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【3つ目の怪談:トイレに響く声】
しおりを挟む「あ、あんまり良くないけど……もう限界……!」
この学校の教員として勤務し始めて2年目。私、福永晴香は明日の授業のために社会科準備室から色々な資料を探していた。
探しきって帰ろうと思っていた所……先にトイレの限界が来てしまい。職員室まで戻る余裕はなく、生徒が使う個室に籠る事になってしまって。
陸上部の副顧問ということもあり、資料探しの前にそちらに顔を出していたら夕方遅くまでかかってしまったのだ。
「この時間だと、照明も無いから暗くてちょっと怖いわね……」
社会科準備室は旧校舎の奥の方で。まだ改修されていない箇所が多く、トイレの照明などが付いていない場所もある。夕方遅めのこの時間だと、流石に暗い。掃除する生徒はいるので、紙があるのは救いだが──
「男子と女子。どっちがいい」
「────え?」
トイレの向こう側から、誰かの声がする。声色から、男子なのか女子なのか分からない、中性的なもので。誰のイタズラなのか分からない。そもそも、旧校舎に居る生徒なんてほぼいない。
「こ~ら、変な事言わないの。全く、すぐ出るわよ…………ぇ?」
「男子と女子。どっちがいい」
昔のタイプのドア。スライド式の鍵を外したのにも関わらず個室のドアがびくともしない。
向こう側から抑えられているのか──いや。それなら、グイと押す力を掛けた時に抵抗感が有るはず。だけど、まるで今は……壁を押しているかのように、まったく動かない。
「……ちょ、ちょっと。先生も怒りますよ……?」
「男子と女子。どっちがいい」
ドアの向こう側からの声色は、全く変調しない。からかう様子も、悪意も、一切感じない。
──それが、余計に怖い。
「じょ……女子! だって私、女性だし! 早く出しなさい!」
相手の求めている回答が分からず。慌てて回答をすると。先程まで壁を押していたのかのような抵抗感が嘘のように、勢いよくドアが開く。慌てて転びそうになった。
「うわっとと……! こ、こら! ────え、ええ?」
悪戯にしても良くない。流石に𠮟責しようとして……トイレに、誰も居ない事に気が付く。
他の個室に籠ったのかと思ったが。全く誰も居ない。走って逃げようものなら、足音が響くはずなのに。何の痕跡も無く、謎の声は消えてしまって。
私は急に────怖くなって、慌てて資料と共に職員室へ足早に戻った。
◆◆◆
「身長は高い方が良い? それとも、低い方がいい?」
まただ。今回は別のトイレ、改修済みの本校舎。だけど、前回と違うのは……声が女子のモノだと明確に分かる、高いトーンの声であること。
今回は女子だ、と確信する。いや、男子だったら女子トイレに入り込んでいたので本当に良くないのだけれども。
「も、もう……! 本当にどうやってドアを閉じてるのっ……!?」
「身長は高い方が良い? それとも、低い方がいい?」
「た……高い方! 私そんなに身長無いからっ!」
答えた瞬間。つっかえ棒が取れたかのようにドアが勢いよく開く。足音も、全く聞こえない。
本当に何が起こっているのだろうか……?
