歌舞伎町のかさぶたホームレス

ゆずまる

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14.寄る年波

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この日も「ちゃんと食べな!」とジロちゃんに無理矢理ご飯を分け与えて食事を終えた。

彼の食生活が心配というのもあるけど、実際のところは歳のせいかガツンとしたものを胃が受け付けなくなっているというのが本音だ。胸焼けと胃もたれのダブルアタックには抗えない。

こんな重たいものを平気で平らげる本物のカツキさんはさぞかし健康体なんだろう。あー羨ましい。

食事を済ませれば風呂の時間だ。

「お先にどうぞ」

俺が初日に逃げたせいか、ジロちゃんは自分より先に入るよう促してきた。そして言われた通りに浴室に向かうと、当然の如く裸で突入してきて身体を洗われる。
わざわざ途中から突入しなくとも「一緒に入りましょう」とか一言言ってくれたらいいのに。まぁ、仮に言われた所で丁重にお断りするつもりだから結局彼のやり方は間違っていないんだけどさ。
どちらにせよ今の俺には逃げ場なんてないんだから、そんなに警戒しなくたっていいのにね。
ジロちゃんにとって俺に逃げられたのがトラウマになってるのかもしれないけど、ずぶ濡れの全裸で迫られたのはおじさんにとってもある意味トラウマだからね。

抵抗するだけ無駄なので椅子に座って大人しく身を委ねていると、背中を流そうとするジロちゃんの手がぴたりと止まった。

「カツキさん。これ、どうしたんですか」

そう言って腰の辺りを軽く触れられる。
そうだ、今朝貼った湿布を剥がすのをすっかり忘れていた。

「あ~、昨日誰かさんがガンガン突いてくれたお陰で痛めちゃってね。おーイテテ」

悪態をついてからしまったと反省した。下手に刺激しないって決めたばっかりなのに、こんな風に煽ったらまた痛い目に合わされるじゃん。

「そうですか……すみませんでした。昨日はついカッとなってしまって。大人げなかったですよね」
「えっ?あー……いや……それはおじさんも一緒だし……」

意外にも、背中ごしに返ってきたのは素直な謝罪の言葉だった。
いやいや普通に謝んないでよ。なんかおじさんの方が悪者みたいじゃん。しかも年下の子に大人げなかったって言われるなんて一周回って屈辱的だ。

「今晩はやめておきましょうか」

ジロちゃんはその言葉の通り、昨日のように身体をまさぐったりはしなかった。むしろ優しく丁寧に、労るように全身を洗われてなんだかこそばゆい。

「力加減どうですか?少しでも痛むなら言って下さいね」
「へーき。お気遣いありがとね」

暖かい手のひらで包み込むように背中を擦られると、心なしか腰の痛みが和らいだ気がした。
カツキさんが関わるとおかしくなるだけで、きっと心根は優しい子なんだろうな。

「次は優しくするって約束しますね」

あ、やっぱ次あるんだ。
彼の一言で絆されかけた気持ちが急激に冷めていった。今晩は回避できたけど、身体が回復すればこれから毎日ヤるつもりなんだろうか。
それだけは本当に勘弁して欲しい。

◇◇◇

「ジロちゃ~ん……」
「なんですか、カツキさん」
「眠れないんですけどぉ……」

今夜はゆっくり眠れるな~なんて気楽に考えていた数分後。ベッドに入るや否やジロちゃんは俺の身体を背後から長い手足でがっちりホールドしてきた。
苦しいわ居心地悪いわで全然眠れない。

「確かに今晩は少し冷えますからね。こうして身を寄せ合っていれば身体が暖まってよく眠れますよ」
「いやそうじゃなくて!」

性行為こそしないものの、やわやわと身体のあちこちを触れられ、隙あらば顔を寄せて首筋の匂いをすんすんと嗅いでくる。なんなのこの子、加齢臭フェチなの?

「はぁ、もう……」

ため息をついて身体を引き離しベッドから起き上がろうとすると、蛇のごとく全身を締め付けられた。

「何処に行くのですか?」
「ションベンだって!さっきもそう言ったじゃん!」

極めつけはこれだ。俺が身動きをする度ぎゅうぎゅうと絡み付いては俺の動向をチェックしてくる。息苦しいし腰痛いし優しくするって言ったのもう忘れたのかよ。

「何故夜中に何度もお手洗いに行くのですか?また嘘をついて僕から逃げるつもりですか」
「だから!普通にションベンしたいだけなの!ジロちゃんはまだわからないかもしれないけど、おじさんになったら便所が近くなんだよマジで!」

熱弁しても無駄に終わったので、結局便所まで同行されてチョロチョロと力ない放尿音を扉の前で聞かれるはめになった。

「……勢いが無いですね……」

感想なんていらないんだよ馬鹿!
ああもう、なんで俺若造に自分の放尿音聞かせてるんだろう……。
ホームレスになり一度は捨てたはずの自尊心が甦って死にたくなった。早くこの生活から解放されたい。

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