異界育ちの幻使い

yasunari311

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42話

幻のごとく、暮らしは続く

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 ──坂の途中、風が揺れた。

 ふたりは並んで坂を下り始める。
 木々の合間から、徐々に人の営みが垣間見えてくる。

 島には、確かな“暮らし”があった。

 斜面に沿って並ぶ家々。
 屋根には雨水を集める設備が設けられ、貯水槽が点在している。
 道端には畑が広がり、島民の子どもたちがナギリに軽く会釈をして走り去った。
 その隣を歩くアヤトには、ちらりと探るような視線が投げられる。

「……あの子たち、ナギリには慣れてるみたいだが、俺は警戒対象ってとこか」

「当然です。あなたの装い、普通ではありませんから」

 ナギリは当然のこととして答える。
 アヤトは肩をすくめ、内心でひと息ついた。
 ──幻で認識をぼかすこともできた。
 だが、案内されている今、それは礼を欠く気がした。

 やがて、ひときわ大きな建物が視界に入る。
 無骨な金属の外装。その周囲では、大人たちが交替で点検作業を行っていた。

「ここが地熱発電施設です。島の電力はすべて、ここでまかなっています」

「……熱の気配が濃いな。こういうのがあるってことは、温泉も湧いてるんじゃねぇのか?」

「ええ。あとで、そちらも案内します」

 ナギリの横顔に、わずかな誇りが滲む。

 そこから道は開け、ゆるやかな下り坂の先に──
 湖があった。

 鏡のように澄んだ水面。その一角では、小舟が浮かび、島民たちが作業に打ち込んでいる。

「この湖も、もとは雨水を集めたものです。いまは山肌の湧き水も加わり、淡水魚の養殖に利用されています」

 湖畔には干された網と木桶が並び、風にゆれていた。
 日照と雨を活かした自給の営み──だが、それだけではない。

「……この島では、酒も造っています」

「酒?」

「ええ。湖水と島で育てた穀物で、昔ながらの製法を受け継いで。

 ──遥か昔の話ですが、祠の御方も気に入ってくださっていたとか」

 その言葉に、アヤトの口元がふっと緩む。

(……師匠に一本、持って帰ってやるか)

 歩みを進めるごとに、島の輪郭が浮かび上がってくる。

 人の手で守られた灯。
 幻のように、けれど確かに続く、静かな暮らし。

 アヤトはふと足を止め、振り返った。
 遠く、木々の間に──あの祠が、まだ見えていた。

 ──クラウス。
 あの男の気配は、心から離れなかった。

 だからこそ、いま目にしている“平穏”の重みが、沁みるのだった。

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