【完結】氷の騎士様と、偽りの恋人を演じています。

天音蝶子(あまねちょうこ)

文字の大きさ
14 / 14

番外編2 初めての“普通の朝”

しおりを挟む
 レオンと正式に“本当の恋人”になって、
 まだ数日しか経っていないのに——

 世界はこんなにも違って見えるんだと思った。

 雪の朝。
 部屋の窓に白く光る結晶。
 冷たい空気を吸い込みながら伸びをしようとした瞬間——

「……どこへ行く」

 背後から腕がすっと伸びてきて、腰を捕まれた。

「わ、わ、レオン!? 起きてたの!?」

「当たり前だ。君が起きる気配がした」

 “気配”。
 もうそれだけで気づくあたりが騎士すぎる。

 レオンはそのままベッドに座り、
 私を膝の上へ引き寄せてしまった。

「ちょ、ちょっと!? 朝からこの距離は……!」

「問題ない」

「問題あるよ!? 近い……!」

「恋人だ。拒む理由がない」

 スパッと言い切られた。
 でも、昨日の夜あれだけ甘い雰囲気だったのに、
 今さらこの距離で照れるのも自分でもどうかと思う。

 とはいえ、レオンは容赦がない。

 首筋に顔を寄せ、
 眠気の残る声で囁く。

「……朝の君は、いつもより温度が高い」

「そ、そんな観察しないで……!」

「観察ではない。……確認だ」

 なんの確認!?
 私が逃げようとすると、レオンの腕がぎゅっと締まる。

「逃げるな」

「逃げてない! ただ……恥ずかしいだけ!」

「可愛い」

 即答。
 声が低いのに、やけに甘い。

「っ……レオン、そんな顔で言わないで……」

「どんな顔だ」

「ずるい顔」

 レオンは少しだけ目を細めた。
 あの氷が溶ける瞬間みたいな表情。

「君以外には見せない」

 その一言で、
 胸のどこかがぎゅっと熱くなった。

 ◆

 ようやくレオンの膝から逃れて、
 部屋の真ん中で深呼吸していたら——

 後ろから、するりと外套がかけられた。

「寒い。無防備に立つな」

「ありがとう……でも、なんでそんな自然なの?」

「恋人だからだ」

 またそれ。
 言葉に迷いがないのズルい。

「レオンって、恋人になったら急に距離の取り方が……」

「近いか?」

「近いよ!」

「では……慣れるまで続ける」

 いや反省しない気だこの人!

「慣れなくていいってば!」

「無理だ」

 即答。
 こういうところ本当に揺らがない。

 レオンは私の手を取って、指を絡める。
 指先が触れるたびに胸が跳ねる。

「この距離以上に近づくつもりはない。……今朝はな」

「今朝はって何……?」

「夜になったら分かる」

 心臓:どんっ

「レオン!! 朝からそういうこと言うの禁止!!」

「冗談だ」

 絶対冗談じゃない顔してる。
 でも否定しないのがレオンらしい。

 ◆

 廊下へ出ると、すぐにユリウスさんと遭遇した。

「おはよ……お前ら、近いな!?」

 私の手を握るレオンを見て、ユリウスさんが盛大にため息をつく。

「いやもう距離ゼロじゃん……
 正式に付き合ってるって聞いたけどさ……
 その……レオン、お前……溺れてんだろ」

「溺れていない」

「溺れてるわ。頭までどっぷりだよ」

 ユリウスさんは私に笑いかける。

「召喚嬢、苦労してないか?」

「し、してるような……嬉しいような……」

「ほらな、レオン。ほどほどにしろよ」

 レオンは不満そうに眉を寄せ、
 私の手をもう一度握り直した。

「……離す気はない」

「分かってるよ……」

「では、問題ない」

 この “レオン理論” 、もう勝てる気がしない。

 ◆

 朝食後、私たちは雪の庭園を散歩した。

 レオンは一歩も離れず、
 雪が落ちてくると、そっと手で払ってくれる。

「……レオン」

「なんだ」

「こうやって歩くの……普通の恋人みたいだね」

 レオンは一瞬だけ立ち止まり、
 私の手に唇を触れさせた。

「普通ではない。特別だ」

「とくべつ……?」

「世界にひとりだけ。
 俺が生涯守る者だ」

 それは、式典の夜に聞いた言葉と同じ熱を宿していた。

 胸がじんわり暖かくなる。

「……ありがとう。私も、レオンといると……安心する」

 レオンはふっと目を細め、
 包み込むように私を抱き寄せた。

「なら、俺の側にいろ」

「うん……」

「離さない」

「……うん」

 雪の中で抱きしめられるのは不思議と暖かくて、
 私はそっとレオンの胸に顔をうずめた。

 こんな“普通の朝”が、
 いつか当たり前になる日が来るのかもしれない。

 そう思うだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。

 ——異世界で出会った氷の騎士と、
 こうして朝を迎える日が来るだなんて。

「……レオン」

「なんだ」

「好きだよ」

 レオンの腕が、わずかに強く私を抱き寄せた。

「……俺もだ」

 冷たい雪が降る庭で、
 心だけはずっとあたたかかった。

 これが——
 “本物の恋人”になったあとの、
 初めての幸せな朝。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。

雨宮羽那
恋愛
 侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。  (私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。  しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。  絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。  彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――? ◇◇◇◇ ※全5話 ※AI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました

はくまいキャベツ
恋愛
王子がメイドに振られるという国家機密相当の現場を目撃してしまった子爵令嬢ダリア・バッケンは、口外しない事を条件に念書へ記名し、お咎めなく日常へ戻るーーはずだった。 しかし数日後、口外していないにも関わらずダリアは王城へ呼び出される。そこにいたのは理屈だけで動く男、王子の側近ブレーデン・ハノーヴァーだった。 「誓って口外などしていません!」 「…分かっている。あなたを呼んだのは別件だ」 ダリアがほっとしたのも束の間、ブレーデンは小声で付け加える。 「まあ完全に別件でもないが」 (もうなんなのよ!) 果たして、ダリアが王城に呼び出された理由とはーー

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

処理中です...