入れ替わるセカイ

ドライパイン

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すり替わるセカイ

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最初は小さな違和感だった。道行く人の装いが不自然に思う事が増えたり、その姿から普段しないような行動を見かけたりしたとしても。珍しいものをよく見るなと思うだけだった。だがその違和感が、決定的なものになったのは──やはり、自分の身近な人間が変貌したことがキッカケだっただろう。

朝の通学。西田甲斐にしだかいは混みあった電車の中、自らの身体を押し込めるように乗り込んだ。通勤通学の時間ということもあり、スーツ姿の社会人や学生服たちが多い。……のだが、ちらほらとそんな日常風景に似つかわしくない存在が居る。例えば。ちょうど西田と肩がぶつかり合う所に居る少女。その姿はフォーマルなものとは程遠く、白を基調とした何重ものフリルがあしらえてあって、しかし太ももは何も覆い隠していないミニスカート。アイドルが着ていそうな衣装に身を包んだ彼女は、肩がぶつかった西田にバツの悪そうな顔で笑う。

「あっ……いやぁ、すまないね」
「……いえ、こちらこそごめんなさい」

 西田は思わずドギマギする。それは彼女の衣服の非日常っぷりに心躍らされたのもあるが。なにより、彼女の顔には見覚えがある。芸能人に疎い西田でも分かった。最近人気を博し、バラエティーやCMでも引っ張りだこなデュオアイドルの片側。可憐な姿で多くの人を魅了する、大空明日香の姿そのものだったから。

 小さな顔に、真ん丸な瞳がキラキラ輝いて。ツインテールに結った艶やかな黒髪を揺らし、『彼女』は不自然なほどに無防備にこの電車で立っていた。しかし、雑誌やテレビで見たときよりもその快活さは失われていて、むしろ普段の彼女ならこんな感じなのかな、といったラフさがある。

「ちょっとすいません、動きますね……」
「あぁ、ありがとう。いやしかし、クーラーが効いているからといってこうも人がいると……暑く感じてしまうね……」

 分かっている。『彼女』は本人ではない。ちょうど自分の頭上にある電車の広告が揺れる。清涼飲料水の広告に、水着を身にまとった明日香の姿。清楚さと色っぽさが同居した、美しく可愛らしい彼女が。今、彼の目の前でアイドル衣装の胸元を無防備にパタパタと揺らしているのだ。その動きは荒っぽく、自らのおっぱいがぽよん、ぽよんと跳ねるのもお構いなしに扇いでいる。

「っふぅ……しかし、外も本当に暑い……加齢臭もきつくなったってママに言われたばっかりなのに、汗の匂いまでさせたら職場でどう思われるやら……」

 アイドルらしい、愛嬌のある声。しかしながら、独り言で語る内容はどうにも現状の『彼女』とは不釣り合いで。加齢臭も汗の匂いも、近くに居る西田には感じ取れない。むしろ、女性の漂わせる爽やかでありながら男を惑わす妖艶な香り。ちょうど彼女が別のCMで出演している制汗剤の香りが混ざっている。

──西田は。最近感じ取るようになった、この『異常』を愉しんでいた。ここに居ないはずの人物、そう振る舞わないはずの人間が、突如として『すり替わる』ようになった。そしてその現象を認識しているのは『彼一人だけ』。当初は自分のクラスの中に全く知らない人間が現れるようになって、しかも周りは普通に過ごしているものだから、酷く手の凝ったドッキリを疑ったものだ。だけど、そうじゃない事を理解してからの西田の行動はというと。

 ガタン、と電車が揺れ減速する。反動が電車の乗員全員にかかって、ぎゅうぎゅう詰めの社内はさらに圧迫させられる。彼は、意図的に明日香の身体にくっつくように身体を寄せ、事故というには言い逃れが厳しいような、明日香の胸元に両手を当て、ぎゅっと両の手で揉む。

「んぅっ……♡♡」
「っとと、すいません……」
「あぁいや、良いんだよ。ただ、ボクみたいなオジサンの胸だから良いけど、これがもし他の女性の乗員さんだったら痴漢になっちゃうよ。キツイかもしれないけど、ちゃんと両腕で吊り革掴むとかしておかないと」

