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41話
灯がある場所にて
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──沈黙が、ふたりを包んでいた。
祠の前。
わずかに苔むした石段に立ち、アヤトは風を受けながら空を仰いでいた。
傍らでは、巫女・ナギリが手にしていた端末を静かに閉じる。
さきほどまで映っていたのは、“クラウス”と名乗る男だった。
画面はすでに消えている。けれど、あの“気配”だけが、なお残っていた。
まるで、あの場に何かが──“別の存在”が、とどまっているかのように。
「……あれが、クラウス」
アヤトの声は低く、掠れていた。
言葉では言い尽くせない違和感が、胸の奥に燻っている。
ナギリは頷きも否定もせず──ただ、風を受けていた。
まるで、自分に答えを出す資格などないとでも言うように。
「姿も言葉も、人だった。……でも、違う。あれはもう、別物だ」
「表に出てるのは、“仮面”みてぇなもんだ。中身は……なんだ、ありゃ」
アヤトは目を細め、拳を握る。
「見たことねぇ。……あんな存在感。
気配の底が見えねぇ。──ぜんぶ、呑み込まれそうだった」
胸の奥に、ぞくりとした感覚が這い上がる。
恐れとは違う。けれど、限りなく近い。
それは本能が、“敵わぬかもしれぬ何か”を察したときの反応だった。
「……勝てるか、わかんねぇな」
そのひと言だけが、夜の空気に妙に重く沈み込んだ。
⸻
しばらくして、ナギリがそっと問いかける。
「……あの方は、人の味方なのでしょうか」
揺れのない声だった。けれど、どこか遠くを見るような眼差しだった。
信じたいわけでも、疑っているわけでもない。
ただ、映像を見た者としての素直な問いだった。
アヤトは、すぐには答えなかった。
腕を組み、空を見上げる。
「……わからねぇ」
ぽつりと、短く。
だが、それだけで十分だった。
「言葉は穏やかだった。理屈も通ってた。でも……」
目を閉じ、記憶の中のクラウスをもう一度思い返す。
「あれは、ただの“人”じゃねぇ。……何かが違う」
それ以上は言葉にならなかった。
正体でも、目的でもない。
ただ、あの男の“存在感”──その底知れなさだけが、いまも胸に残っていた。
ナギリはそれ以上、何も問わなかった。
ただ祠に一礼し、静かに言った。
「……よろしければ、この島をご案内します」
アヤトは視線を戻し、小さく頷く。
風が吹いた。葉が揺れた。
ふたりはゆっくりと、坂を下り始める。
──灯のある、幻に護られた島の暮らしへと。
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