◆◆◆
「オシャレな方が良いかなぁ? それとも、素朴な方が良い?」
「う……ほんっとうにあなた、どうやって……っ」
トイレの個室に入ると。それがたとえ、職員室の中でも。謎の問いかけが起こり、それに回答しないとドアから出れなくなる。学校でトイレに入らないよう何とか努力しても……仕事が夜近くまで長引くと、どうしても我慢の効かない時があって。
「お、オシャレな方! 私あんまりオシャレとか得意じゃないから!」
また。壁のような抵抗が外れて、ドアが開く。職員室のトイレにはもちろん誰も居なくて。
生徒たちが出入りしたという話は、他の教員から全く聞かなかった。
◆◆◆
「はるちゃんせんせー」
「どうかしたの?」
ホームルームの終わり。生徒の一人に宿題のノートを運んでもらうよう協力してもらったときに、彼女から相談事を受けた。
「学校ではネイルとか、しちゃいけないのは分かるけど……実は、今度彼氏と一緒にお出かけするんだ。はるちゃん先生はデートとかしてそうだし……やっぱり、ちゃんとオシャレとかした方がいい、かな?」
「────絶対した方が良い! 原井さんなら、ネイルとかを綺麗にして、ナチュラルメイクが絶対似合うよ! とっても可愛いから!」
「か、かわっ……? あ、ありがと……?」
──衝動的に発した自分の言葉に、自分自身が驚く。普通、先生なら。彼女の恋愛相談なんだし、もうちょっと落ち着いた反応をするべきだったのに。でも、彼女が少しでもお化粧をすれば。絶対に綺麗になるだろうと思ってしまった。
「……こ、こほん。でも、学生だからね。あんまり羽目を外したりしたらだめよ?」
「えへへ……ありがと、ちょっと自信ついた!」
原田さんも納得しているようで何とか誤魔化せた。
…………何を?
◆◆◆
「……ねぇ。教えて欲しいの」
やむなく学校のトイレに入った今日も。彼女の声が聞こえてくる。しかし、今までとは声のトーンも、質問の仕方も違っていて。
「貴方の好きな人を教えて欲しいの。オシャレで、身長も高くて……先生にフレンドリーな女の子がいい?」
「それとも──生徒をいやらしい目で見ている貴女を屈服させる、そんなオンナがいいかしら?」
全く違う、2人の女子の声。彼女たちにはバレている。最近、晴香が教え子であるはずの女子生徒に対して……心が揺らいでいる事。
陸上部の顧問として、そして高校の教師として。そんな想いを抱いてはいけない事は分かっている。ましてや、同性である女子に対して。
だけど……だけど。すらっとして、明るい性格の娘。特に、陸上部の女子更衣室で無防備にスキンシップをしてくるような娘たち。
彼女たちに近づかれるたび。今までは、ただ楽しいだけだったのに。
今は──何故だろうか。ドキドキする。付き合っている彼氏と手を繋いだり、一緒の時間を過ごす時よりも。分からない。どうして自分が、こんな風に変わってしまったのか分からない。
「……どうせ、答えないとドアを開けてくれないんでしょ」
沈黙が帰ってきた。ならば──
「分かったわよ! 私は……」
これまで出会った不思議な現象。普通の生徒の仕業ではない。悪戯でもない。もう、これは自分が不意に見た幻覚や幻聴の類でしかない。
だったら────思いの丈をぶつけたって問題は無い。
「今の私は! 距離感の近くて、身長が高くていつも仲良くしてくれる娘たちが好き!」
すると。ガチャンと扉が、向こうの方から開いて。
「……やっと、逢えた」
そんな少女の声が近づいて──
◆◆◆◆◆◆
「せんせー、そんなに頑丈に包帯しなくてもだいじょうぶだよ~」
「結構派手に転んだでしょう。擦り傷とはいえ、今日は安静にした方がいいわよ? ゆっくり歩けるならいいけど、走るのに痛むんじゃ今日はダメ」
「は~い……」
この学校の教員として勤務し始めて2年目。私、福永晴香は陸上部員である稲見雪枝を保健室に連れて行っていた。
陸上部の副顧問として活動しており、今日はコーチが居ない中での練習。そんな中、稲見さんが足を捻り転倒してしまったのだ。
「保健室の先生には話を通しておくから、ベッドで休んでいてね。帰りは……保護者の方に連絡した方がいいかしら」
