66 / 66
最終話 66. 俺の大好きな、の回
しおりを挟む「賢太郎、おはよう」
「おう、おはよ。なんか靴箱の位置にまだ慣れないよな」
「確かにね。思わず一年生のところに行きそうになるの、分かる気がする」
あの全身打撲事件から季節は巡って、俺達は二年生になった。相川はギリギリまで山岳部を続けながら、部活の無い休日は俺達遠足部と登山をしたりキャンプをして過ごした。相川家と佐々木家のキャンプに俺が加わらせてもらったりして、カナダに行くまでにたくさんの思い出が出来たと思う。
カナダへ出発の日、賢太郎と一緒に見送りに行った俺に向かって相川は「カナダの男は優しくてイケメンが多いらしいから、さっさと賢太郎よりいい男を捕まえてやるよ」と、学年で一二を争うほどの清々しく整った顔で宣言した。
ところが突然苦い顔になったと思えば、小さな声で俺と賢太郎に「ありがとな」と言って僅かに瞳を潤ませた。それを見て堪えきれなくなった俺は、人目を憚らずボロボロと涙を零して嗚咽を漏らし、相川と賢太郎に慰められるという失態を犯したのだが。
「相川が教室に居ないのって、やっぱり寂しい?」
「まあな、二軒隣の悠也の家につい目がいく事もあるけど、そのうち慣れるだろう。それに、アイツも向こうで随分と楽しんでるみたいだぞ」
「そうなんだ。登山とかしてるのかなぁ?」
二年生になって俺と賢太郎、そしてダイも同じクラスになった。それでもまだ新しい教室にもクラスメイトにも慣れない俺と違って、イケメンで世渡り上手そうな相川ならすぐに周りと馴染めそうだ。
「ほら、昨日コレが送られてきた」
賢太郎が見せてきたスマホの画面には、雄大な山の景色をバックにどう考えてもイケメン過ぎる男二人が親しげに肩を組んでいた。片方は相川、隣は『薄いブルーの瞳と程近いところにある凛々しい眉毛がいかにも海外のイケメン』といった風貌の外国人男性で。
「へぇー……。満喫してるなぁ」
「『俺にはオリバーという大切な恋人が出来たから、毎日楽しくて幸せだぞ。せいぜいお前もヒカルと仲良くな』だってさ」
「確かに、オリバーって感じだなぁ」
なるほど、そう聞くとオリバーという男性は明らかに相川の事を好きなのだと分かる程にピッタリと身体を密着させている。隣の相川の笑顔だって、誰が見ても心からの笑顔だと分かるくらいにその表情は輝いていた。
「でも相川が幸せそうで良かった。景色も綺麗なところだし、カナダは相川に合ってたんだな」
「カナダか……」
教室に向かいながら賢太郎が窓の外に目をやった。そこから見えるのはせいぜい前に登った伊今山くらいだけど、賢太郎の瞳には遥か彼方相川のいるカナダの荘厳な自然が見えているのかも知れない。
「二人でいつか行く?」
「カナダに?」
「うん、カナダに遠足とかどう?」
相川とオリバーみたいにパワフルな景色をバックにして、賢太郎と二人で写真を撮ってみたいなと、漠然とそう思った。そんな風に羨ましくなるくらい、スマホの中の相川の表情は晴れ晴れとしてカッコよかったから。
「行くか。遠足でカナダ」
「それまでに、俺はもっとトレーニングしとかないとなぁ」
「とりあえず卒業して自分達で稼ぐようになってから、だな。行くのは」
そんな事を言いながら二人並んで廊下を歩いていると、後ろから突然背中をバンと叩かれた。こんな事をするのはアイツしかいない。
「おっはよ! 二人してどこに行くんだよ? 楽しいところなら俺も行きたい!」
相変わらず目と口を横に細くして人懐っこい笑顔を浮かべたダイは、俺と賢太郎の間を割って入ってくる。賢太郎は呆れたような顔で「またか」と言うけど、口調の割に視線は優しい。
「カナダだよ。壮大な大自然で星を見たり……いいよなぁ」
俺はうっとりとした口調でダイに向かって答えたけれど、当のダイは眉間に皺を寄せて唇を尖らせた。どうも思っていたような場所じゃ無かったらしい。
「また山かよぉー……。それなら俺は合コンの方がいいかな」
相変わらずな親友の発言に思わず微笑むと、賢太郎がダイの腕を掴んで自分の方へと強く引っ張った。
「お前、こないだの彼女とはもう別れたのか?」
「賢太郎、こないだっていつのだよ?」
「コンビニの店員とか言ってただろ」
「あー、とっくに別れた。『何かイメージとちがーう』とか言われたから」
こんなにいい奴なのに、ダイの恋愛は長続きしない。多分チャラい見た目に反して、案外真面目なところがあるからかも知れないけれど。そんなダイの良いところを分かってくれる相手がいればいいと心から願う。
「俺はなヒカル、心の広い恋人を探す事にするわ。ちょっとヒカルに近付いただけで友人を引き離すような心の狭い恋人じゃなくてさ」
そう言ってダイは俺の頭をポンポンと叩くと、さっさと早歩きをして廊下の先の階段を駆け上がって行く。その背中に向かって賢太郎がダイの名を呼んだ。だけどダイは一度振り向いてニカっと笑うと、そのまま階段の向こうに消えた。
「何だよ、アイツ」
「なぁ賢太郎」
逃げるダイを追いかけようと足を早めたせいで、俺より少し先を行く賢太郎の広い背中に呼びかけた。肩を回してくるりと振り返った賢太郎の、この「何だ?」っていう顔が好きだ。
「俺はちょっとした事にもすぐ嫉妬するような恋人の事が、どうしようもないくらい好きだよ」
一瞬、時が止まる。離れたところから聞こえていた生徒たちの声が遠のく。今の俺は賢太郎しか目に入っていないし、賢太郎も俺しか見ていない。
やがて賢太郎は、俺の大好きな切長の瞳を優しく細めた。ああ、きっと賢太郎は俺の好きな低くて甘い声で顔を真っ赤にしながらこう答えるはずだ。
「そうか」
(ほら、やっぱりな)
「賢太郎のそんな顔を見れるのって、俺の特権だよな」
普段は表情の変化の乏しい賢太郎を揺さぶれるのは自分だけなんだと思うと嬉しくなる。たまらず顔を綻ばせた俺に、一度むくれた賢太郎は仕返しとばかりにずいっと近寄り耳元で囁いた。
「何度も攻められて喜びながら啼くヒカルを見るのは、俺だけの特権だけどな」
「な……ッ!」
「今度の遠足、いつにする?」
ああ、結局俺は賢太郎には敵わない。散々振り回しているつもりでも、本当に翻弄されているのはいつも俺だ。ただ優しく守ってくれているようだけど、でもいつの間にか俺は賢太郎に囲われている。逃げ出せないように、無茶苦茶に結んだクローバーで。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。
雪 いつき
BL
凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。
二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。
それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。
「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」
人前でそんな発言をして爽やかに笑う。
発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる