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42話
幻のごとく、暮らしは続く
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──坂の途中、風が揺れた。
ふたりは並んで坂を下り始める。
木々の合間から、徐々に人の営みが垣間見えてくる。
島には、確かな“暮らし”があった。
斜面に沿って並ぶ家々。
屋根には雨水を集める設備が設けられ、貯水槽が点在している。
道端には畑が広がり、島民の子どもたちがナギリに軽く会釈をして走り去った。
その隣を歩くアヤトには、ちらりと探るような視線が投げられる。
「……あの子たち、ナギリには慣れてるみたいだが、俺は警戒対象ってとこか」
「当然です。あなたの装い、普通ではありませんから」
ナギリは当然のこととして答える。
アヤトは肩をすくめ、内心でひと息ついた。
──幻で認識をぼかすこともできた。
だが、案内されている今、それは礼を欠く気がした。
やがて、ひときわ大きな建物が視界に入る。
無骨な金属の外装。その周囲では、大人たちが交替で点検作業を行っていた。
「ここが地熱発電施設です。島の電力はすべて、ここでまかなっています」
「……熱の気配が濃いな。こういうのがあるってことは、温泉も湧いてるんじゃねぇのか?」
「ええ。あとで、そちらも案内します」
ナギリの横顔に、わずかな誇りが滲む。
そこから道は開け、ゆるやかな下り坂の先に──
湖があった。
鏡のように澄んだ水面。その一角では、小舟が浮かび、島民たちが作業に打ち込んでいる。
「この湖も、もとは雨水を集めたものです。いまは山肌の湧き水も加わり、淡水魚の養殖に利用されています」
湖畔には干された網と木桶が並び、風にゆれていた。
日照と雨を活かした自給の営み──だが、それだけではない。
「……この島では、酒も造っています」
「酒?」
「ええ。湖水と島で育てた穀物で、昔ながらの製法を受け継いで。
──遥か昔の話ですが、祠の御方も気に入ってくださっていたとか」
その言葉に、アヤトの口元がふっと緩む。
(……師匠に一本、持って帰ってやるか)
歩みを進めるごとに、島の輪郭が浮かび上がってくる。
人の手で守られた灯。
幻のように、けれど確かに続く、静かな暮らし。
アヤトはふと足を止め、振り返った。
遠く、木々の間に──あの祠が、まだ見えていた。
──クラウス。
あの男の気配は、心から離れなかった。
だからこそ、いま目にしている“平穏”の重みが、沁みるのだった。
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──坂の途中、風が揺れた。
ふたりは並んで坂を下り始める。
木々の合間から、徐々に人の営みが垣間見えてくる。
島には、確かな“暮らし”があった。
斜面に沿って並ぶ家々。
屋根には雨水を集める設備が設けられ、貯水槽が点在している。
道端には畑が広がり、島民の子どもたちがナギリに軽く会釈をして走り去った。
その隣を歩くアヤトには、ちらりと探るような視線が投げられる。
「……あの子たち、ナギリには慣れてるみたいだが、俺は警戒対象ってとこか」
「当然です。あなたの装い、普通ではありませんから」
ナギリは当然のこととして答える。
アヤトは肩をすくめ、内心でひと息ついた。
──幻で認識をぼかすこともできた。
だが、案内されている今、それは礼を欠く気がした。
やがて、ひときわ大きな建物が視界に入る。
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「ここが地熱発電施設です。島の電力はすべて、ここでまかなっています」
「……熱の気配が濃いな。こういうのがあるってことは、温泉も湧いてるんじゃねぇのか?」
「ええ。あとで、そちらも案内します」
ナギリの横顔に、わずかな誇りが滲む。
そこから道は開け、ゆるやかな下り坂の先に──
湖があった。
鏡のように澄んだ水面。その一角では、小舟が浮かび、島民たちが作業に打ち込んでいる。
「この湖も、もとは雨水を集めたものです。いまは山肌の湧き水も加わり、淡水魚の養殖に利用されています」
湖畔には干された網と木桶が並び、風にゆれていた。
日照と雨を活かした自給の営み──だが、それだけではない。
「……この島では、酒も造っています」
「酒?」
「ええ。湖水と島で育てた穀物で、昔ながらの製法を受け継いで。
──遥か昔の話ですが、祠の御方も気に入ってくださっていたとか」
その言葉に、アヤトの口元がふっと緩む。
(……師匠に一本、持って帰ってやるか)
歩みを進めるごとに、島の輪郭が浮かび上がってくる。
人の手で守られた灯。
幻のように、けれど確かに続く、静かな暮らし。
アヤトはふと足を止め、振り返った。
遠く、木々の間に──あの祠が、まだ見えていた。
──クラウス。
あの男の気配は、心から離れなかった。
だからこそ、いま目にしている“平穏”の重みが、沁みるのだった。
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