 自らをオジサンと呼称するアイドル少女。それが彼女の『素』という訳ではない。お忍びアイドルが街に出ていて、そこに偶然居合わせた訳でもない。──西田以外の人間からしてみれば。本当に、社会人の男と学生が偶然ぶつかって体勢を崩したようにしか『知覚』できていない。事実、胸を揉まれて嬌声を上げたことすら『彼女』は理解していないのだから。手のひらに伝わる、柔らかく温かいアイドルのおっぱいの感覚。だが、流石にずっと胸元に手をやるのも怪しまれる。

「ぃよいしょっと……しかし、本当に毎日混んでますね」
「だよねぇ。ボクも毎日乗ってるけど本当にイヤだよ。仕事しなきゃいけないから仕方ないんだけどね……」

 鈴を転がすような可愛らしい声で、『彼女』が笑う。『この人』がフランクな人で助かった。電車は徐々にスピードを落とし、駅のホームで停車する。列車のドアがプシュ、と音を立てて開くと一斉に人が出てゆき、また同じぐらいの人間が補充される。西田が降りる駅はもう少し後だ。彼女も同じようで、先ほどと同じように胸元をパタパタと揺らす。無防備な彼女の姿に思わず目が行ってしまう。女性なら、胸元に向く男性の視線には敏感だが。

「……暑っついなぁ……」

 そうではない彼女の、たゆんと揺れる胸元を眺めながら。西田は電車にもうしばらく揺られるのだった。

────────────────────────────────

 今までは教師がずっと喋り続け、眠気と戦いながら次のテストの範囲をノートにとる。そんな退屈な授業でしかなかったのに。チャイムが鳴り、生徒たちがバタバタと席に着いた頃にガラリと乱暴に教室のドアを開けて入ってきたのは。片手に教科書、もう片手に足台を持った小さな女の子だった。服装も、水色のスモックに黄色の帽子、まるで幼稚園児のようで。そんな女児は、足台を教壇に置いて、バサリと教科書を置く。

「ぜんかいはどこまでだったかな、このくらすは。西田、こたえてみろ」
「あ、はい。47ページの6行目、「しかしどうしたことだろう、私の心を充たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった」の所まででした」
「よし、それではつづきからはじめるぞ。きょうのとうばん、そのつぎからおんどく!」

 大きな声で、女児が国語教師の真似事をしている──のではなく。元々は大柄で、野球部の顧問も兼任しているだけあって声もデカイ40代の男性教師だった『彼』は。いつの間にか、小さな幼稚園児に姿が変わっているのである。足台を使わないと元の背丈の様に教壇に立つことも、黒板に書くこともできないのだ。もちろん、そのことを西田以外が認識している様子はない。

 そしてその証拠に。授業が進み、はす向かいの生徒は日ごろの疲れによるものか、こくり、こくりと船を漕いでいる。時折足台をずらしながら黒板にチョークで殴り書きしていた女児は、眠っている生徒を視界に入れた途端。右手に持っていたチョークをその生徒に向けぶん投げる。それと同時に、大声。

「こらー! じゅぎょうちゅうにねてるんじゃない! たて!」
「うわっ……! す、すいません!」

 慌てて立つ生徒。──だが、𠮟りつけた「国語教師」に怖い要素が一切ないものだから、西田は笑いを堪えるので必死だった。投げたチョーク、「元の身体」なら野球部の顧問らしく、生徒に痛みを与えただろう。だが、今の『彼女』の身体では、遠い席に居た彼の机にギリギリ届くかで精いっぱいだった。大声も、ドスの効いたものではなく。ただ幼女が駄々をこねているようにしか聞こえない。

「いいか、おれたちがおまえらのねんれいのころにはな、ねているせいとなんていたら、なぐりとばされてたんだぞ!」
(……まだ俺たちの年いってないじゃん、おもしろ)
  
 西田以外の生徒は、ピンと張りつめた空気に神経を尖らせているのだが。唯一『異変』を認識している彼は、吹き出してしまわないか、自分を抑えるのに必死だった。そういう事が起こっているものだから、いちいち授業が退屈では終わらない。次の授業は日本史。本来は定年を迎え、再雇用で教師をしている、もうおじいちゃんと言ってもいいような老教師だったのだが。

