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7. 愛と隷属と
しおりを挟むあの日を思い起こしながら傾けたワイングラスは、何度目かの空になった。
ユージンも飲めと誘ったけど、結構ですと言って給仕に徹している。
今ユージンは従者のお仕着せを着ておらず、部屋着だから、何だかそれで給仕をされるのもおかしな気分だ。
僕は少し飲み過ぎたのを自覚して、グラスを置いた。
「ユージン、こっちへ来い」
「はい、坊ちゃん」
呼べばユージンは素直に僕のそばへとやってきた。
切長の目、すうっと通った鼻筋に、今は閉じられている唇。
その整った顔は普段、仮面を被ったように無表情だ。
「なあ、ユージン。何故あの時、お前は僕の問いに答えなかった?」
「あの時……とは?」
「十八の誕生日の日、お前が初めて僕を抱いた時だ。僕はお前に聞いただろう? 何故こんな事をしたのかと」
僕のことを想っていたなら、そう言えば良かったのに。
それなら僕はあんなに苦しい想いをせずに済んだ。
ずっとコイツが僕のことを、性の捌け口としてしか考えていないと思っていたんだから。
何度身体を重ねても、ユージンの心は自分には向いていないのだと、寂しく感じていた日々。
何故言ってくれなかったのか。
「申し訳ありません。それがマリア嬢との約束でしたから」
「約束、だと?」
まただ、ユージンがあの時のような苦悶の表情を浮かべた。
「はい。この計画を坊ちゃんに話す時までは、私から坊ちゃんに気持ちを伝えぬように……と」
「……本当に、あの奥方の考えている事はよく分からんな」
「どうせ坊ちゃんが気持ちを言わないなら、『攻めの気持ちが分からなくて、切ない気持ちながらも快楽を拒めない受け』の状況を楽しみたいと言われまして……」
何だか知らないが、どうやらマリアの趣味の為に、僕はモヤモヤとした気持ちであの日々を過ごす事になったらしい。
僕の方は、妻と侍女のレベッカがどんな風に日々を過ごしているかなど気にしていないけれど、マリアの方は度々僕とユージンの事を尋ねてくる。
僕らの交わりのことまで詳しく知りたがるところに関しては、少々気恥ずかしいこともあるが。
もちろんこの邸には、ユージンとレベッカの他にも使用人は雇っているが、誰もが僕とマリアが仲睦まじい夫婦だと思っている。
それは社交界でも同じだ。
マリアが言うには、僕らはお互いを愛し合う理想の夫婦として羨ましがられているらしい。
この状況は、僕とマリアにとってとても好ましい環境なのだ。
お互いが愛する相手と、配偶者のことを気にする事なく過ごせるのだから。
「まあ、もういい。……ユージン、僕はお前と共に生きられる今の生活が気に入っている」
「それはようございました」
フッと表情を緩めたユージンが、ソファーに腰掛ける僕の方へと腰屈めてきたと思えば、そっと唇を重ねる。
それを合図に、僕らは二人の寝台へと移動する。
当主である僕の部屋の寝台は、ユージンと過ごす為に誂えたものだ。
通いの使用人しか雇っていないから、ここでユージンが朝まで過ごしても何も言われたりしない。
「ユージン、やはり僕のことを坊ちゃんと呼ぶのはやめろ」
「おや、そんなに嫌ですか?」
「マリアは『ノエル様』と呼ぶだろう。お前はこれから、二人の時は僕の事を『ノエル』と呼べ」
寝台に着いた途端、当たり前のように主人である僕の上に跨るユージンに命じる。
「……ノエル」
「……っ」
ユージンから初めて呼ばれた己の名に、僕は全身がゾクリと粟立った。
「ノエル……、ノエル……愛しています……」
何度も甘い声音で呼びながら、ユージンは僕に口づける。
はじめは唇を啄むような口づけに、何だか物足りなくて自分から舌を差し出した。
「はあ……っ、ユー……ジン……。僕は……もう随分前から……愛しているんだ……」
絡み合った舌で、口腔内の粘膜を擦る湿った水音が二人の間で響く頃には、僕は息苦しくなってつい吐息が漏れた。
「はい、ノエル……我が主人」
与えられたその言葉だけで、僕はもうコイツに永遠に囚われた気がした。
「はあ……ッ、ユージン……、僕がお前の主人だぞ。間違えるな、お前は僕の従者なんだからな……っ」
熱い吐息が混じり合うその距離で、僕は目の前のユージンに宣言した。
「承知しておりますよ。ですから今からきちんと丁寧に奉仕させていただきます」
そう言って、ユージンは僕のシャツの釦を一つずつ丁寧に外す。
ああ、今日もきっと僕はこの男に翻弄されるのだろう。
僕のことを主人だと言いながら、交わりの時のユージンは僕を言いなりにする。
「我が主人……、愛していますよ。これからもずっと……。さあ、私のために今宵も良く啼いてくださいね……」
この男から与えられる悦楽と甘い痛みは、主人であるはずの僕を容易く隷属させる。
~fin~
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みんなの感想(1件)
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読んだー!( ´ ▽ ` )
初っ端から致しててうはうはだったよ( *´艸`)
ってかマリア嬢!その立ち位置私に譲ってwww
ご馳走様でしたΨ( 'ч' ☆)
そう、マリアの立ち位置最高だから(੭ ˃̣̣̥ ω˂̣̣̥)੭ु⁾⁾❤️❤️❤️
感想ありがとうございます✨