異界育ちの幻使い

yasunari311

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46話

幻の灯に、問いを重ねて

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 湯の香と木のぬくもりが漂う庵の一角。
 ちゃぶ台の上に、小さな徳利と盃がふたつ並んでいた。

 アヤトとヨモギは向かい合い、すでに何度目かの杯を交わしていた。

 「……この香り。丁寧に造られた酒ね。
  人の手が、ちゃんとあるって味がするわ」

 「……ああ。あそこは、ちゃんと生きてた。
  思ったよりも──人が、人として暮らしてた。驚いたよ」

 盃を干し、アヤトは小さく息をついた。
 ヨモギはそっと注ぎ足しながら、柔らかに微笑む。

 「島で、いい出会いがあったのね」

 「世話になっただけだ」

 「ふふ。顔、緩んでるわよ?」

 「……酔ってるだけだ」

 その言葉に、ヨモギはくすりと笑い、盃を掲げた。

 「なら、もう一杯。酔わせて差し上げましょう」

 「上等」

 乾いた音が、小さく響く。

 宴はゆるやかに続いていた──が、アヤトの手がふと止まる。

 盃を静かに置いたその顔に、夜気のような陰りが差した。

 「……なにか、引っかかってるのね」

 「……ああ」

 低く応えると、アヤトは指先を立てて卓上に幻を展開した。

 揺れる光の中に、男の姿が浮かび上がる。
 白銀の髪、整った顔立ち。だが、その気配は──どこか異質だった。

 「この男……」

 「クラウス。人間界で見た映像に、記録されてた。……ただの映像だ。なのに、感じた。
  強い、とかじゃない。──異様だった。見てるだけで、心がざわついた」

 しばし、沈黙。

 ヨモギは幻をじっと見つめ、ゆっくりと息を吐いた。

 「……なるほど。これは……ただの人じゃないわね」

 アヤトが言葉を重ねる。

 「師匠。……コイツ、なんだと思う?」

 ヨモギは盃を置き、まっすぐに幻を見つめ返す。

 「──ウツロよ。かつて封じた“あれ”の気配が、色濃く滲んでる」

 アヤトの瞳がわずかに揺れる。

 「……やっぱり、そうか。俺も、似たような感覚を覚えた」

 ヨモギは静かに頷いた。

 「けれど──完全に喰われているわけでもない。
  器は人のままなのに、中にいるものが、異様すぎる」

 その声音には、確かな危機感が滲んでいた。

 「これは、封印の外に現れていい存在じゃない。
  あの男は、ただの人間だったはず。……なのに、なぜここまで」

 幻の中のクラウスは、微動だにせず、ただそこに立っていた。

 アヤトは幻を消し、酒をひとくちあおぐ。

 「……だったらなおさら。見極めなきゃならねぇ。
  もし“何か”が動いてるなら──」

 ヨモギはふっと笑った。

 「そういう顔になってきたわね。……ずっと見てたわよ。ようやく、“あんたらしさ”が戻ってきた」

 アヤトは少しだけ苦笑した。

 「……師匠、俺が何か持ち帰ってくるって、分かってたのか」

 「ええ。ずっと、そう思ってた」

 月を見上げるヨモギの横顔が、淡く照らされる。

 「──嵐の匂いがしているわよ、アヤト」

 その声は、夜を裂くような静けさだった。

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