「ふわぁ……それじゃ、授業を始めるとする」

 薄くなった白髪をいつも心配そうに弄っていたお爺ちゃん教師の姿はそこにはなく。目線が鋭く、いかにもやり手のキャリアウーマンがブツブツと何かを呟きながら、教科書のページをめくっていた。タイトスカートを着こなした彼女は、しかし腰を痛そうに曲げて教壇に手を当てる。

「いやはや、もう寄る年波には勝てないのぉ……んっ」

 前屈みになっている姿勢で、オフィススーツで押さえつけられている胸元の膨らみを見せつけるかのように。もちろん、本人にはそんなつもりなど全くないのだろうが。『彼女』は気合を入れるかのようにピンと背筋を伸ばして、黒板に書きこんでゆくのだが。

「ぁ痛たたた……」

 とても腰をヤるような年齢に見えない、若々しい彼女が時折腰を擦る。自然と、タイトスカートのヒップのラインが強調され。

(この先生もいつから『すり替わった』んだっけ……いや、エロいから良いんだけど)

 そうしているうちに、昼休憩の時間。人気の少ない屋上に向かう、学校の階段踊り場で、朝に注文していた弁当を口に運びつつ、同級生の会話に相槌を打つ。

「──それでだ。彼女にするならどんなタイプをお互いが知っておくのは必要だと思うんだ。合コンとかセットする事を考えると」
「そりゃもちろん美人系でおっぱいの大きい娘だろ」
「いやでも、美人っぽい子って性格キツそうじゃね? ここはやっぱり文学女子っぽい、大人しげな子を誘ってさ……!」

 いつもつるんでいる、同じ部活の同級生。クラスではこういう話はしないのだが、他の人も居ないし思春期男子なのだから勢いづいてこんな話題をしてもおかしくはない。おかしくは、ないのだが。

「……西田は? なんかさっきから黙ってるけど」
「あーいや……ちょっと寝ぼけてたかもしれん」

『彼ら』は気づいていない。美女系にお近づきになりたいと言っていた友人は、小さな体躯に柔和な笑顔をたたえた、大人しそうな女の子に。履いている上履きの色からして1年生だろうか。そして文学少女を所望していた友人は、この学校の生徒会長だった。そのクールビューティな容貌から、勝手に「女帝」というあだ名が横行していることで噂にもなっている。お互いのタイプの女性が目の前に居るのに、その事に『彼女ら』は全く気が付いていない。

「まーったく西田はさ……肝心なことを聞き逃しても女の子に惚れられる訳じゃないんだからな?」
「……や、何の話?」

 そして、小中高とずっと付き合いの長い友人。鈴木渉すずきわたるの身体も、元の男子高校生の姿ではない。隣のクラスのマドンナとも名高い、いつも元気で皆をひっぱる、それでいて可愛らしい少女。河内由紀の姿になっている。つまりこの場には、俺を除いて美少女が3人、好みの女性のタイプについて話している状況。──楽しいのだが正直、毎日やりづらい。駄弁る内容は男のもので、それなのに姿は女性。

「あとさぁ、スキンシップとか許してくれる子が良いなぁ。こう、やってぇっ、おっぱい触っても怒られないような」
「いやお前流石にそれはセクハラだろ、それで怒られなかったら逆に奇跡だわ」

 ふにっ、と自分の胸元を揉む友人。男子生徒がふざけて自分の身体を揉むしぐさ、だったのだろう。だが今の西田の目には、実際に自分の胸を揉みしだく生徒会長の姿しか目に入らない。

 階段の上の方に座っている『彼女ら』は、スカートを履いている事などお構いなしに大股開きで座っている。ちらり、とそう気づかれないよう内側を見れば、意外にも真面目そうな風貌をした生徒会長が、紫色の男を誘うような下着を着ていたりするのが見えてしまい。動揺を隠すよう、西田は口を噛む。


──予鈴のチャイムが校舎に鳴り響いた。

「お、もうこんな時間か。」
「次体育だぞ、早くいこーぜ!」
「……そう、だな」

 いつもなら退屈で、しかも一番疲れる体育の授業。それが今の彼にとっては一番の楽しみになっていた。

────────────────────────────────

 男子更衣室のロッカールーム。昼食の会話の盛り上がりのそのままに、ガヤガヤと人の混みあう部屋で会話が交差する。この『異様な光景』にもそろそろ慣れてきた、と思ったのだが。今までと違う姿に『すり替わった』人間が居るのを認識するたびに、心が跳ねる。 
 
