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短編
エッチな話をしている男友達が女友達になる話
最近は寝不足だ。目を覚ますたびに全身にだるさを感じ、まだ布団にもぐっていたくなる。仮に一人暮らしにでもなったら、俺は毎日学校に遅刻するのではないか。登校している間も眠気は覚めない。駅のホームで電車を待っている間に目を瞑って、僅かながらに眠気から回復しようと試みる。
「よーっす、おはよう」
寝不足の原因、現る。
「あぁ、うんおはようさん」
「毎日毎日眠そうだがどうかしたん?」
流石にお前のせいだ、とは言えない。冬場はこんな感じなんだよ、と適当に誤魔化そうとすると、小野塚良哉は悪い笑顔を浮かべる。
「ははーん、さては遅くに寝る生活になってるな? 最近は写真集やらスマホ動画やらで簡単に『そういうの』にアクセスできるもんなぁ」
「朝っぱらの駅ホームでトバすなよお前、僕までお仲間扱いされるんだぞ」
「ナ~ニを想像したのかね健全な男子高校生たる斉藤優斗クン、我々は熱い友情を結んだ仲ではないか」
「やかましい、アンタの口から下ネタ以外が飛び出すのを見たことねーわ」
高校に入学して、クラス分けからこんな風にずっと彼とアホな話をしながら登校する。それが、今までの『フツウ』だった。それが決定的に変わったのは、いつからだったろうか。
「はーぁ、こうも毎日男とばっかりダベるのもどうなんだろうな、青少年として」
「安心しろ最近は晩婚化だ、アラフォーまでに結婚できてりゃ万々歳よ」
「そこまで話を飛ばすな、単に俺は会話できる女友達が欲しくて。あわよくば付き合ってみたいとか思ってる」
「もう既に現実離れした話をするのはやめてくれ、彼女いたことない歴が今年で何年目だ」
「うるせーな、誰が筋肉ゴリラでムサイ奴だ」
「すまんな、お前の筋肉はバスケ部胸板選手権で優勝したものの、見せる相手が更衣室の男子だけってことは言ってない」
「一言どころか三言くらい余計だわ」
こういう悪口は、あまり本人に言うのはよろしくない。のだが、良哉は一切気にする素振りをみせないのだ。時折冗談が過ぎたか、と思う時期もあった。こいつの豪快な笑いは、そんなウジウジした僕の悩みなんて一瞬で吹き飛ばすようなものなのだが。
「だいたい彼女が居たことが無いのなんて、優斗も同じじゃないか」
「……僕、そんな話したっけ」
「いや、明らかに女慣れしてなさそうだしな。この間、部活の後輩の子から書類か何か受け取るときにめっちゃ表情強張ってたぞ」
「自分としてはにこやかに対応しようとしたつもり……だったんだけど」
頭を抱える。部活で入っているバトミントン部で追加入部者が居ると聞き、後輩の女子生徒から名簿を受け取ったのだが。
「ああわかるよ、スマイルを作ろうとしたのは分かる。傍目から見たらホラー映画のポスターみたいだったけど」
道理で、彼女が怯えていたように見えたわけだ。嘆息が口から洩れる。
「そう凹むなよ、単にお前もこちら側ってだけの話だ」
「何の慰めにもならねぇ、良哉と僕とじゃキャラも違うだろうに」
ホームのチャイム放送が、けたたましい音を立てて列車の到着を告げる。ドア窓越しに見えた列車は、そこまで混んではいない。僕たちが朝練で早く学校に来ているというのもあるが、朝の通勤時間帯にしては乗車率が少ないのがこの駅の特徴である。最も、街に近づくにつれて通勤・通学先の乗客も増えていくのでこの平穏は今だけのものなのだが。
「ま、のんびり椅子にでも座ってお話しようや、次の文化祭までに一緒に回れる女友達を探す方向で作戦でも練るとするぜ」
「割とタイムスパン長いな?」
どっこいしょ、と若さ溢れない言葉を吐き出しながら、良哉は列車内にある長椅子の端に座る。当然ながら、俺もその隣に。
「……しっかしまぁ、仮に彼女ができたとして。どんな娘がタイプなのよ」
車内に他の人がほとんどいない上に、僅かな乗客はヘッドフォンやイヤホンで音楽を聴いている。朝っぱらからこんな話をするのも変だが、良哉以外に聞かれないなら別に構わない。
「僕としては――ちょっぴり小悪魔系ぐらいが好きかもしれん。多少は遊んでるしイタズラっぽい事するけど、急に迫られると弱っちいみたいな」
「願望盛りまくりじゃないか優斗クン? 真面目そうな顔してソフトMなところでもあるんですか」
「違うね、これは逆転のための一手だ。遊び半分でデートに誘ってみたものの、意外に自分の好みにドストレート。しかし相手はあくまでも男友達、女友達の範疇。ここで自分の方から一線を超えるのは駄目だ……と長時間踏みとどまった結果付き合った瞬間にデレデレと化す訳よ」
「前日に何か読みましたか? 私びっくりして敬語が出てしまいましたわよ」
こいつに対抗するには、これぐらいの強者にならなくてはならない。――もとい、今『僕たち』に降りかかっている異変を最大限楽しむには、これぐらいが丁度いい。
「んで、良哉はどうなのよ。僕ばっかり話しているのもアレだろ」
「そーうだなぁ……」
無意識に唾を飲む。良哉は、腕組みをして考えているようだった。
「俺としてはやっぱり青春っぽいコトに憧れてるのかもしれん。例えばバスケ部の後輩マネージャーが彼女だったりして、練習中はタイムキーパーしたり、水分補給のための準備をしてくれたりする」
「――ほう」
「俺と彼女とが付き合っていることは秘密だ、他の部員にフルボッコにされるからな。だけど飲み物とかを個別に渡してくれる時にさぁ、『先輩、頑張ってくださいね』って一言余計に付け加えてくれるだけで男心はキュンときちゃうのよ」
「キュンとかいうな」
話に相槌を打つが、実のところ話の内容の全てが頭に入っているわけではない。寝ぼけているからではなく、目の前で起こっている光景がその原因。
ガッシリとした良哉の躰は、普段であれば僕の身長をゆうに10 cm近くは追い越している。座高も当然彼の方が上だ。しかし、良哉の目線がだんだんと僕のソレと同じになり、やがてさらに縮んでゆく。短髪に切り揃えられた髪が伸び始めて、ショートカットぐらいの長さに。肩幅は小さくなって、僕との席の間が自然に空いてしまう。組んでいた腕が細くなりはじめ、素早いパスのバスケットボールを受け止めていた、ザラザラして大きい手は、いつのまにかすっかり小さく、傷ひとつ無くなっている。
「でさぁ、練習が終わって掃除して、普通だったら男同士女同士でつるんで帰るのが毎日なんだけど、忘れ物があるって抜け出してお互いがもう一回学校に戻るのよ。それでようやく二人っきりになって、『一緒に帰ろ、良哉くん』って先輩付けをやめるんだよ」
「お前も欲望めちゃくちゃ盛ってるじゃねーか」
普段なら肘打ちの一つでもしただろうが、良哉の変化はまだ終わらない。話しているうちに低く響いていた彼の声が、段々と弾むような、軽やかな声になる。着ていた制服は、いつの間にやら男子制服ではなく、セーラー服になっている。下の方もズボンでなく、スカートに。本来見えるはずのない脚がいつの間にか露になるが、スネ毛が生えているだろうそこには文字通りの絶対領域が。彼は意識しているのだろうか、組んでいた腕にいつの間にやら二つの大きなふくらみが当たっていることを。きっと、No1と呼ばれた胸板はソコには存在しない。
「普段は二人っきりになれないから、今こそ彼女らしいことをしようっておもうけど、手を繋ぐだけで精一杯! 何か楽しい事を話したいけど、今一緒にいることが一番楽しいから何を言えばいいのか分からない! 女子同士で見せる元気な小動物っぷりとは裏腹に、放課後はうら若き一途な乙女!」
「普段少女漫画か何かを愛読されてます?」
――ともあれ。これで状況は完成した。今僕の隣に居るのは、体格が災いして女子生徒から話しかけられない悲劇の巨人などではない。……キャッキャと架空の恋バナに花を咲かせ、小さな体躯にあふれんばかりの笑顔をたたえた、元気っ娘。爪の先には自然なピンク色のネイルをして、鞄には僕の知らないキャラクターアクセサリをつけて。
「ね~え、聞いてるんですか斎藤先輩?」
「――あ、あぁ。うん聞いてた聞いてた」
「それ絶対聞いてた時の返答じゃないですよね!?」
呼び名すら変わったことに、一瞬虚を突かれてしまった。ぐいと『彼女』は顔を近づけて僕を糾弾する。
「朝と夕方ぐらいしか一緒に居られないんだから、もっとお話しようって言ったじゃないですか!」
「ごめんって、昨日は練習でヘトヘトでさぁ」
「まぁ、分かりましたけど。沢山先輩が頑張ってるのは、私だって見てますから」
授業の教科書の他には、着替え用のウェアしかもっていなかった良哉の荷物に、いつの間にかラケットが加わっている。これを見るに、『彼女』は僕と一緒のバトミントン部に所属していることになるのだろう。
「じゃぁ、その代わり私のお願いを聞いてください。私だって眠たいんですから」
「あいわかった」
「そうしたら、もうちょっとこっちに近づいてきて下さい」
自然に空いてしまった席を詰める。そうすると、彼女は目を瞑って僕の方に寄り掛かってきた。
「学校まで、一緒にひと眠りしましょう。他の人に見られても、偶然を装えばいいんです。『優斗くん』も目を瞑ってください」
僕も、彼女と同じように視界を閉ざす。
