13 / 14
番外編1 式典後の初夜
しおりを挟む
式典が終わって、夜の城は静かだった。
白い雪が降り続けるのに、
空気はまるで暖炉の前みたいにあたたかい。
レオンと正式に恋人になったその夜。
私は自分の部屋の前で立ち止まってしまった。
胸がドキドキして、落ち着かない。
レオンが「後で話がある」と言っていたのが頭から離れなかった。
そんな時。
「……君を迎えに来た」
振り返れば、レオンがいた。
昼の礼装のまま、雪を背負った騎士。
その姿が、見慣れているのにやっぱり息をのむほど綺麗だった。
「入ってもいいか」
「え……その……うん」
扉を閉めると、世界はふたりきりになる。
レオンはゆっくりと近づき、私の髪に触れた。
「式典では、よく頑張ったな」
「レオンが隣にいてくれたからだよ」
その声に、レオンの指がわずかに震えた。
そして——
そのまま頬へ触れられる。
「……今日ずっと、触れたかった」
「れ、レオン……」
「君が綺麗すぎて、視線を外すのに苦労した」
低い声。
式典の時より、ずっと近い。
距離も、温度も、呼吸の音も。
レオンは私の髪をすくい、
耳の後ろへそっとかける。
「……誰にも見せたくなかった」
「そんな……」
「本気だ」
ゆっくりと手が首筋に触れ、
背中をなぞるように落ちていく。
それだけで全身が熱くなる。
レオンの瞳は、氷色なのに熱を帯びていて——
私の心臓の音のすべてを聞いているみたいだった。
◆
ソファの前まで歩くと、
レオンは私の手を取って座らせた。
自分は床に片膝をついて、
目線を合わせてくる。
「……その表情、反則だ」
「ど、どんな……」
「俺を困らせる顔」
困らせてるのはあなたのほうなのに。
レオンは私の膝に触れるか触れないかの距離まで手を伸ばす。
「怖くはないか」
「こ、怖くない……けど……」
「けど?」
「近い……」
するとレオンは、ゆっくりと微笑む。
「離れない。今日は“特別”な夜だ」
「とくべつ……?」
レオンは立ち上がり、
私の手を引いてベッドのほうへ一歩だけ導いた。
一歩。
それ以上は進まない。
そのまま、私の手を包み込んで言う。
「……勘違いするな。
今、君に触れすぎるつもりはない」
「え……?」
「大事なものは、急がない」
声が低くて、優しくて、
胸の奥をくすぐる。
レオンは私の額に唇を寄せる。
触れる直前で——止まる。
「けれど……“触れたい”と思っているのは、本当だ」
「…………!」
心臓が跳ねて、座っていられない。
レオンはその反応を見て、目を細めた。
「君は……本当に分かりやすくて、可愛い」
「レオン……そんな言い方……」
「逃げるな」
腕がそっと背に回り、
強すぎないけれど逃がさない力で抱き寄せられる。
「式典のあいだ、ずっと考えていた」
「な、なにを……」
「君にどう触れれば、震えずに済むか」
「……震えてたの……?」
「君のほうが先に気づくべきだ」
レオンは私の肩に額を押し当て、
深く息を吐いた。
「……この距離でも、もう限界に近い」
「っ……レオン……」
声が甘すぎて、足が力を失う。
レオンは私の頬を両手で包んで、
ゆっくりと顔を近づけた。
「キスをしていいか」
言い方がずるい。
「……うん」
唇が触れた。
今までで一番ゆっくりで、
一番丁寧で、
一番熱い。
触れては離れる、浅いキス。
でもそれが逆に苦しくて、息を奪われる。
「……まだ深くはしない」
囁く声が、喉の奥で震えている。
「今夜は……君を欲しがっている自分を抑える練習だ」
「れ、レオン……!?」
「本気だ」
そう言いながら、
首筋へ触れるか触れないか——
寸前で止める。
止めるくせに、視線は全然止めてくれない。
「君が望むまで、焦らない。
……けれど、離れる気もない」
そのまま、抱きしめられる。
胸の上で私の手を包み、
静かに、ゆっくり、甘やかすように撫でるレオン。
「今日は……君が眠るまで側にいる」
「ほんとに……?」
「もちろんだ。
君の鼓動が落ち着くまで……離れない」
耳元で、甘い声。
「大事にする。
君が不安にならないように」
胸が溶けたように、じんわりと熱くなる。
「……レオン」
「なんだ」
「好き……」
その瞬間、レオンの腕が少しだけ強くなる。
「……俺もだ。
——誰より、何より」
深くは触れない。
けれど距離は近くて、
逃げ場なんてひとつもない甘さ。
それが、逆に安心できる。
レオンは最後に、
私の額へそっと唇を落として囁いた。
「……今は眠れ。
これ以上は……本当に抑えが効かなくなる」
その声音が甘すぎて反則で。
私はレオンの胸に顔をうずめた。
寸止めなのに、
甘くて、苦しくて、幸せすぎる夜。
——これが、レオンとの初めての“本当の夜”だった。
白い雪が降り続けるのに、
空気はまるで暖炉の前みたいにあたたかい。
レオンと正式に恋人になったその夜。
私は自分の部屋の前で立ち止まってしまった。
胸がドキドキして、落ち着かない。
レオンが「後で話がある」と言っていたのが頭から離れなかった。
そんな時。
「……君を迎えに来た」
振り返れば、レオンがいた。
昼の礼装のまま、雪を背負った騎士。
その姿が、見慣れているのにやっぱり息をのむほど綺麗だった。
「入ってもいいか」
「え……その……うん」
扉を閉めると、世界はふたりきりになる。
レオンはゆっくりと近づき、私の髪に触れた。
「式典では、よく頑張ったな」
「レオンが隣にいてくれたからだよ」
その声に、レオンの指がわずかに震えた。
そして——
そのまま頬へ触れられる。
「……今日ずっと、触れたかった」