「いやお前、マジで脱ぐと凄いよな……どんだけ鍛えてんだよ、テニスでそこまで腕力いるのか?」
「素早くスマッシュ打つには腕の筋肉もいるし、脚も鍛えなきゃいけないんだよ……けど今日はなんか不調かもしれん、なんかやたら荷物が重いんだよ」

『筋肉バカ』の渾名で通っていたテニス部の男子。部活の他に自分でトレーニングを組んで自らの肉体美を磨くストイックさも学校で有名だったのだが。今の『彼女』はお淑やかすら感じさせる、外国人の令嬢のような風貌になっていた。銀色の髪をふわりと靡かせる彼女の腕は、軽く力を入れれば折れてしまいそうに細い。そんな腕を、力こぶを作るかのように曲げて見せる彼女。当然、その体のどこにも筋肉は見当たらない。

「何で着替え止まってんだ? じっと他のヤツら見てるみたいだけど……まさか、お前もアイツの筋肉美に惹かれてしまって……!」
「そういうわけじゃないんだけど」

 肉体美に惹かれたというのは間違いではないのだが。お前みたいなのが居るせいだ、と思う。西田の背中から身体を密着してきて、おふざけでぎゅうとくっつく鈴木。いや、今は由紀の身体。華奢な身体に不釣り合いなおっぱいがギュウとくっつかれるので居心地が悪い。今の『彼女』は上裸だ。『この姿』に変わって何日も経っているせいか、ブラジャーを着けていない。ここで仮に息を荒くしたり、ましてやおっ勃たせたりしようものなら流石に不自然に思われる。

「なんか最近、西田ってずっとぼーっとしてるよな?」
「気のせいだろ、俺はいつも通りだし。それより鈴木もさっさと着替えろよ」

 嘘をつく。男女混合の様相を為したロッカールームの中は、男の臭いの他に別の空気が混ざっている。香水のような、柔軟剤のような、柔らかい匂い。『身体のすり替わり』の法則性を掴めていない西田だが、男の時そのままの生活を送る人と、入れ替わった身体に準拠した動き、服や下着などがそちらに引っ張られる人も居るようだ。実際、鈴木は由紀の身体でボクサーパンツを履いているのに対し、向こうのテニス部『元』男子はいかにもお嬢様といったフリル地の高級そうなショーツを履いている。

(……何なんだろうな、本当にこの状況は)

 役得というには少々じれったい。事態の解決を望んでいる訳ではないが、このまま他の人と見える光景が違う状態が続くのは正直不安要素が大きい。この前も、クラスで話題になっていた女優の姿をなんとなくテレビで見かけたら、小太りなオッサンにしか見えないので驚いた記憶がある。正直、キスシーンは目も当てられなかったのを思い出した。

──体育の授業。元の身体の背の高さで並んでいた順番は、様々な年齢層の人がごちゃ混ぜになっていて機能しなくなっている。老人の身体をした人が居ないのは幸いだが、明らかに体格も年齢も、性別も違う集団が体育館に集まる。

「よし、全員集まったなっ……間隔広げて準備体操しろ……声出せぇ……」

 体育教師は1年の後輩の体操服を着た女子生徒。元の若々しい体育教師の身体と違って、運動していなさそうな小動物感のある彼女では、声も小さい。他の皆が静かにしていてギリギリ聞こえるかどうかだ。

「1、2、3、4、伸ばして~……」

 この季節だと、カリキュラムはバスケットボール。体を慣らし、実際の試合形式でチームごとに対戦。西田のチームには比較的姿の変わっていない男子生徒が多いが、対戦相手のチームは彼の目からして、明らかに「すり替わった」人間が多かった。

(上は熟女っぽい人から、下は小学生レベルのヤツもいる……まともに試合できるのか、コレ?)

