【完結】氷の騎士様と、偽りの恋人を演じています。

天音蝶子(あまねちょうこ)

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第12話 本物の恋人へ

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 式典当日。
 雪の朝は静かで、どこか神聖な気配すらあった。

 緊張で胸がぎゅっとして、落ち着かない。
 鏡に映る私は、昨日よりずっと大人っぽく見えた。

 ——今日で“恋人役”は終わる。

 その現実が、胸をきゅっと締めつける。

「迎えに来た」

 振り返ると、レオンが立っていた。

 深い青の礼装に、銀の紋章。
 氷の騎士と呼ばれるだけあって、
 やっぱり誰よりも美しい。

 でも今日のレオンは少し違っていた。
 冷たさに、熱が混ざっている。

 私を見た瞬間、息をのみ——
 ゆっくり歩み寄る。

「……似合っている」

 そう言って伸ばされた指先が、
 私の髪をそっとすくう。

「今日の君は……誰にも見せたくないほど綺麗だ」

 息が止まりそうになる。

「レオンこそ……格好よすぎるよ……」

 そう言うと、レオンは微かに目を細めた。

「行こう。——俺の隣へ」

 ◆

 式典は煌びやかで、広間には宝石みたいな光が散っていた。
 各国の要人、王族、騎士、魔導士たち……数百の視線。

 その中央に、私とレオンが立つ。

 手を取られ、歩を進める。

「……大丈夫か」

「うん……」

「緊張している」

「ちょっとだけ……」

「なら、俺を見ていろ」

 視線を向けた瞬間。
 レオンの指が絡む。

 その温度だけで、胸が落ち着いていく。

 周りのざわめきが消えていく。
 聞こえるのはレオンの声だけ。

「君は俺の隣にいる。それだけで十分だ」

 その言い方が、やけに甘い。

 ◆

 式典中、代表団の一人が歩み寄ってきた。

「あの時は失礼した。今日は手を取らせてもらっても——」

 その瞬間。
 レオンの気配が変わった。

「必要ない」

 冷たく、鋭く。
 でも怒りというより、はっきりとした“拒絶”。

 代表団の男が苦笑しながら引くと、
 レオンは小さく息を吐く。

「……怖かったか」

「ううん……レオンがいるから大丈夫」

「よかった」

 小さな囁きなのに、胸に刺さった。

 ◆

 式典が進み、空気が和らいできた頃。

 突如、巨大な魔力反応が会場の外で弾けた。

「魔力の揺らぎ……!?」

「扉が——反応している!」

 魔導士たちがざわめく。

 嫌な熱が背中を這い上がってくる。
 これは、あの日の“揺れ”に似ている。

「……また、誰かが扉を……?」

 扉が開けば——
 私は元の世界に、強制的に引き戻される。

 レオンが即座に私の手を掴む。

「離れるな」

「うん……!」

 しかし会場は混乱し、
 人と音が入り乱れて私たちの間に割り込んでくる。

「レオン……っ!」

 一瞬だけ、指先が離れた。

 ほんの、一瞬。

 ——その瞬間。

 視界が白い光で満たされた。

 耳鳴りとともに世界がぐにゃりと歪む。

 戻される——!!

「やだ……! レオン……!!」

 声が震える。

 その時。

 誰かの腕が、強引に私の身体を引き寄せた。

「捕まえた」

 低い声と同時に、
 レオンの胸に抱きしめられていた。

「レオン……!」

「離れるなと言った」

 レオンの腕が私を締めつける。
 まるで絶対に手放す気がないように。

 眩い光の中、レオンの魔力が私を包む。

「どこにも行かせない。——君はここだ」

 その言葉とともに、
 世界の揺れがふっと止まった。

 魔導士たちが叫ぶ。

「扉の揺らぎが……消えた……!?
 “外部の意志”が切れたのか……!」

「レオンさんが……魔力で遮断したんだ……!」

 少年の声も聞こえる。

 でも私の世界はレオンだけになっていた。

 レオンはまだ抱きしめたまま、
 私の肩に額を押し当てて震えていた。

「……怖かった」

「レオンが?!」

 完璧な近衛騎士が、震えてる。

「君が消える光を見た瞬間……初めて、息ができなくなった」

 その告白に、胸が強く締めつけられた。

 レオンは私の頬に触れ、かすかに笑った。

「……君は、この世界にいる」

 その瞳は、もう迷いのかけらもなかった。

 ◆

 式典が無事に終わり、
 私たちは人のいない雪の庭園に出た。

 白い雪が舞い落ちる静かな空間。

 レオンはゆっくり私の肩を抱き寄せ、
 真剣な眼差しで見つめてくる。

「あの日、言えなかった言葉がある」

「……言葉?」

「契約が終わったあと、伝えるつもりだった」

 レオンは息を吸い、
 覚悟を宿した瞳で私の名を呼んだ。

「——俺の隣に、生涯いてほしい」

 息が止まった。

「恋人役ではなく。
 護衛対象でもなく。
 ただの“俺の”……大切な人として」

 雪が落ちる音すら聞こえるほど静かな中、
 レオンは続ける。

「君を愛している。
 世界がどう揺らいでも、離すつもりはない」

 胸が熱くなり、目の奥がじんとする。

「レオン……」

「返事を聞かせてほしい」

 私は迷わなかった。

「……私もレオンが好き。
 離れたくない。
 ここにいたい」

 レオンの顔が、ふっと緩む。

 次の瞬間。
 腰を引き寄せられ、
 息が触れ合う距離まで顔を寄せられた。

「……キスをしていいか」

「……うん」

 雪の冷たさと、
 レオンの手の温かさの中で。

 そっと唇が重なった。

 優しいのに、
 どこか震えるほど強い想いが伝わるキスだった。

「……期間限定は終わりだ。
 これからは、本物だ」

 レオンは私を抱きしめ、
 耳元で静かに囁く。

「——君を一生、離さない」

 私はレオンにしっかりと抱き返した。

 雪に包まれた庭園で、
 氷の騎士と、異世界に迷い込んだ私の恋は。

 ようやく“役”を脱いで、
 本当の恋人へと歩き出した。
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