真っ暗闇。だけど、肩から触れ合う暖かい彼女の体温と、僅かな匂いがこちらにも伝わる。トクトクと、脈拍が触覚から伝わってきた。きっと、普段の彼女よりもずっとドキドキしているのだろう。何やら、僕の背中に触れるものがある。さするような、そんな感覚。後ろ手に、それを握り返した。
「――ッ♡」
一瞬だけ、隣で声がする。握ったこぶしから力が帰ってきて、滑らかな感覚が伝わる。脈拍はさらに早まり、吐息が聞こえてきた。……正直なところ、僕もそうなのだろう。
こっそりと、僕だけ目を開いてみる。隣の彼女は、まだ目をつぶったまま。だけどほんのりと頬に紅が刺さっているように見える。ふと、良哉の元々の素顔を幻視し、今の彼女の顔つきを見る。口紅、というほど派手ではないものの色付きのリップクリームをつけていた。可愛くありたい、という彼女なりの願望だろう。だが、それを汚すのも。
「ふむっ!?」
驚いた彼女が一瞬目を見開く。唇に思わぬ感触があったのだから、当然ともいえる。しかし、周りは誰一人としてこちらに気が付いていない。そのまま、彼女をもっと求める。
「んっ……♡」
抵抗は一切なかった。もう一度彼女は目をつぶって、深い接吻を顔を赤らめて待ちわびている。今のままでも十分すぎるほど可愛らしい……のだが。
僕はスッと手を伸ばす。『彼女』の脚先に手を進め、スカートの内側に指を触れた。生暖かい、ぬるりとした感覚。
「んっ……♡ ひうっ……♡」
突然の事で一瞬驚いた声が挙がるも、必死で声を抑えている。普通なら、こんな事を人前で行えば咎められるだろう。だけど、今の僕には確証がある。ふと顔を上げると、スマホを弄っていたリーマンと目があった。当然彼は僕たちの痴態を見ているはず。しかし、彼は表情一つ動かさずに再び画面を見つめるのみ。
「せん……ぱい……♡」
「下の方ビショビショなんだけど、キスしただけでこんなんなる?」
「昨日の夜から……せんぱいのこと……おもってたんですからっ……♡」
「ああ、それで眠そうだったのか」
言いながら、しかし愛撫を止めない。女性経験なんてほとんどないから、テクニックなんて皆無に等しい。しかし、後輩ちゃんは必死で喘ぎ声を抑えている。不思議なものだ、つい数十秒前にはゴツイ男だったなんて信じられない程に女の子らしい。
「おねがい、今だけはあたしのこと、ぎゅってしてください♡」
耳元で囁かれた。そっと腕を彼女の体躯に回すと、すっぽりと僕の体に収まった。彼女の吐息が耳にかかり、熱が僕にも伝わってくる。
「ずっとっ……あっ♡……こうしてたいっ♡……がっこうじゃ、せんぱいと……ふたりっきりになれないっ♡」
顔を赤らめながらも、どこか涙目になっている。感極まってなのだろうか、そんな表情をされると僕も困ってしまう。なんとかなだめようと、声をかけた。
「帰りの電車、また乗ろう。一緒にいる時間作りたいからさ」
「――っ♡」
愁いを帯びた表情がぱぁっと明るくなり、嬉しそうに抱き着いてくる。身体じゅうに広がる、女の子の香り。近くにいると、やっぱり彼女の躰は暖かかった。――なるほど、確かに小動物的可愛さと蠱惑的な魅力が混在している。軽く頭を撫でると、後輩ちゃんは顔ごと僕の方に埋めてくる。電車が2駅進んで、学生たちが大量に入ってくるまで、ずっと僕たちはひとかたまりになっていた。
――――――――――――――――――――――――――
授業前。スマホのメモを隠れて起動する。先生が来るまでに、周囲にバレずに記録しておきたい。
【確定事項】
・良哉と自分の2人で会話したときに発生する。カメラ等で変化する瞬間を録画することはできない。いつの間にか変わっている。
・女性になるのは良哉か、2人同時のどちらか。周囲は発生しない。周囲はもともとそうだったかのように認識。
・女性化していた時の記憶は自分のみ保持している。
・性的行為をしていても周囲が違和感を持たない。(どのように見えている?)
【不確定事項】
・2人が会話している事柄が変身内容に関わるが、どのように影響している?
・元に戻るまでの時間が不定期。特定の場面(シチュエーション)が終わると解除される?
・2人同時に居ないと発生しないが、変身後に個別行動するとどうなる?
・録画、録音の類が出来ていない。記録手段を探すこと。
チャイムの鳴る音と共に、スマホを鞄に滑り込ませた。忘れっぽい性格なので、可能な限り記録はしておきたい。動画や音声で記録出来ないのが残念でならない、毎回データ破損やら電池切れやらが起こるので、「録画できない」のが条件の一つなのかもしれない。
離れた席の良哉は、チャイムなどお構いなしにクラスメイトと駄弁っている。先生が来るまでは休み時間というスタンスだからだ。今朝の出来事は、完全に彼の記憶にはない。駅で話した話題がそのまま学校まで続いていた、という風に良哉は覚えているだろう。僕自身も、白昼夢と疑った事が何度もある。
ガラリ、と教室の扉が動く音と共に先生がやってくる。慌てて座る良哉達、僕自身も気持ちを切り替えておく。今日の午後には体育の授業がある。それまではいつも通りやっていかなければ。ノートとシャーペンを用意し、自分の頬を軽く叩いた。
そうして、待ちわびた昼休み。学校の食堂に集まる男衆に僕自身も混ざる。食堂とはいえ、メニューが豊富なわけでもない。カレーに定食、人気のメニューは卵かけご飯と、カラフルさとは縁遠いがために食費をケチりたい男子生徒以外には訪れる人が居なかった。
「午後一の体育はめんどくさい」
「わかる、わき腹が痛い」
同席する良哉は肉うどんをすすりながら、眠そうに目をこする。授業中の彼は模範的生徒とは言えない。運動量が僕とは段違いな分、そうなるのも仕方が無いといえば事実だが。テストで酷い点を取った事が無いから、どうにか上手くやっているんだろうけど、それはそれで時間の使い方が不思議である。
「この時期だと外で運動は寒いしなぁ」
「季節の変わり目でちょうどジャージ着れないってどうなんだよ」
「あんなん日付で決めるもんじゃないぜ、今ジャージ着たら校則違反にでもなるのかよ」
学校の規則では4月からジャージが禁止になっている。今までジャージにお世話になっていた分、春風やらで寒いときはクシャミが出るほど身が冷える。
「しかし、しかしだよ優斗くん」
「なんやねん急に身を乗り出すな、箸を人に向けるな」
「その校則は女子生徒にも適用されるのだよ、芋臭いジャージからの開放だ」
「お前ジャージにはジャージの良さがあるって11月に力説してたよな?」
とはいえ、青春真っ只中の僕たちには同意できる部分がある。僕たちはほぼ同時に口を開いた。
「つまり体操服の下からのおっぱいが見える」
「つまりは彼女らの生足を見ることが出来る」
被った台詞と、被らない意見。
「やれやれ体操ズボンからのぞく素脚の魅力がわからんとは、優斗クンもまだまだお子ちゃまだな」
「お前11月に真逆のこと言ってなかったか?」
とはいえ、今度ばかりは良哉の言っている事に同意ばかりしていられない。何しろ、おっぱい星人たる僕にはその良さを説く義務がある。
「冬の間に育っていたオッパイが、サイズの合わない体操シャツに抵抗しているあの感じが分からないのかよ」
「あー、確かに冬の間に体操シャツを買い替えたりはしないか。多少きつくてもジャージで隠れるし……ってそんなズボラか?」
「今頃女子の着替え室では『しまったなぁ、こんなことなら体操シャツ買っておくべきだった』とか言いながら頑張ってブラを寄せている女子生徒がなっ!」
「……気持ちは分かるぜ、すげーわかる。だけど、『今日寒ーい』って言いながら体を抱き寄せる女の子、触れ合う脚と脚。その間に挟まってみたいとは」
「女の子同士の間に挟まろうとすると締め上げられるぞ」
「ごめんて」
互いに、軽くうどんをすする。良哉は更にプロテインのシェイカーまで持ってきていた。体が資本で、かなりの好成績をあげているのはこういうストイックさにも起因しているのかもしれない。……普通バスケのエースってモテるものなのでは。
「去年の秋までは優斗と同じ意見だったさ、だがこの前出たあのゲームに俺のどストライクポイントが変わってしまったのよ……!」
「……あー」
少し考え込み、思い当たるフシがあった。SNSでも大量に画像が流れていたのを思い出す。
「実際プレイして動かしてみるとよ、あの魅力には抗えないわけ。遂には街ゆく人のソレについ視線が持っていかれたり」
「見抜きしてんじゃないよ」
「大丈夫、心のSDカードに保存してるだけだから」
「後で見返す気満々じゃねーか!」
まあ、いい。性癖はぶつけ合って殴り合う事は有っても、仲違いするものではない。様々なものを愛することが出来るのが人間の尊さなのだ。
「……ねぇ、聞いてる?」
そんな事を考えて一瞬眼を閉じると、体の重心がブレる感覚に襲われた。クラリと目眩がするか、気持ち悪くなるほどでもない。再び目を開いた時には、全く景色が違って見えた。
「そろそろ体育の授業始まっちゃうから、急がないと」
「……んぁ、ごめんごめん。食器下げちゃおうか」
色気の全くない、男だらけだった食堂は男女半々ぐらいになっていた。室内構造自体は変わっていなかったが、ご飯のメニューが違う。野菜をふんだんに使ったスープやら、トロトロのオムライスやら、なんともフォトジェニックなものに。
「久々の体育だし、着る物も違うねぇ」
「あーっ、それ忘れようとしてたのにぃ」
