アレが見える繋がりの騎士団長とお嬢様、婚約破棄を目指したのちに溺愛される

蓮恭

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27. 呪われたネックレス

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「リュシエンヌ、とても美しいわ。貴女のような娘ができるなんて、私は幸せね。ねえ、マルグリッドもこんな可愛らしい妹ができて良かったわね」
「本当に。リュシエンヌさん、私のような姉で頼りないかも知れないけれど、これからは色々と決めなければならないこともたくさんあることだし、何でも聞いてね」

 今日はリュシエンヌの花嫁衣装の仮縫いに仕立て屋がペトラ家へと来ていた。
 リュシエンヌが身につけた花嫁衣装は、ミカエルの母と兄嫁であるマルグリッドがリュシエンヌと一緒に選んだもので、三人はまるで本当の親子と姉妹のように仲が良かった。

「お義母様、お義姉様ありがとうございます。私は本当に幸せ者です」

 リュシエンヌは、義母と義姉の明るくて穏やかな性格にとても救われた。

 ポーレットが亡くなり、マルクは牢に入れられた。

 リュシエンヌは身近な人間が相次いでそのようなことになり、少し気落ちしていたところもあったのだ。
 二人から辛い思いをさせられたことは事実だが、それでもリュシエンヌは優しい娘だった。
 この明るい二人がいなければ婚姻の準備もなかなか進めることが出来なかったかもしれない。


 仮縫いも終わり三人でお茶をしていた時に、義母は言おうか言わまいか考えた末に心を決めた様子でリュシエンヌに声を掛けた。

「ねえ、リュシエンヌのいつも身に着けているそのネックレス……もしかしてミカエルが?」

 リュシエンヌが身に付けている水晶のネックレスを指差して言ったのだった。

「はい。もう随分と前に頂いたものです」
「それのことをミカエルは何と?」

 リュシエンヌは幽霊の話を義母にしても良いのかと思案した。
 ミカエルが幽霊を見えることを家族に話しているかどうか未だ聞いていなかったからである。

「……古い枢機卿が作られたものだとお聞きしました」
「……リュシエンヌ、それはね我が家に古くから伝わるものでなの。どうしてミカエルはそんな物を貴女に渡したのかしら?」

 身に付けると幽霊が見えるようになるこのネックレスは『呪われたネックレス』だと義母は言う。

「リュシエンヌにも私の友である幽霊たちを紹介したかったからですよ」

 その時いつの間にか部屋に入って来ていたミカエルが義母の疑問に答えた。
 そしてミカエルはリュシエンヌの背後から彼女を抱きすくめ、そのプラチナブロンドに頬を寄せた。

「貴方、リュシエンヌに幽霊たちを見せたのね。リュシエンヌ、怖かったでしょう?」

 義母はそんなミカエルを軽く睨みつけ、リュシエンヌを労るように言った。
 リュシエンヌはミカエルの家族が幽霊のことを知っていることが分かりホッと胸を撫で下ろした。
 このまま曖昧にネックレスのことを誤魔化すことは自分にはできそうもなかったから、ミカエルが現れてくれて安堵したのである。

「私は幽霊たちのことをちっとも怖いとは思いません。皆さんとても良くしてくださるのです」

 それを聞いた義母は目を瞠って驚きの声を上げた。

「え? そうなの? 私なんかとても恐ろしいわ。ミカエルが幼い頃にね、『幽霊がいる』って何度も話したから屋敷中に聖水を吹き付けたの。そうしたらそこら中の物が飛んだり割れたりして大変なことになったのよ」

 義母は幽霊の話を幼いミカエルから聞いて、我が子を守ろうと自分なりに何とかしようと思ったようだ。
 しかし、それに怒った幽霊たちが怪奇現象を起こしたと言う。

「母上、私は心配いらないと言ったにも関わらずそこら中に聖水を吹き付けるから幽霊たちは悪戯したのですよ。特に悪さをするものはこの屋敷には居ませんから大丈夫だと言ったのに」
「だって、私は昔から暗いところと怖いものが苦手なのよ」

 大袈裟に震える仕草をする義母を、呆れた様子で見つめるミカエルはリュシエンヌの方へと目を向けた。

「リュシエンヌは幽霊が見えるネックレスのことを喜んでくれたのです。私の見ている世界を共に見て理解してくれる稀有な女性なのですよ」

 ミカエルは熱い視線をリュシエンヌに送ったまま、母に向かってそう言った。

「そうなのね。私の大切な息子が素敵な伴侶を見つけられて、本当に良かったわ」

 穏やかな笑みを浮かべる義母の後ろで、エミールがおかしな顔をして舌を出しているのが見えて、リュシエンヌとミカエルは揃ってフッと吹き出した。



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