【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)

文字の大きさ
13 / 14

最終話 今日も、ここで生きていく

しおりを挟む
   鉛色の空の下、沈みかけた冬の陽が、村の畦道を鈍く照らしていた。 
 桜は手を止め、吐く息の白さに目を細めながらその景色を見つめた。
 村の屋根には、薄く白い雪が積もっている。
 鍛冶場の煙突からは、今日も細い煙が上がっていた。
 
 ——あれから季節が変わり、寒さが村を包むようになった。

 壊れた道具を直し、古いものに命を吹き込むうちに、「リメイクや桜」は少しずつ村に馴染んでいった。 
 子どもたちの玩具、年寄りの椅子、旅人の楽器。
 そのどれもが「誰かの大切なもの」で、彼女の手を通して再び動き出した。

「桜」

 背後から聞き慣れた声がする。
 振り返ると、カイが手を振っていた。
 寒空を背に立つその姿は、いつもより柔らかく見えた。
 手には、桜が昨日まで磨いていたランプが抱えられている。

「火を入れてみたら、明かりが揺れてた。お前の“手”は、本当に不思議だな」

「ふふ、そんな大げさなことじゃないよ。ただ……“直したい”って思うだけ」

 桜はランプの炎を見つめた。
 ガラス越しに映る自分の顔は、どこか懐かしい。
 “前の世界”で失ったはずの、自分の笑顔がそこにあった。

「もう一度、生まれ直したような気がする」

 ぽつりと呟くと、カイが少し驚いたようにこちらを見た。
 だが次の瞬間には、どこか安堵したように目を細める。

「……それなら、これからも“直して”いこう」

「え?」

「道具も、傷も、笑顔も。全部だ」

 夕暮れが、ふたりの足元に長い影を落とした。
 カイの言葉が、冬の澄んだ空気のように心に沁みていく。

「ねぇ、カイさん」

「ん?」

「わたし、この村が好き。風も、人も、あなたも」

 言ってしまってから、頬が熱くなった。
 カイは何も言わず、少しだけ視線を逸らす。
 沈黙の中で、静かに風が二人の間を通り抜けた。
 雪の匂い、焼けた鉄の匂い、遠くのパン屋の甘い香り。
 その全てが「今」を形づくっている。

「……桜」

「うん」

「お前が来てから、この村も、俺も少しずつ変わった」

「そんなことないよ」

「あるさ。前は、ただ鍛冶屋として鉄を打ってた。けど今は……お前が何かを直すたびに、俺も何かを作りたくなる」

 カイはそう言って、無骨な手を伸ばした。
 その手が桜の手を包み込む。
 少しざらりとした感触。
 けれど、不思議なほど温かかった。

「これからも、隣にいろ」

「……うん」

 短い言葉だった。
 けれどそれで十分だった。
 言葉よりも確かなものが、今ここにある。

 そのとき、空からひらひらと、小さな雪の粒が舞い落ちてきた。
 村の家々に灯りがともり、夜の始まりを告げる鐘の音が遠くで響いた。

 桜はそっとカイの手を握り返した。
 その瞬間、心の奥に静かに灯りがともる。

 “今日も、ここで生きていこう。”

 過去を抱きしめながら、未来へと進むために。
 そして——どんなに時が流れても、この風の中で。

 丘の上のふたりに雪が降り注ぐ。 
 風車の回る音が、どこまでも穏やかに続いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた! 「この力があれば、家族を、この村を救える!」 俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。 「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」 孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。 二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。 優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

異世界ショコラティエの甘い革命~チョコレートが存在しない世界でカカオを育ててバレンタインを流行らせます~

黒崎隼人
ファンタジー
【2月14日はバレンタイデー!】 現代日本でパティシエを目指していた記憶を持つ少年ルカは、貧しい農村の三男坊として異世界に転生した。しかし、そこは「チョコレート」が存在しない世界だった! 砂糖はある、ミルクもある。けれど、あの芳醇で甘美な黒い宝石だけがない。 「ないのなら、作るしかない」 ルカは森の奥で嫌われ者の「オニノミ」がカカオの原種であることを見抜き、独自に栽培を開始する。発酵、乾燥、焙煎――前世の知識と魔法を駆使して、ついに完成した「ショコラ」。その味は、粗悪な菓子しか知らなかった異世界の人々に衝撃を与え、やがて頑固な父、商魂たくましい商人、そして厳格な領主や宗教家までも巻き込んでいく。 これは、甘いお菓子で世界を変える、少年のサクセスストーリー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...