変化したのは風景だけではない。目の前で一緒に昼食をとっていた良哉が立ち上がる。『彼女』のスカート裾からのぞく脚が、蠱惑的に映っていた。僕の方はというと、良哉よりも身長こそ低いものの胸の部分には立派なものがあった。服のサイズに合わせるため、無理やりおっぱいを押さえつけているような感覚が常に伝わる。
「ユウちゃん、どうしたの? 早く着替えないと授業間に合わないよ」
「……ええと、ごめん。ちょっとボーっとしてたみたいで」
「いいよね、そんな風に少しポヤっとしてるところが可愛らしいというか」
――――――――――――――――――――――――――
そうして、更衣室。
男の時はクラスの女子たちと会話することなどあまりない。しかし、この現象が起き始めてからは女子たちの好む話題が分かるようになってきた。もとい、そうならざるを得なくなるというか。
「この格好、さむい……」
「男子達はグラウンドでサッカーだって。そっちの方が良かったかなぁ」
「いーや、ウチらは体育館でいいよ。さっき風吹いた時外に居たけど滅茶苦茶寒かったんだから」
彼女らが着替えるのを横目に見るのも、十分目の保養になる。なるのだが……
「ユウちゃんったらまたボーっとしてるー」
さっきから話しかけてくる良哉、もとい良子。一番ドエロイのがこいつになるとは思わなかった。体操服のズボンを短くデザインした人に今日ほど感謝したことは無いだろう。むっちりと膨らみを主張している彼女の太もも。今すぐにでも、膝枕を要求したくなってしまう。
「だ、だって私もこの服だと大変だし……」
「着替えるの渋ってもだめだよ、あたしだって少し恥ずかしいんだから」
「うぅ……」
わざと恥ずかしがって、しかし自分自身でも制服を脱ぐのが楽しみであった。ワイシャツのボタンを外すと、弾力を持ってソレが露になる。
「やっぱりおっきいなぁ……それだけあったらなぁ……」
物欲しそうに、良子が自分の胸に手を当てる。決して彼女のそれが小さいわけではない。むしろこっちが大きすぎで、街で見かけたら二度見すること間違いない。グラドルだって、こんな逸材は居ないだろうと『自分のカラダ』を品定めする。
「そんなことないよぉ、良子ちゃんだって太ももが健康的って言うか」
「えー、私はもっと細い方がいいなぁ」
数十分前の『良哉』が聞いたら激怒しそうである。それ以上痩せるのは無意味だって。――確かに、僕たちの会話内容が改変事項に関わるのは確定的だろう。
そうして、授業の時間。準備体操のあとはウォームアップとして体育館を数周するのだが、ランニングの最中が大変だった。体格が普段と違って、走る感覚が違うのもあるが何よりも大変だったのがオッパイの大きさ。一歩、また一歩と走る度に揺れが生じてしまう。もともと体力がなかったのか、ランニングが終わっただけでへばってしまった。
「はぁっ……はぁっ……」
「大丈夫、ユウちゃん?」
全く息の上がっていない良子。彼の元々の体力もあるが、体つきも普段から運動してそうなものだからだろう。ふと、彼女が口に手を当てて驚いた様子を見せた。肩で息をしながら、彼女に問いかける。
「どうしたの?」
「ユウちゃんったら、ダイタン……」
胸元を見てみると、汗でびっしょりになった体操服。……の下に、ブラが見えた。透けブラ。
「い、インナーを忘れちゃったのかな……?」
無性に、こちらも恥ずかしくなってくる。どうしたのー、と女子生徒が駆け寄ってきた。ひと目様子を見るに、なるほどねと頷く。
「あちゃー、これは体調不良ってことにしなきゃね」
「いいの……?」
「良いってことよ、ウチらもたまにやるしね!」
そう言って彼女は体育教師のもとに駆け寄っていった。普段から女子グループのリーダー格をやっているだけあるのだろう。姉貴分というか、そんなポジション。体育の先生は男ということもあり、あまり女子生徒には強く言えないというのが普段からの評判だった。
「先生も良いってよ」
「じゃあ、アタシが連れて行くから!」
そういって肩に手を回してくれるのは良子。体を預けると、服から伝わる柔軟剤の香り。それに混ざった汗の匂いが届いてくる。
「すぅーっ……♡ はぁーっ……♡」
「ありゃ、本当に体調悪いの? 深呼吸してるけど」
「だだ、大丈夫! ちゃんと連れて行くからね!」
良子に引っ張られるようにして、着いたのは保健室。保健教師は女の人だったぶん、「そういう日」だったのだろうと軽く話を切り上げて僕を寝かせてくれた。少し様子を見てていいですか、という良子の言葉にも適当に頷いて室外に出る。――なんとも、都合のいい状態になるもので。普通ならこうはいかない。
「走るの、疲れた……」
「やっぱり一緒にトレーニングしてみない? ユウちゃんの体力が無さ過ぎてちょっと心配だよ。それに今日はなんだかずっと調子悪そうだし……」
ベッドに横になった僕に、不安げに良子が告げる。疲れ切ったのは事実だ。こんな虚弱体質では、バトミントンどころではないだろう。
「分かった、一緒に運動する……だからご褒美頂戴……」
「駄々っ子みたいなこと言わないの」
「今ちょうだい……ひざまくらしてぇ……」
「もっと子供みたいになっちゃった」
仕方ないなぁ、と良子は上靴を脱いで一緒のベッドに入り込む。そして半ズボンから覗く素足を伸ばし、どうぞと言わんばかりに手で示す。コロン、と寝ころんだ。
「ふあぁぁぁっ…♡」
「ど、どうしたの?」
「布団の枕より柔らかくて、あったかぁい……♡」
冗談抜きで、一度体験してしまっては離れられない。全身の緊張が解けるような暖かさ。すべすべした触り心地。もっちりしていて、それでいて硬さもある。そしてなにより、良子ちゃんのにおいが間近で感じられる。
「すごいね、良子ちゃんのふともも、わたしだいすき……♡」
「そんな抱き寄せられても困るよぉ……もう行かなきゃ……」
「もうちょっとだけ……代わりにあたしのおっぱい触っていいからぁ……♡」
「どういう交換条件なの!?」
「だってぇ……大きい方がいいんでしょ? 触ってみたくなぁぃ?」
ごくり、と喉の鳴る音が聞こえる。普通ならばこんな異常な提案に乗るはずがないのだが、今の「良子」は殆どこちらの言いなりになってしまう。彼女は、躊躇うように手を震わせて、しかし「私」のおっぱいを服越しに掴んだ。
「んっ♡」
「あっ……ごめんなさいっ!」
「いいの……ちょっと気持ちよかっただけ」
自分自身でもびっくりするぐらいに、とびっきりの媚びた、甘えた声で『彼女』に囁いた。
「もっと、して……♡」
言ってしまって頬が紅くなる。だがそれで効果てきめんだったのか、固まってしまった良子の指先が再び僕の双丘に触れた。しっとりと包み込むように手の平で支えて、ゆっくりとこねるように力が加わる。
「あぁぁっ……♡ いいっ……♡」
「や、やわらかいっ……」
思わず口から涎が垂れ、良子の腿を濡らしてしまう。だけど、彼女はそんな事に気が付く素振りも見せない。恐る恐るだった動きが、段々と大胆なものになる。揉む力が強くなり、時折つねる様な、搾り出すような力の加え方をしてくる。整った顔つきが緊張しきっていて、なんだか可愛らしい。
「もっと……つよくしてっ……いいよ……♡」
おっぱいにじんわりとした痺れが広がり、心地よい。それでも、これだけじゃ満足できない。良子ちゃんにバレないように、片方の手を布団の中に忍ばせる。ズボンをずらし、ショーツをまくって、指先で触れるのは、『私自身』の肉壺。既に期待に濡れていたそこは、あっけなく自分自身を受け入れた。
「んぁっ……♡ はぁっ……♡」
「ユウ、ちゃん……」
心配げに『私』の顔を覗き込む良子ちゃん。だけど、胸への愛撫は止まらない。……ああ、こんなにも甘美な時間があっていいのか。可愛い女の子に膝枕してもらいながら、おっぱいを揉んでもらえる。そのさなかに自分自身という女体を味わうことができるなんて。
ふいに、胸元にチクリとした感覚が走る。良子ちゃんの愛撫は、いつしかかなり勢いづいたものになっていた。綺麗に整えたネイルの先端を『私』の乳房に立てている。
「ひゃっ……♡」
「あっ……! 大丈夫!?」
一瞬、ビクンと躰が跳ねた。一瞬の痛みすら、今はキモチよさに変わってしまう。尾を引くヒリヒリとした感触で、オッパイの愛撫で『イッた』ことに気が付いた。胸元の体操服が、ほんの少しだけ湿って暗くなっているのに気が付く。オナニーしていないほうの手で、体操服の上着の中に手を入れる。触れた指先を、口でペロリと舐めた。
「オッパイ、出ちゃったみたい♡」
「……えっ、えええ!?」
「飲んでみる? ちょっと甘じょっぱいよ」
肩まで体操服と下着を捲りあげ、ブラだけをつけた姿を晒す。良子ちゃんの膝枕とは、少しだけお別れ。コロンと寝転がって、『私』のカラダを見てもらうために少しだけ離れた。きっと、今の良子ちゃんには『私』のふくらみと、胸元の湿ったところしか見えていないんだろうなぁ。そんなことを思うと、下腹部がジュンと来るのを感じる。
葛藤してたのは、そんなに長時間ではない。やがて良子ちゃんは、一緒の布団に入ってきて。ちょうど、私のおっぱいを唇で咥えることが出来るように潜り込んだ。数秒と経たず、乳首の先端から吸われる感触が伝わる。
「んっちゅぅ……♡ はむっ……♡」
「はぁぁんっ♡ はふぅ……♡」