「うーん、歩く分には全然問題ないんで。少し休んだらよくなると思います!」
「そう、ならゆっくり休んで──え、もう眠ったの!?」
「すぅ……くぅ……」
保健室のベッドでシーツにくるまり、あっという間に稲見さんは寝息を立てていた。幸いと言うべきか、他に寝ていたり滞在している生徒は居ない。
…………だめなのに。眠っている稲見さんから、目が離せなくて。
「もう……本当にどうしちゃったのかしら、晴香……」
あれ以来。トイレでの不思議な現象は起こっていない。最後に声が聞こえた時には、自分はトイレの中で寝ぼけていたらしく。
外から他の教師がノックして、初めて気が付いた。疲れているのだろうと、早めの帰宅を促されたが。私の身体に……あるいは、意識に起こった異変は、終わっていなかった。
「……本当に眠っちゃったのかしら、雪枝ちゃん」
彼女にギリギリ届くだろう声で、独り言。返事は寝息だけ。私は……保健室の他の鍵を閉めて。カーテンシーツで可能な限り、外から見られない環境を作る。
今からするのは、教師として最低の行為だ。でも……だけど。
「そんな風に……無防備に寝顔を晒しちゃダメでしょ……っ! 悪い人に、ヘンな事されちゃうかもしれないんだよっ……♡♡」
雪枝の眠っているベッドに近づいて。寝顔の彼女のほっぺたに、自分のくちびるを近づけて。
「……ちゅっ♡」
あぁ。絶対にダメだと分かっているのに。陸上部でずっと、私に軽い調子で抱き着いてきたり、目の前でぴょんぴょんと喜んで見せたり。
その時に揺れるおっぱいを、私がマジマジと見ていたことにも気が付かずに。
「もうっ……のんびり寝ちゃってっ……♡♡ 本当に、エロいんだからっ……♡♡♡♡」
自分の喉から出たとは思えない、乱暴な口ぶり。今から私は──雪枝を眠姦しようとしている。だから、彼女に最後の警告をする。もう、自分じゃ歯止めが効かないから。
「抵抗しないなら……本当に、襲っちゃう、よっ♡♡♡」
────寝息。私の手は、彼女のおっぱいに伸びる。そして、柔らかくて温かい感触が、体操服越しに伝わった。
「っは……♡♡♡ あはっ……♡♡♡ もう、だめだね……♡♡♡♡」
まだ心の何処かで、バレてはいけないという意識が残っていて。私はバレない様に、体操服越しに彼女のおっぱいを口に含む。
年下の、まだ育ちかけのおっぱい。それを年上である私が吸っているという倒錯感。興奮が、抑えられない。下腹部に、じゅんと心地よい疼きが響く。
「雪枝ちゃんが、そんなんだから悪いんだからねっ……♡♡♡ 私、もうおかしくなっちゃったんだからっ……♡♡♡」
雪枝ちゃんのくちびるに、自分のものを重ねて。彼女のキスを奪う。──その瞬間。彼女の方から、私の口に吸い付く力が。そして、私の口を舐め取る様に舌が入り込んでくる。
「む゛っ♡♡♡♡ ふんむぅゔ♡♡♡♡」
「──はるちゃんせんせー♡♡♡ そんなにアタシの事が好きになっちゃったんだ♡ 眠っているアタシをレイプして、好きなようにしたいんだ~♡♡」
ガバッ、と雪枝ちゃんは腕を開いて。
「……いいよ♡♡」
「へ……」
「知ってたよ。ずっとずっと……アタシの事、見てくれてたよね♡ 抱き着いた時なんて、もっとドキドキしてたし♡♡♡」
「まさか、知ってて……っ」
当惑した私に体当たりするかのように。雪枝ちゃんに抱き着かれる。彼女の匂いが、身体が、顔が。密着して──
「ひゅぁっ♡♡ ちょ、ちょっとっ……♡♡♡ 急に、おっぱい弄らないでっ……♡♡♡」
「え~? でも、好きな人同士でおっぱいを弄ると……どきどき、しない?」
「そ、それはっ……好きな人同士だから、でしょっ……♡♡ 私が良くても、貴女が……」
「……ぇへっ♡♡ 好きな人は居るけど……先生だって、好き、だよ♡♡♡♡」
好き。その言葉を言われただけで、心臓が跳ねる。私は。
「ちゅぅぅう♡♡♡」
「れろっ♡♡ ……ぁはっ♡♡ やっぱり、イイなぁ♡♡♡」
最低な教師の私は。恋人になった生徒と、どんどんと淫らな事に手を染めていき────
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