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第二章 美しく成長したレティシア
64. アレル子爵家へ、アヌビスとレティシアの二人
しおりを挟むアヌビスが帰った後、レティシアはベリル侯爵が宮殿から戻って来るのを待った。
「ねぇ、マヤ。パトリックの事、どう思う? ほら、私はほとんど宮殿にいるし、あまり昼間の事は知らないから」
「坊ちゃんの事ですか? 乳母のシーインが言うには、時折人が変わったように大人しくなったり、そうかと思えば我儘を言って困らせたりと、なかなか大変だったそうですよ」
シーインは夫人とパトリックのお供として、アレル子爵家へ行っている。
レティシアは自分の事をあまり好いていない様子の夫人やパトリックと、積極的に関わる事を避けていたから、昼間の屋敷の様子を細かく知る事は無かったのだった。
それだけでなく、皇后付き女官と薬師の弟子として日々の多忙な生活を送るので精一杯であったとも言えるが。
「パトリックは、どうして私の事を嫌っているのかしら。私は弟が生まれた時、とても嬉しかったのに」
一度目の人生では両親から疎まれていたパトリック。二度目の人生では、レティシアが母親から疎遠になる代わりにパトリックが可愛がられている。
「どこのきょうだいも同じですよ。上の子と下の子で母親の取り合いをするんです。坊ちゃんは奥様の事をお嬢様に取られまいとしているんでしょう」
「そうかしら」
「きっとそうですよ。何です? 奥様と坊ちゃんがご実家に帰られて、お寂しいのですか?」
マヤはレティシアが父と二人の生活を送っている事が寂しくて尋ねたのだと思ったようだ。
「まぁ、そんなところね。だから明日、二人を迎えに行くのよ」
「それがようございます。奥様だって、ご自身が家を出た手前、気まずくて帰りにくく思ってらっしゃるでしょうから」
マヤと話しているうちに、侯爵が屋敷へと戻って来た。レティシアは晩餐を終えた侯爵が私室へと戻った頃を見計らって、部屋を訪れた。
「……なるほど、隔世遺伝……というものがあるという事は分かった。しかし、今更どのような顔をしてルイーズに謝れば良いのだ。長年不貞を疑い、私はルイーズを責め続けて来たというのに」
事情を理解した侯爵は自らの過ちを知り、頭を抱えて俯いてしまう。レティシアはそんな父親の姿に、やはり過去とは全てが違うのだと感じた。
過去の父親であれば、決してこのように自らの過ちを後悔する事など無かっただろう。
「お父様、お父様はお母様の事をとても愛してらっしゃるのでしょう。だからこそ、裏切られたと思って傷つき、そしてその気持ちをぶつけてしまった。でしたらそのままのお気持ちをお母様に伝えるのです。そして心からの謝罪をすれば、お母様もきっと分かってくださいますわ」
「そうだろうか?」
その時の父親が娘を見つめる瞳は、とても頼りなく、いつも自信に満ちて堂々と振る舞う優秀な官僚であるベリル侯爵とはまるで別人のようである。
「ええ、きっと。人は誰だって過ちを犯すものです。ですが過ちを認め、やり直す事だって許されているのです。悔い改め、努力を積み重ねる事で成長する事もありましょう」
レティシアは父親に手紙を書く事を勧めた。明日アレル子爵家へと向かい、その手紙を母親に渡す事を約束して。
翌日、レティシアは父親から預かった手紙を膝の上に乗せ、アヌビスと共に馬車に揺られてアレル子爵領を目指した。
いくら乗り心地の良い侯爵家の馬車とはいえ、半日の道のりは遠かったが、アヌビスと会話していると不思議と時間が早く過ぎたような気がする。
夜空に星が煌めく頃に子爵家の屋敷へと到着した一行は、予想外にも満面の笑みをたたえたアレル子爵夫妻に迎えられたのである。
「お久しぶりでございます、お祖父様、そしてお祖母様。突然来る事になりまして、申し訳ありません」
「レティシア! 帝国最年少で皇后付きの女官となったと聞いて驚いたぞ! しかし、美しく聡明に育ったその様子だと、それも当然の事だな! そちらの御仁は……?」
外見だけであればアヌビスと変わらぬほど老齢のアレル子爵は、レティシアが連れて来た老人を見て不思議そうな顔を見せる。
「こちらはアヌビス様といって、宮殿で皇族の方々専属の薬師をしてらっしゃるの。私の医術の師でもあって、今日は子爵領に自生する薬草を採取に来るついでに私のお供をしてくださったの」
「おお、それはそれは! どうぞ中へ。ルイーズも侯爵と喧嘩をして飛び出して来たはいいものの、帰るに帰れずにいたところだ。迎えに来てくれたならば幸いだよ」
アレル子爵と夫人は快くレティシアとアヌビスを屋敷へと招き入れ、サロンへと通した。
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