母乳の成分は血液だ、と聞いたことがある。授乳しているときは、子供に自分自身の血を分け与えているようなもので、それが原因で体力が落ちてしまう母親もいるらしい。相当にキツイものだ、とは思っていた。
しかし、今はどうだろうか。もちろん現実改変の影響によるものが大きいのだとは思うが、こうして無心におっぱいをねだる良子ちゃんを見ていると、苦痛だとかしんどいとか、そんな気持ちは湧き上がらない。不思議な多幸感に包まれてしまう。頭を撫でてあげると、良子ちゃんはますます私の乳房に顔を埋め、より強く吸い付いてきた。
「よしよし……♡ とってもかわいいよ……♡」
「はむっ……♡ ちゅっ……♡」
口元が母乳と涎だらけになるのも構わず、良子ちゃんは吸い続けた。体格は彼女の方が大きいので、私は次第に彼女の躰に包まれてゆく。すべすべで、柔らかくて、暖かい彼女の肌。抱きしめられるだけでストレスが無くなるって、本当だったんだなと思い出す。
一時間前ぐらいに、太ももだ、おっぱいだと議論していたのが馬鹿馬鹿しくもなる。やはり、どちらも素晴らしくて比べようもないのだ。そんな事を思い、チャイムが鳴るまで授乳を続けるのであった。
――――――――――――――――
あぶねぇ。あのまま戻ってこれなくなるところだった。チャイムがなり保健室の先生が様子を見に来て、部屋から二人が追い出される。すると、僕たちの状態は普段の物に戻っていた。良哉の方は、かなり運動したという記憶になっているらしく、何やらぼやいていた。「部活以外の運動とかエネルギーの無駄なんだよなー」という割には、いつも体育の時間全力で走ってる気がする。
授業が終わり、バトミントン部が終わり。日も沈んで、夕方。互いの部活動が終わった後に、駅で再び良哉と落ち合った。彼の周囲にはバスケ部のメンツもいるので、全員が各駅で降りてゆくまで適当に音楽を聴いておく。
電車の揺れに眠気を誘われ、次第に瞼が重くなる。どうせ長時間になるのだから、ここで寝ておくのもいいや。そんな事を思いつつ、電車の壁に背を預けた。
「――と、優斗」
「……んぇぇ?」
「ふたなりの男の娘って何だと思う」
「急激に眠気がぶっ飛ぶこと言わないでくれる?」
目をこすり、被りを振る。こいつ、バスケ部でもこんな会話してたんだろうか。話題について少し考えこむ。
「その二つって両立しうるものなのか……とバスケ部の連中と話している最中ずっと考えててな」
「あいつらに謝れ、会話してる相手の頭の中ピンク色とか話してて悲しくなるわ」
「大丈夫だって、あいつらとは普通の話しかしてねぇよ。こんな話してるのはお前ぐらいか?」
「要らねえんだそんな特別」
台詞こそ手厳しく言ってしまったが、ほんの少し口元が緩むのを感じた。確かに、こんな話題を多人数でするものではない。少し考えて、口を開いた。
「『男の娘』ってなると体自体は男なんだけど顔つき、体つきが華奢で女装が滅茶苦茶似合う、みたいなイメージだ」
「あと最終的に女の子にされるな、『男だろうが女の子として扱えば女の子になる』とか言ってたし」
「あー……うん」
掘られるんだろうか。
「ふたなり……となると両性具有。神様だったり天使だったりは結構そんな感じで描かれるし、多分性別という概念がないんだろう」
「どっちも持ってたら区別の必要は無いもんな……だけど美術館とかでみる絵だと短小なのしか見かけないけど、あいつら不能なの?」
「嫌だろ勃起してる絵が飾られた美術館」
ともあれ、性別の認識が無いというのがきっと重要で。
「つまり、『男の娘』は自分が男だとおもっていて、『ふたなり』はそういう認識が無い。つまり『ふたなりの男の娘』というのは、『自分が男だと認識している両性具有』だったんだよ!」
「な、なんだっ……いやそんなん語られても」
「おめーから振ってきたんだろうがこの話題よぉ!」
肩を落とす。と同時に、隣に座っていた良哉が僕のヘッドフォンをひったくって耳に当てる。
「ちょっ、おまっ」
「ほーん、電車で音楽なんて洒落てるなんて思ったが、こう来たかぁ」
「ぐっ……」
観念して、スマホのホーム画面から音声を消す。表示されていたおねロリ物のタイトルが目に移り、電車で聴いていたことを後悔し始めた。
「帰ったらなかなか鑑賞できないもんでね……」
「あー、親御さん厳しいタイプか?」
「いや、一回寝てる時に部屋に入られてな。寝ぼけて対応が遅れてしまったけど、すんでのとこで事なきを得た」
「多分それバレてるで」
「嘘やん……」
……いや、内容がバレなかっただけマシとしよう。そこを知られるのと何となくエロいのを聞いていたのだけ知ってるのとは、天と地ほどの差だ。
「その作品は……確かお前が勧めてきたやつか」
「おねロリって良くない? むしろ良いって言え」
「悪くはない、がロリおねとはやっは違うのか?」
「うむむ、ニワカな僕だと使い分けてなはい。受け攻めが固定されてれば書き方は重要なんだろうけど」
「……なるほど、ロリ側の無自覚攻めか」
「というか、可愛さにメロメロになってお姉さんが色気と搦手に出る」
「年上としてどうよそれ」
「昔は僕たちだって純真無垢な、ヒーローに憧れる少年だったんだ。今や竿役にもなれねえ」
「急に悲しいこというなや」
駅のアナウンスが、目的の駅を伝える。二人とも立ち上がって、開いたホームのドアをくぐった瞬間。全てが変化した。
※
風が吹いたのと同時に、自分の髪がゆらり、と揺れるのが分かった。背中まで伸びたストレートヘア。「着ていたセーラー服」のボタンをしっかり閉めて寒さに備える。隣に並んでいた筈の良哉は、「私」の肩ぐらいの背の高さ。学ランを来て、バスケ用具を背負っている。しかし顔つきだけ見れば、男とは到底思えない。つぶらな目をしたショートカットの女の子が、コスプレで男子制服を着ているような違和感を覚えた。
「優ねぇちゃん、バトミントンどうだった?」
「――――うんっ、新入生も参加してくれて万々歳よ」
本来の使い方(?)とは違うが、今日のうちに女子になった状態で色々勧誘してみたところ、男女問わずかなりの参加者が増えたのだ。女の子さまさま……というより、普段の勧誘がヘタクソなんだろう。
「僕もバスケでクタクタだよぅ」
「でも凄いよね、リョウ君が入ってからウチのバスケ部、とっても強くなってない? 全国出場の垂れ幕なんて、初めて見たよ!」
「えへへっ……皆が頑張ってくれるおかげかな」
『男同士』だったときも、茶化しつつ似たような事を言っていた。パス回し、シュート精度、スタミナ。全員の長所と弱点を把握し、素早い判断で最適な経路での攻撃を導き出す。今でこそ二年生なので学年リーダーに留まっているが、次の大会が終われば部長を継ぐのは火を見るより明らかだ。
――――『僕』は、『良哉』にとっての何者なのだろうか。きっと彼は、僕の知らない世界を沢山知っているのだろう。退屈でしがない『僕』は、彼の世界に存在しているのかな。
「……ゆうねぇ?」
しまった、と考え事を止める。男装した少女のような格好で、「リョウ」が「私」を見上げていた。
「ゴメンごめん、ちょっと眠くって」
「優姉ちゃんも疲れてたんだねっ」
にへら、と笑うリョウ。……可愛い。ほっぺた軽くつねりたい。
「でもすぐ帰って宿題するのもイヤだなぁー」
「確かにね、学期はじめだからそんなに量もないし」
しめた、と切り出した。
「ねぇ、私のウチに来ない? 昔みたいに遊んだりしたいし」
「えっ……でも急に悪いよ。お母さんも心配しちゃうし、優姉ちゃんのお母さんも大変だよ」
「いいの、今日はうちの家族で実家に用事があるんだって」
『偶然にも』家を出払ってる両親。兄はそもそも一人暮らし。なので今日は、『私』が一人自由に過ごせるのだ。ならばこそ、と畳みかけた。
「久々に、一緒にご飯とか食べない? 私が作るからさ」
んー、と悩むように目と口を瞑る良哉。というか、声に出ている。可愛らしい。少し時間をかけて、リョウは頷いてスマホを取り出した。ショートメッセージを家族に送り、了承を取り付ける。
「よし、じゃぁ一緒に遊ぼう!」
口調は明るいお姉さんらしく、だけど心の中ではこれからの淫靡な時間を待ち望んでいた。
――――――――――――――――――――――――――――
「やったぁ、3連勝!」
「いやー強いねリョウ君」
自室に招いて、対戦ゲーム。やはり運動神経の強い方がこういうのは強いのだろうか。以前『良哉』に聞いた時には、簡単なコンボを理解することから始めればいいと返答を受けた。なんというか、そこを理解するのが大変なのだが。そこに苦労など全くない、という彼はやはり才覚があるのかも知れない。
家の近い僕たちだったので、リョウがメールを打つだけで自体はとんとん拍子に進んでいった。二人でご飯を食べる約束もしてしまったが、外に食べに出るのも味気ない。冷蔵庫に残っている材料をガサガサと漁る。カレーぐらいなら作れるだろうか。
「少し待っててねー」
はーいという声が僕の部屋から聞こえる。包丁で材料を刻み、洗い物を増やしたくは無いので、鍋でそのままに野菜と肉を炒める。しばらく煮て、灰汁を取り除きルーを入れ。
調理にかかったのは30分程度。サラダ等も含めて、小一時間。――――ここで熱が野菜に通り切るまで放って置いてもいいが、ワザと『リョウ』を部屋に一人にしておく。その時間が長いほど、きっとボロが出やすい。
僕たちが家に戻って、一時間。出来上がったカレーの火を止め、用意は出来た。足音を潜めて、二階の自室に戻る。そして、ドアを開ける直前で声をかけた。
「ご飯できたよ、起きてるー?」
「……っ!?」
ガタン、と部屋の中で大きな音。逃すものか、と扉を開けた。部屋は明るいものの、りょうやの姿は見えない。否、『私』のベッドの上で丸くなった毛布の塊がある。ガバッと捲ってやると、そこに彼はいた。顔を火照らせ、しかし叱られる寸前の子供のように、怯えた表情をしている。
「……あっ、うう……」
「……どうしたの?」
気づいていながら、わざと知らないふりをして質問してみる。今の彼は、制服ではない。この部屋にあった「私」の普段着にクリーム色のスカート。捲れ上がったそこには、「私」が仕舞っていた薄緑色のショーツ。それに全力で抗わんと、怒張するリョウの肉棒。
「ごめんなさいっ……! 優姉ちゃんの服、勝手に着てごめんなさい……!」
乱れた姿のロリっ娘が、ダボダボの『女の子』の服を着て、目を潤ませつつも興奮を抑えることもできずに勃っている。……これほどまで、ちぐはぐな光景があるだろうか。
ゆっくりと、彼が固まったままの布団に近づき、覆いかぶさった。怯えた『彼』の手をゆっくり包み込むように、指と指とを重ね合わせる。
「ひうっ……!」
「リョウちゃん、とってもカワイイ……♡」
耳元で、囁くように語る。戸惑いを隠せないリョウ。そのまま、無防備でとても小さい唇を犯す。
「んんっ……♡ くちゅっ……♡」
「っはぁっ……♡ 優姉ちゃん……♡」
萎みかけた『彼女自身』が、急激に硬さを取り戻す。身体を寄せつつ、私の太ももで挟み込むと、苦しげに、だけど幸せそうに彼女が吐息を漏らす。
「どうして……? 僕がこんな格好して、キモチワルイよね……?」
ああ、認識が歪んでいるのだった。彼女は自分が男だと信じ込んでいる。あどけない顔つき、ポニーテールに結ったスラリとした髪の毛、膨らみかけの乳房。それを否定せんばかりに、そそり立っていた肉棒。気持悪さなどない。倒錯的な姿は、むしろ私を欲情させる。
もう一度寝転ぶ。だけど、今度は「私」のおっぱいを彼女のまたぐらに近づけて。
「ねぇ、もしもこのおちんちんが無くなったら、君は女の子になるのかな?」
「えっ……ふわぁっ♡」
返答を待たず、爆発しそうなソレをおっぱいで包み込んだ。パイズリは案外上手く行かない。自分ならもう少し激しく動かしたほうが良いんだろうな、とか思いつつ、苦戦しながらも揺り動かす。どうかな、とリョウの顔を見てみる。
「うぁぁ……♡ ゆう……ねえちゃん……♡」
ぎこちない動きながらも、リョウはしっかり感じていた。我慢するように、口を一文字にしてナニカを耐えている。……もっと素直になればいいのに。攻めを止めないまま、リョウの胸の膨らみに吸い付いてみた。
「ちゅぅっ……♡ れろっ……♡」
「あっ……♡ ああっ……♡ ゆうねえ……♡ だめだよっ……♡ でちゃうっ……♡ うぁっ♡」
ビクンと体が跳ねると共に、そそり立っていたソレから勢いよく放たれた白い粘液。熱くドロドロな精液で、私のおっぱいはすっかり染め上げられる。
「ゆうねぇ……ごめんなさい……よごしちゃった……」
放出しきった彼女はというと、泣きべそをかいている。弱気なとこも可愛らしいんだけど、と「思い出しつつ」。「普段のバスケで格好いい姿」も、今の女の子みたいな可愛さも。両方持ち合わせているのが、正直羨ましい。だから、このベッドの上では私が主導権を握ってやるんだ。
「少し料理で服を汚しちゃったから、脱いじゃうね……」
あんまり良くないけど、精液のついた部分は服で拭う。どっちにしろ、もとに戻るし。ゆっくりと、見せつけるように一枚ずつ。スカートを脱ぎ、パンツを片脚づつ。あえて、リョウと目を合わせない。ドギマギしてるのは、正直自分も同じだから。
「ふふっ……♡」
クローゼットの扉にくっつけられている鏡が、今の「私」を写している。背が高く、一見すればスレンダーな印象も見受けられそうな立ち姿。それにそぐわない、まんまるできれいな形をしたおっぱい。強調されたソレは、決してアンバランスでなく、むしろ魅力的ですらあった。ロングヘアを軽く手で撫でると、お気に入りのリンスの香りがふわっと広がる。
「おねえ、ちゃん……」
リョウのペニスが、再び勢いと硬さを取り戻してゆく。幼い見た目に反して、雄々しくそびえ立つソレをリョウ自身は忌避している節がある。だけど、今の私にはそれだって愛おしい。
「リョウちゃん、わたしも少し楽しいことしたいなぁ♡」
仰向けになったリョウに、ゆっくり馬乗りになるように座り込む。私の秘部が、ゆっくりとリョウの雄を受け入れた。
「ふぅっ……♡ はひっ♡ たっ♡」
「んっ、あぁっ……!」
下腹部に異物が入り込む。熱が直接内臓に伝わり、おなかがあったかい。泣き出しそうだったリョウの顔がトロンと解けてゆくのをみて、全身を預ける。二人で繋がったまま、互いの躰を貪るように味わい尽くす。
「ゆうねぇ……♡ ふわふわする……♡」
「わたしも……♡ とってもキモチいい……♡」
グリグリと、腰を動かすと思わず吐息が漏れる。僅かな痛みと、それを忘れさせる充足感。抱きしてたリョウの、華奢で熱を帯びたカラダ。舌と舌を絡めさせて、彼女の唇を奪った。
「んっ……♡ んうん……♡」
もう、どちらのあえぎ声なのか解らなくなって。普段自分がそうするように、扱く勢いを早める。――――二人共、もう限界だった。
「あっ――――ああぁっ♡ はひっ♡ はふっ♡」
「はっ――――んッ♡ ううっ♡ でてるっ♡」
熱いものが、自分の身体のなかで暴れだしてるような感覚。多幸感と、強烈な衝撃。脱力して倒れ込んだ先に、見えたリョウの表情。幸せそうに目を瞑っているのを見て、私の口元も緩んだ。
――――――――――
「悩んでるんだ」
ふと、隣で寝ているリョウが言った。抱きつかれる力がほんの少し強くなったのを感じて、『私』も同じようにした。
「この前、試合にどこかの会社の実業団から人が来て。うちのチームで練習してみないかって言われたんだ」
先週ぐらいに、家庭の用事で良哉が休んでいた事を思い出す。平日に、プロチームの練習を見に行ったんだろう。
「プロの人にはやっぱり敵わないなぁと思ったけど、監督にもこれから伸びるって言われて。もし良かったら、また練習に来ないかって言われたの」
「――――すっごいじゃん!」
一瞬返答が遅れたのは、驚いたからか。それとも、寂しさからだろうか。
「不安なんだ。ボクはそんなに強くなんてない。今のチームだって、一人でシュートを決めてるんじゃない。皆がいるからなのに」
「……リョウくん」
「それにっ」
リョウは目を伏せ、吐き出すように口にする。
「自分の力が通用するのか、駄目だったらどうしたらいいんだろう。みんなと離れ離れになって、バスケしかできないボクが、バスケすらできなくなったらどうしようって」
「――ッ」
「高校を卒業して、大学で夏休みに皆で集まって。そんな感じで、一緒に居たいのに。一人だけ別の所に行くのが怖いんだ……!」
涙を流して、「良哉」はそうこぼした。
「一緒に練習しているのが楽しいのに、一緒に遊んでいるのが楽しいのに! 優ねぇと学校に行くのが楽しいのにっ!」
「…………ひとりは、嫌?」
宥めるように、頭を撫でる。「彼」は、意外にも孤独だったのだろうか。
「私は、バスケのプロの事もよくわからない。どんな練習なのか、どんなチームなのか、プロになったらどんな事をするのかも。――でもっ」
リョウの顔を手で寄せ、軽く口づけする。
「――『僕』は応援する。別にその道を進まなくたっていい。友達なんだから、寂しいときは電話でもするさ。遊びにだって行く。一人で抱える必要なんてないだろ」
高い声で、しかし口調は男のままになる。
「キツイなら、キツイって言いなよ。それを許さないほど、周りの奴らは冷たくないさ」
もう一度、リョウは泣きながらおっぱいに抱きつく。……不安がとけて、今度こそ甘える子供みたいになって。少しだけ肉棒が大きくなるのを感じて、手を添えてゆっくりと抜いてゆく。今度こそ、淫らに僕たちは重なり合うのだった。
――――――
……本日も寝不足。今日のは、良哉の告白に悩んで普通に眠れなかった。現実改変の影響で姿やら環境は変化しても、それは最小限。彼がスカウトを受けていることや、その相談を受けたことは事実として残っている。
「よっす」
「……おう」
「眠そうだな、『また』か?」
「ちゃうな、そもそもお前が帰ったの11時ぐらいだったから。速攻寝たつもりだったんだが、寝れなかった」
「そっか」
しばらく、ホームの音声だけが響く。
ぽつりと、良哉が口を開いた。
「昨日は、ありがとな」
「……急にツンデレキャラのデレ始め部分みたいなことを」
「言うな。――昨日もう一回悩んで、もっといろんな人に相談しようって決めた」
そっか、と頷く。
彼のことは羨ましい。だけど、良哉とはこの関係を続けていたい。特別な誰かで無くても構わない。
ホームのベルが鳴り、列車が来る。
「――優斗! ほらボサっとしないの!」
隣の少女が、僕を引っ張る。
「いっつもそんなんだから私以外の女子と話せないのよ!」
「お前は良いのかよ?」
「わ、わたしは昨日のお礼っていうか……!」
ツンデレ、か?