「れ、レオン……」
「君が綺麗すぎて、視線を外すのに苦労した」
低い声。
式典の時より、ずっと近い。
距離も、温度も、呼吸の音も。
レオンは私の髪をすくい、
耳の後ろへそっとかける。
「……誰にも見せたくなかった」
「そんな……」
「本気だ」
ゆっくりと手が首筋に触れ、
背中をなぞるように落ちていく。
それだけで全身が熱くなる。
レオンの瞳は、氷色なのに熱を帯びていて——
私の心臓の音のすべてを聞いているみたいだった。
◆
ソファの前まで歩くと、
レオンは私の手を取って座らせた。
自分は床に片膝をついて、
目線を合わせてくる。
「……その表情、反則だ」
「ど、どんな……」
「俺を困らせる顔」
困らせてるのはあなたのほうなのに。
レオンは私の膝に触れるか触れないかの距離まで手を伸ばす。
「怖くはないか」
「こ、怖くない……けど……」
「けど?」
「近い……」
するとレオンは、ゆっくりと微笑む。
「離れない。今日は“特別”な夜だ」
「とくべつ……?」
レオンは立ち上がり、
私の手を引いてベッドのほうへ一歩だけ導いた。
一歩。
それ以上は進まない。
そのまま、私の手を包み込んで言う。
「……勘違いするな。
今、君に触れすぎるつもりはない」
「え……?」
「大事なものは、急がない」
声が低くて、優しくて、
胸の奥をくすぐる。
レオンは私の額に唇を寄せる。
触れる直前で——止まる。
「けれど……“触れたい”と思っているのは、本当だ」
「…………!」
心臓が跳ねて、座っていられない。
レオンはその反応を見て、目を細めた。
「君は……本当に分かりやすくて、可愛い」
「レオン……そんな言い方……」
「逃げるな」
腕がそっと背に回り、
強すぎないけれど逃がさない力で抱き寄せられる。
「式典のあいだ、ずっと考えていた」
「な、なにを……」
「君にどう触れれば、震えずに済むか」
「……震えてたの……?」
「君のほうが先に気づくべきだ」
レオンは私の肩に額を押し当て、
深く息を吐いた。
「……この距離でも、もう限界に近い」
「っ……レオン……」
声が甘すぎて、足が力を失う。
レオンは私の頬を両手で包んで、
ゆっくりと顔を近づけた。
「キスをしていいか」
言い方がずるい。
「……うん」
唇が触れた。
今までで一番ゆっくりで、
一番丁寧で、
一番熱い。
触れては離れる、浅いキス。
でもそれが逆に苦しくて、息を奪われる。
「……まだ深くはしない」
囁く声が、喉の奥で震えている。
「今夜は……君を欲しがっている自分を抑える練習だ」
「れ、レオン……!?」
「本気だ」
そう言いながら、
首筋へ触れるか触れないか——
寸前で止める。
止めるくせに、視線は全然止めてくれない。
「君が望むまで、焦らない。
……けれど、離れる気もない」
そのまま、抱きしめられる。
胸の上で私の手を包み、
静かに、ゆっくり、甘やかすように撫でるレオン。
「今日は……君が眠るまで側にいる」
「ほんとに……?」
「もちろんだ。
君の鼓動が落ち着くまで……離れない」
耳元で、甘い声。
「大事にする。
君が不安にならないように」
胸が溶けたように、じんわりと熱くなる。
「……レオン」
「なんだ」
「好き……」
その瞬間、レオンの腕が少しだけ強くなる。
「……俺もだ。
——誰より、何より」
深くは触れない。
けれど距離は近くて、
逃げ場なんてひとつもない甘さ。
それが、逆に安心できる。
レオンは最後に、
私の額へそっと唇を落として囁いた。
「……今は眠れ。
これ以上は……本当に抑えが効かなくなる」
その声音が甘すぎて反則で。
私はレオンの胸に顔をうずめた。
寸止めなのに、
甘くて、苦しくて、幸せすぎる夜。
——これが、レオンとの初めての“本当の夜”だった。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。
雨宮羽那
恋愛
侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。
(私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。
しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。
絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。
彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――?
◇◇◇◇
※全5話
※AI不使用です。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました
はくまいキャベツ
恋愛
王子がメイドに振られるという国家機密相当の現場を目撃してしまった子爵令嬢ダリア・バッケンは、口外しない事を条件に念書へ記名し、お咎めなく日常へ戻るーーはずだった。
しかし数日後、口外していないにも関わらずダリアは王城へ呼び出される。そこにいたのは理屈だけで動く男、王子の側近ブレーデン・ハノーヴァーだった。
「誓って口外などしていません!」
「…分かっている。あなたを呼んだのは別件だ」
ダリアがほっとしたのも束の間、ブレーデンは小声で付け加える。
「まあ完全に別件でもないが」
(もうなんなのよ!)
果たして、ダリアが王城に呼び出された理由とはーー
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる