと、坂を下り始める。

 ──灯のある、幻に護られた島の暮らしへと。
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