まあいいや。
列車に飛び込み、二人一緒の席に座る。
これからも、宜しく。そんな言葉を口にした。
「えっ……うんっ♡」
互いに笑いあった。
「よーっす、おはよう」
寝不足の原因、現る。
「あぁ、うんおはようさん」
「毎日毎日眠そうだがどうかしたん?」
流石にお前のせいだ、とは言えない。冬場はこんな感じなんだよ、と適当に誤魔化そうとすると、小野塚良哉は悪い笑顔を浮かべる。
「ははーん、さては遅くに寝る生活になってるな? 最近は写真集やらスマホ動画やらで簡単に『そういうの』にアクセスできるもんなぁ」
「朝っぱらの駅ホームでトバすなよお前、僕までお仲間扱いされるんだぞ」
「ナ~ニを想像したのかね健全な男子高校生たる斉藤優斗クン、我々は熱い友情を結んだ仲ではないか」
「やかましい、アンタの口から下ネタ以外が飛び出すのを見たことねーわ」
高校に入学して、クラス分けからこんな風にずっと彼とアホな話をしながら登校する。それが、今までの『フツウ』だった。それが決定的に変わったのは、いつからだったろうか。
「はーぁ、こうも毎日男とばっかりダベるのもどうなんだろうな、青少年として」
「安心しろ最近は晩婚化だ、アラフォーまでに結婚できてりゃ万々歳よ」
「そこまで話を飛ばすな、単に俺は会話できる女友達が欲しくて。あわよくば付き合ってみたいとか思ってる」
「もう既に現実離れした話をするのはやめてくれ、彼女いたことない歴が今年で何年目だ」
「うるせーな、誰が筋肉ゴリラでムサイ奴だ」
「すまんな、お前の筋肉はバスケ部胸板選手権で優勝したものの、見せる相手が更衣室の男子だけってことは言ってない」
「一言どころか三言くらい余計だわ」
こういう悪口は、あまり本人に言うのはよろしくない。のだが、良哉は一切気にする素振りをみせないのだ。時折冗談が過ぎたか、と思う時期もあった。こいつの豪快な笑いは、そんなウジウジした僕の悩みなんて一瞬で吹き飛ばすようなものなのだが。
「だいたい彼女が居たことが無いのなんて、優斗も同じじゃないか」
「……僕、そんな話したっけ」
「いや、明らかに女慣れしてなさそうだしな。この間、部活の後輩の子から書類か何か受け取るときにめっちゃ表情強張ってたぞ」
「自分としてはにこやかに対応しようとしたつもり……だったんだけど」
頭を抱える。部活で入っているバトミントン部で追加入部者が居ると聞き、後輩の女子生徒から名簿を受け取ったのだが。
「ああわかるよ、スマイルを作ろうとしたのは分かる。傍目から見たらホラー映画のポスターみたいだったけど」
道理で、彼女が怯えていたように見えたわけだ。嘆息が口から洩れる。
「そう凹むなよ、単にお前もこちら側ってだけの話だ」
「何の慰めにもならねぇ、良哉と僕とじゃキャラも違うだろうに」
ホームのチャイム放送が、けたたましい音を立てて列車の到着を告げる。ドア窓越しに見えた列車は、そこまで混んではいない。僕たちが朝練で早く学校に来ているというのもあるが、朝の通勤時間帯にしては乗車率が少ないのがこの駅の特徴である。最も、街に近づくにつれて通勤・通学先の乗客も増えていくのでこの平穏は今だけのものなのだが。
「ま、のんびり椅子にでも座ってお話しようや、次の文化祭までに一緒に回れる女友達を探す方向で作戦でも練るとするぜ」
「割とタイムスパン長いな?」
どっこいしょ、と若さ溢れない言葉を吐き出しながら、良哉は列車内にある長椅子の端に座る。当然ながら、俺もその隣に。
「……しっかしまぁ、仮に彼女ができたとして。どんな娘がタイプなのよ」
車内に他の人がほとんどいない上に、僅かな乗客はヘッドフォンやイヤホンで音楽を聴いている。朝っぱらからこんな話をするのも変だが、良哉以外に聞かれないなら別に構わない。
「僕としては――ちょっぴり小悪魔系ぐらいが好きかもしれん。多少は遊んでるしイタズラっぽい事するけど、急に迫られると弱っちいみたいな」
「願望盛りまくりじゃないか優斗クン? 真面目そうな顔してソフトMなところでもあるんですか」
「違うね、これは逆転のための一手だ。遊び半分でデートに誘ってみたものの、意外に自分の好みにドストレート。しかし相手はあくまでも男友達、女友達の範疇。ここで自分の方から一線を超えるのは駄目だ……と長時間踏みとどまった結果付き合った瞬間にデレデレと化す訳よ」
「前日に何か読みましたか? 私びっくりして敬語が出てしまいましたわよ」
こいつに対抗するには、これぐらいの強者にならなくてはならない。――もとい、今『僕たち』に降りかかっている異変を最大限楽しむには、これぐらいが丁度いい。
「んで、良哉はどうなのよ。僕ばっかり話しているのもアレだろ」
「そーうだなぁ……」
無意識に唾を飲む。良哉は、腕組みをして考えているようだった。
「俺としてはやっぱり青春っぽいコトに憧れてるのかもしれん。例えばバスケ部の後輩マネージャーが彼女だったりして、練習中はタイムキーパーしたり、水分補給のための準備をしてくれたりする」
「――ほう」
「俺と彼女とが付き合っていることは秘密だ、他の部員にフルボッコにされるからな。だけど飲み物とかを個別に渡してくれる時にさぁ、『先輩、頑張ってくださいね』って一言余計に付け加えてくれるだけで男心はキュンときちゃうのよ」
「キュンとかいうな」
話に相槌を打つが、実のところ話の内容の全てが頭に入っているわけではない。寝ぼけているからではなく、目の前で起こっている光景がその原因。
ガッシリとした良哉の躰は、普段であれば僕の身長をゆうに10 cm近くは追い越している。座高も当然彼の方が上だ。しかし、良哉の目線がだんだんと僕のソレと同じになり、やがてさらに縮んでゆく。短髪に切り揃えられた髪が伸び始めて、ショートカットぐらいの長さに。肩幅は小さくなって、僕との席の間が自然に空いてしまう。組んでいた腕が細くなりはじめ、素早いパスのバスケットボールを受け止めていた、ザラザラして大きい手は、いつのまにかすっかり小さく、傷ひとつ無くなっている。
「でさぁ、練習が終わって掃除して、普通だったら男同士女同士でつるんで帰るのが毎日なんだけど、忘れ物があるって抜け出してお互いがもう一回学校に戻るのよ。それでようやく二人っきりになって、『一緒に帰ろ、良哉くん』って先輩付けをやめるんだよ」
「お前も欲望めちゃくちゃ盛ってるじゃねーか」
普段なら肘打ちの一つでもしただろうが、良哉の変化はまだ終わらない。話しているうちに低く響いていた彼の声が、段々と弾むような、軽やかな声になる。着ていた制服は、いつの間にやら男子制服ではなく、セーラー服になっている。下の方もズボンでなく、スカートに。本来見えるはずのない脚がいつの間にか露になるが、スネ毛が生えているだろうそこには文字通りの絶対領域が。彼は意識しているのだろうか、組んでいた腕にいつの間にやら二つの大きなふくらみが当たっていることを。きっと、No1と呼ばれた胸板はソコには存在しない。
「普段は二人っきりになれないから、今こそ彼女らしいことをしようっておもうけど、手を繋ぐだけで精一杯! 何か楽しい事を話したいけど、今一緒にいることが一番楽しいから何を言えばいいのか分からない! 女子同士で見せる元気な小動物っぷりとは裏腹に、放課後はうら若き一途な乙女!」
「普段少女漫画か何かを愛読されてます?」
――ともあれ。これで状況は完成した。今僕の隣に居るのは、体格が災いして女子生徒から話しかけられない悲劇の巨人などではない。……キャッキャと架空の恋バナに花を咲かせ、小さな体躯にあふれんばかりの笑顔をたたえた、元気っ娘。爪の先には自然なピンク色のネイルをして、鞄には僕の知らないキャラクターアクセサリをつけて。
「ね~え、聞いてるんですか斎藤先輩?」
「――あ、あぁ。うん聞いてた聞いてた」
「それ絶対聞いてた時の返答じゃないですよね!?」
呼び名すら変わったことに、一瞬虚を突かれてしまった。ぐいと『彼女』は顔を近づけて僕を糾弾する。
「朝と夕方ぐらいしか一緒に居られないんだから、もっとお話しようって言ったじゃないですか!」
「ごめんって、昨日は練習でヘトヘトでさぁ」
「まぁ、分かりましたけど。沢山先輩が頑張ってるのは、私だって見てますから」
授業の教科書の他には、着替え用のウェアしかもっていなかった良哉の荷物に、いつの間にかラケットが加わっている。これを見るに、『彼女』は僕と一緒のバトミントン部に所属していることになるのだろう。
「じゃぁ、その代わり私のお願いを聞いてください。私だって眠たいんですから」
「あいわかった」
「そうしたら、もうちょっとこっちに近づいてきて下さい」
自然に空いてしまった席を詰める。そうすると、彼女は目を瞑って僕の方に寄り掛かってきた。
「学校まで、一緒にひと眠りしましょう。他の人に見られても、偶然を装えばいいんです。『優斗くん』も目を瞑ってください」