 こうも入れ替わっていると、元の身体と今の身体の区別がつかなくなる。試合のホイッスルがけたたましく体育館に響き、一斉に構えて。ジャンプボールの瞬間。──相手チームは、明らかに身長の足りていない小学生のような女児。当然ボールはこちらに渡り、一気に攻め込む。パスを受け取った西田がドリブルしつつ敵陣に踏み込むと、敵チームは一気にブロッキングにかかる。

 のだが。体格の違う女子や、運動していないような、普段来ていないだろう体操服を着ている大人びた女性。そんな相手に引っかかるほど、体力に自信が無いわけではない。スティールも躱し、一気にシュートまで。ガゴン、とゴールの枠まで当たったが。

「集中しろよー! 防御を突破してもシュート決めなきゃ意味ないんだからな!」

 チームの味方にそう言われるが。…………集中など、出来る気がしない。何故なら。体格にあっていない体操服を着ている女性などは、ぱっつんぱっつんになった胸元に、へそ出し状態。逆に小さくなった子はぶかぶかの合わない服。特にオトナになっている人は、下着も相応のモノを──ブラとかをしていないせいか、ジャンプしたりした時にぼよん、と跳ねる大きな膨らみ。

(ああ、本当にやりづらい……)

──────────────────────────────

 放課後、女子高生と一緒に──ではなく、同級生の鈴木と一緒に帰る。姿は女子高生の河内由紀のモノなのだが。今日は部活も休みだ。まだ青い空の下、隣には華の女子高生。姿だけだが。

「しっかしあれだな、なんか最近ずっと様子が変だぞ西田」
「……いや、『俺』はいつも通りなんだけど」
(『俺の周り』がおかしくなっただけ……のはず。そのはず……なんだ)

『すり替わった』身体に実際の動きが準拠している事を考えると、自分の見えている状況こそが正しい、はずなのだが。周りが今まで通りに振舞い続けるものだから、段々と不安になってくる。

「……まーた考え事してる。ていっ」
「ひょわぁっ!?」

 あろうことか。鈴木は西田の股間に手を忍ばせ、チンコを握ってきた。慌てて飛び跳ねる。存在自体は悪友の男子同級生、とはいえ姿は女子高生なのだ。そんな相手に弄られたらどうなるか。柔らかい手のひらの感覚。一瞬本当に勃ちかけた。

「急にナニするんだお前ホント!?」
「えーこんなのスキンシップみたいなもんだろ」
「今度やったら警察突き出すからなお前!? 同性でもセクハラは成立すっぞ!?」

 オーバーリアクション気味に逆ギレする、フリ。そっちに気を向けないとおかしくなってしまいそうだ。声も姿も可愛いい女子高生、そんな奴がすぐ近くに居てやたらとベタベタくっついてくる。その状況だけでもパニックになりそうなのに、それを悟られてはいけないのだから。

「どうせさっき行ったことも聞いてないんだろ、明日休みだし部活もないし、買い物行こうぜ」
「……つってーと、また同人誌とか買うのか?」
「一日じゃ全部回れないからな、全年齢のやつはお前にも協力してもらうぞ!」

『元の』鈴木は大人びた──というより、老け顔。そのため年齢認証がたまに顔パスで通ったりする。まだ高校生なので本来は禁止されているような所にもひょいひょいと入ってしまえるのだ。その恩恵に預かった事も幾度かある。……まさに悪友らしい。家が近所というのもあり、彼とも長い仲だな、と改めて思う。

「はぁ……しっかし、いっつも一緒にいるよな俺ら」
「互いの好きなタイプから性癖までバッチリ理解してるしな」
「言うな……なんか恥ずかしい記憶を思いだす」

 互いの家に遊びに行って、隠してあったエッチな本をお互い見つけてしまうこともあった。それでも、相応に仲は良いとは思う。

「西田が女だったら絶対付き合うのになぁ」
「……お前な……そういう発言は女子の前で言うなよな」
「西田だから言ってんだろ」

 無自覚に放たれたその言葉で、ドキリと西田の心が跳ねる。問題はその発言を言っている『体』の方なのだ、とは流石に言えず。ニコリと笑いかける姿は、天真爛漫な河内由紀。

「んでもって、絶対ヤる。朝から夜までずっとヤり続ける」
「誰かに聞かれたらまじでドン引かれるぞお前……性欲の塊みたいな事言って」

 明日の約束を取り付け、家に帰る。家族が『すり替わって』居ないのは幸いだ。いつもの日常が戻ってきて、安堵する。家事の手伝いや宿題、夕食に風呂。やることをこなしてゆくと、どんどん時間が過ぎてゆく。

(……一度、誰かに相談するべきなのだろうか)

 まどろみながら、そんな事を思う。だが、マトモに取り合ってくれる人はきっと居ないだろう。答えのない悩みを抱きながら、西田は意識を溶かしていった。
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