僕も、彼女と同じように視界を閉ざす。
真っ暗闇。だけど、肩から触れ合う暖かい彼女の体温と、僅かな匂いがこちらにも伝わる。トクトクと、脈拍が触覚から伝わってきた。きっと、普段の彼女よりもずっとドキドキしているのだろう。何やら、僕の背中に触れるものがある。さするような、そんな感覚。後ろ手に、それを握り返した。
「――ッ♡」
一瞬だけ、隣で声がする。握ったこぶしから力が帰ってきて、滑らかな感覚が伝わる。脈拍はさらに早まり、吐息が聞こえてきた。……正直なところ、僕もそうなのだろう。
こっそりと、僕だけ目を開いてみる。隣の彼女は、まだ目をつぶったまま。だけどほんのりと頬に紅が刺さっているように見える。ふと、良哉の元々の素顔を幻視し、今の彼女の顔つきを見る。口紅、というほど派手ではないものの色付きのリップクリームをつけていた。可愛くありたい、という彼女なりの願望だろう。だが、それを汚すのも。
「ふむっ!?」
驚いた彼女が一瞬目を見開く。唇に思わぬ感触があったのだから、当然ともいえる。しかし、周りは誰一人としてこちらに気が付いていない。そのまま、彼女をもっと求める。
「んっ……♡」
抵抗は一切なかった。もう一度彼女は目をつぶって、深い接吻を顔を赤らめて待ちわびている。今のままでも十分すぎるほど可愛らしい……のだが。
僕はスッと手を伸ばす。『彼女』の脚先に手を進め、スカートの内側に指を触れた。生暖かい、ぬるりとした感覚。
「んっ……♡ ひうっ……♡」
突然の事で一瞬驚いた声が挙がるも、必死で声を抑えている。普通なら、こんな事を人前で行えば咎められるだろう。だけど、今の僕には確証がある。ふと顔を上げると、スマホを弄っていたリーマンと目があった。当然彼は僕たちの痴態を見ているはず。しかし、彼は表情一つ動かさずに再び画面を見つめるのみ。
「せん……ぱい……♡」
「下の方ビショビショなんだけど、キスしただけでこんなんなる?」
「昨日の夜から……せんぱいのこと……おもってたんですからっ……♡」
「ああ、それで眠そうだったのか」
言いながら、しかし愛撫を止めない。女性経験なんてほとんどないから、テクニックなんて皆無に等しい。しかし、後輩ちゃんは必死で喘ぎ声を抑えている。不思議なものだ、つい数十秒前にはゴツイ男だったなんて信じられない程に女の子らしい。
「おねがい、今だけはあたしのこと、ぎゅってしてください♡」
耳元で囁かれた。そっと腕を彼女の体躯に回すと、すっぽりと僕の体に収まった。彼女の吐息が耳にかかり、熱が僕にも伝わってくる。
「ずっとっ……あっ♡……こうしてたいっ♡……がっこうじゃ、せんぱいと……ふたりっきりになれないっ♡」
顔を赤らめながらも、どこか涙目になっている。感極まってなのだろうか、そんな表情をされると僕も困ってしまう。なんとかなだめようと、声をかけた。
「帰りの電車、また乗ろう。一緒にいる時間作りたいからさ」
「――っ♡」
愁いを帯びた表情がぱぁっと明るくなり、嬉しそうに抱き着いてくる。身体じゅうに広がる、女の子の香り。近くにいると、やっぱり彼女の躰は暖かかった。――なるほど、確かに小動物的可愛さと蠱惑的な魅力が混在している。軽く頭を撫でると、後輩ちゃんは顔ごと僕の方に埋めてくる。電車が2駅進んで、学生たちが大量に入ってくるまで、ずっと僕たちはひとかたまりになっていた。
――――――――――――――――――――――――――
授業前。スマホのメモを隠れて起動する。先生が来るまでに、周囲にバレずに記録しておきたい。
【確定事項】
・良哉と自分の2人で会話したときに発生する。カメラ等で変化する瞬間を録画することはできない。いつの間にか変わっている。
・女性になるのは良哉か、2人同時のどちらか。周囲は発生しない。周囲はもともとそうだったかのように認識。
・女性化していた時の記憶は自分のみ保持している。
・性的行為をしていても周囲が違和感を持たない。(どのように見えている?)
【不確定事項】
・2人が会話している事柄が変身内容に関わるが、どのように影響している?
・元に戻るまでの時間が不定期。特定の場面(シチュエーション)が終わると解除される?
・2人同時に居ないと発生しないが、変身後に個別行動するとどうなる?
・録画、録音の類が出来ていない。記録手段を探すこと。
チャイムの鳴る音と共に、スマホを鞄に滑り込ませた。忘れっぽい性格なので、可能な限り記録はしておきたい。動画や音声で記録出来ないのが残念でならない、毎回データ破損やら電池切れやらが起こるので、「録画できない」のが条件の一つなのかもしれない。
離れた席の良哉は、チャイムなどお構いなしにクラスメイトと駄弁っている。先生が来るまでは休み時間というスタンスだからだ。今朝の出来事は、完全に彼の記憶にはない。駅で話した話題がそのまま学校まで続いていた、という風に良哉は覚えているだろう。僕自身も、白昼夢と疑った事が何度もある。
ガラリ、と教室の扉が動く音と共に先生がやってくる。慌てて座る良哉達、僕自身も気持ちを切り替えておく。今日の午後には体育の授業がある。それまではいつも通りやっていかなければ。ノートとシャーペンを用意し、自分の頬を軽く叩いた。
そうして、待ちわびた昼休み。学校の食堂に集まる男衆に僕自身も混ざる。食堂とはいえ、メニューが豊富なわけでもない。カレーに定食、人気のメニューは卵かけご飯と、カラフルさとは縁遠いがために食費をケチりたい男子生徒以外には訪れる人が居なかった。
「午後一の体育はめんどくさい」
「わかる、わき腹が痛い」
同席する良哉は肉うどんをすすりながら、眠そうに目をこする。授業中の彼は模範的生徒とは言えない。運動量が僕とは段違いな分、そうなるのも仕方が無いといえば事実だが。テストで酷い点を取った事が無いから、どうにか上手くやっているんだろうけど、それはそれで時間の使い方が不思議である。
「この時期だと外で運動は寒いしなぁ」
「季節の変わり目でちょうどジャージ着れないってどうなんだよ」
「あんなん日付で決めるもんじゃないぜ、今ジャージ着たら校則違反にでもなるのかよ」
学校の規則では4月からジャージが禁止になっている。今までジャージにお世話になっていた分、春風やらで寒いときはクシャミが出るほど身が冷える。
「しかし、しかしだよ優斗くん」
「なんやねん急に身を乗り出すな、箸を人に向けるな」
「その校則は女子生徒にも適用されるのだよ、芋臭いジャージからの開放だ」
「お前ジャージにはジャージの良さがあるって11月に力説してたよな?」
とはいえ、青春真っ只中の僕たちには同意できる部分がある。僕たちはほぼ同時に口を開いた。
「つまり体操服の下からのおっぱいが見える」
「つまりは彼女らの生足を見ることが出来る」
被った台詞と、被らない意見。
「やれやれ体操ズボンからのぞく素脚の魅力がわからんとは、優斗クンもまだまだお子ちゃまだな」
「お前11月に真逆のこと言ってなかったか?」
とはいえ、今度ばかりは良哉の言っている事に同意ばかりしていられない。何しろ、おっぱい星人たる僕にはその良さを説く義務がある。
「冬の間に育っていたオッパイが、サイズの合わない体操シャツに抵抗しているあの感じが分からないのかよ」
「あー、確かに冬の間に体操シャツを買い替えたりはしないか。多少きつくてもジャージで隠れるし……ってそんなズボラか?」
「今頃女子の着替え室では『しまったなぁ、こんなことなら体操シャツ買っておくべきだった』とか言いながら頑張ってブラを寄せている女子生徒がなっ!」
「……気持ちは分かるぜ、すげーわかる。だけど、『今日寒ーい』って言いながら体を抱き寄せる女の子、触れ合う脚と脚。その間に挟まってみたいとは」
「女の子同士の間に挟まろうとすると締め上げられるぞ」
「ごめんて」
互いに、軽くうどんをすする。良哉は更にプロテインのシェイカーまで持ってきていた。体が資本で、かなりの好成績をあげているのはこういうストイックさにも起因しているのかもしれない。……普通バスケのエースってモテるものなのでは。
「去年の秋までは優斗と同じ意見だったさ、だがこの前出たあのゲームに俺のどストライクポイントが変わってしまったのよ……!」
「……あー」
少し考え込み、思い当たるフシがあった。SNSでも大量に画像が流れていたのを思い出す。
「実際プレイして動かしてみるとよ、あの魅力には抗えないわけ。遂には街ゆく人のソレについ視線が持っていかれたり」
「見抜きしてんじゃないよ」
「大丈夫、心のSDカードに保存してるだけだから」
「後で見返す気満々じゃねーか!」
まあ、いい。性癖はぶつけ合って殴り合う事は有っても、仲違いするものではない。様々なものを愛することが出来るのが人間の尊さなのだ。
「……ねぇ、聞いてる?」
そんな事を考えて一瞬眼を閉じると、体の重心がブレる感覚に襲われた。クラリと目眩がするか、気持ち悪くなるほどでもない。再び目を開いた時には、全く景色が違って見えた。
「そろそろ体育の授業始まっちゃうから、急がないと」
「……んぁ、ごめんごめん。食器下げちゃおうか」
色気の全くない、男だらけだった食堂は男女半々ぐらいになっていた。室内構造自体は変わっていなかったが、ご飯のメニューが違う。野菜をふんだんに使ったスープやら、トロトロのオムライスやら、なんともフォトジェニックなものに。
「久々の体育だし、着る物も違うねぇ」
「あーっ、それ忘れようとしてたのにぃ」
変化したのは風景だけではない。目の前で一緒に昼食をとっていた良哉が立ち上がる。『彼女』のスカート裾からのぞく脚が、蠱惑的に映っていた。僕の方はというと、良哉よりも身長こそ低いものの胸の部分には立派なものがあった。服のサイズに合わせるため、無理やりおっぱいを押さえつけているような感覚が常に伝わる。
「ユウちゃん、どうしたの? 早く着替えないと授業間に合わないよ」
「……ええと、ごめん。ちょっとボーっとしてたみたいで」
「いいよね、そんな風に少しポヤっとしてるところが可愛らしいというか」
――――――――――――――――――――――――――
そうして、更衣室。
男の時はクラスの女子たちと会話することなどあまりない。しかし、この現象が起き始めてからは女子たちの好む話題が分かるようになってきた。もとい、そうならざるを得なくなるというか。
「この格好、さむい……」
「男子達はグラウンドでサッカーだって。そっちの方が良かったかなぁ」
「いーや、ウチらは体育館でいいよ。さっき風吹いた時外に居たけど滅茶苦茶寒かったんだから」
彼女らが着替えるのを横目に見るのも、十分目の保養になる。なるのだが……
「ユウちゃんったらまたボーっとしてるー」
さっきから話しかけてくる良哉、もとい良子。一番ドエロイのがこいつになるとは思わなかった。体操服のズボンを短くデザインした人に今日ほど感謝したことは無いだろう。むっちりと膨らみを主張している彼女の太もも。今すぐにでも、膝枕を要求したくなってしまう。
「だ、だって私もこの服だと大変だし……」
「着替えるの渋ってもだめだよ、あたしだって少し恥ずかしいんだから」
「うぅ……」
わざと恥ずかしがって、しかし自分自身でも制服を脱ぐのが楽しみであった。ワイシャツのボタンを外すと、弾力を持ってソレが露になる。
「やっぱりおっきいなぁ……それだけあったらなぁ……」
物欲しそうに、良子が自分の胸に手を当てる。決して彼女のそれが小さいわけではない。むしろこっちが大きすぎで、街で見かけたら二度見すること間違いない。グラドルだって、こんな逸材は居ないだろうと『自分のカラダ』を品定めする。
「そんなことないよぉ、良子ちゃんだって太ももが健康的って言うか」
「えー、私はもっと細い方がいいなぁ」
数十分前の『良哉』が聞いたら激怒しそうである。それ以上痩せるのは無意味だって。――確かに、僕たちの会話内容が改変事項に関わるのは確定的だろう。
そうして、授業の時間。準備体操のあとはウォームアップとして体育館を数周するのだが、ランニングの最中が大変だった。体格が普段と違って、走る感覚が違うのもあるが何よりも大変だったのがオッパイの大きさ。一歩、また一歩と走る度に揺れが生じてしまう。もともと体力がなかったのか、ランニングが終わっただけでへばってしまった。
「はぁっ……はぁっ……」
「大丈夫、ユウちゃん?」
全く息の上がっていない良子。彼の元々の体力もあるが、体つきも普段から運動してそうなものだからだろう。ふと、彼女が口に手を当てて驚いた様子を見せた。肩で息をしながら、彼女に問いかける。
「どうしたの?」
「ユウちゃんったら、ダイタン……」
胸元を見てみると、汗でびっしょりになった体操服。……の下に、ブラが見えた。透けブラ。
「い、インナーを忘れちゃったのかな……?」
無性に、こちらも恥ずかしくなってくる。どうしたのー、と女子生徒が駆け寄ってきた。ひと目様子を見るに、なるほどねと頷く。
「あちゃー、これは体調不良ってことにしなきゃね」
「いいの……?」
「良いってことよ、ウチらもたまにやるしね!」
そう言って彼女は体育教師のもとに駆け寄っていった。普段から女子グループのリーダー格をやっているだけあるのだろう。姉貴分というか、そんなポジション。体育の先生は男ということもあり、あまり女子生徒には強く言えないというのが普段からの評判だった。
「先生も良いってよ」
「じゃあ、アタシが連れて行くから!」
そういって肩に手を回してくれるのは良子。体を預けると、服から伝わる柔軟剤の香り。それに混ざった汗の匂いが届いてくる。
「すぅーっ……♡ はぁーっ……♡」
「ありゃ、本当に体調悪いの? 深呼吸してるけど」
「だだ、大丈夫! ちゃんと連れて行くからね!」
良子に引っ張られるようにして、着いたのは保健室。保健教師は女の人だったぶん、「そういう日」だったのだろうと軽く話を切り上げて僕を寝かせてくれた。少し様子を見てていいですか、という良子の言葉にも適当に頷いて室外に出る。――なんとも、都合のいい状態になるもので。普通ならこうはいかない。
「走るの、疲れた……」
「やっぱり一緒にトレーニングしてみない? ユウちゃんの体力が無さ過ぎてちょっと心配だよ。それに今日はなんだかずっと調子悪そうだし……」
ベッドに横になった僕に、不安げに良子が告げる。疲れ切ったのは事実だ。こんな虚弱体質では、バトミントンどころではないだろう。
「分かった、一緒に運動する……だからご褒美頂戴……」
「駄々っ子みたいなこと言わないの」
「今ちょうだい……ひざまくらしてぇ……」
「もっと子供みたいになっちゃった」
仕方ないなぁ、と良子は上靴を脱いで一緒のベッドに入り込む。そして半ズボンから覗く素足を伸ばし、どうぞと言わんばかりに手で示す。コロン、と寝ころんだ。
「ふあぁぁぁっ…♡」
「ど、どうしたの?」
「布団の枕より柔らかくて、あったかぁい……♡」
冗談抜きで、一度体験してしまっては離れられない。全身の緊張が解けるような暖かさ。すべすべした触り心地。もっちりしていて、それでいて硬さもある。そしてなにより、良子ちゃんのにおいが間近で感じられる。
「すごいね、良子ちゃんのふともも、わたしだいすき……♡」
「そんな抱き寄せられても困るよぉ……もう行かなきゃ……」
「もうちょっとだけ……代わりにあたしのおっぱい触っていいからぁ……♡」
「どういう交換条件なの!?」
「だってぇ……大きい方がいいんでしょ? 触ってみたくなぁぃ?」
ごくり、と喉の鳴る音が聞こえる。普通ならばこんな異常な提案に乗るはずがないのだが、今の「良子」は殆どこちらの言いなりになってしまう。彼女は、躊躇うように手を震わせて、しかし「私」のおっぱいを服越しに掴んだ。
「んっ♡」
「あっ……ごめんなさいっ!」
「いいの……ちょっと気持ちよかっただけ」
自分自身でもびっくりするぐらいに、とびっきりの媚びた、甘えた声で『彼女』に囁いた。
「もっと、して……♡」
言ってしまって頬が紅くなる。だがそれで効果てきめんだったのか、固まってしまった良子の指先が再び僕の双丘に触れた。しっとりと包み込むように手の平で支えて、ゆっくりとこねるように力が加わる。
「あぁぁっ……♡ いいっ……♡」
「や、やわらかいっ……」
思わず口から涎が垂れ、良子の腿を濡らしてしまう。だけど、彼女はそんな事に気が付く素振りも見せない。恐る恐るだった動きが、段々と大胆なものになる。揉む力が強くなり、時折つねる様な、搾り出すような力の加え方をしてくる。整った顔つきが緊張しきっていて、なんだか可愛らしい。
「もっと……つよくしてっ……いいよ……♡」
おっぱいにじんわりとした痺れが広がり、心地よい。それでも、これだけじゃ満足できない。良子ちゃんにバレないように、片方の手を布団の中に忍ばせる。ズボンをずらし、ショーツをまくって、指先で触れるのは、『私自身』の肉壺。既に期待に濡れていたそこは、あっけなく自分自身を受け入れた。
「んぁっ……♡ はぁっ……♡」
「ユウ、ちゃん……」
心配げに『私』の顔を覗き込む良子ちゃん。だけど、胸への愛撫は止まらない。……ああ、こんなにも甘美な時間があっていいのか。可愛い女の子に膝枕してもらいながら、おっぱいを揉んでもらえる。そのさなかに自分自身という女体を味わうことができるなんて。
ふいに、胸元にチクリとした感覚が走る。良子ちゃんの愛撫は、いつしかかなり勢いづいたものになっていた。綺麗に整えたネイルの先端を『私』の乳房に立てている。
「ひゃっ……♡」
「あっ……! 大丈夫!?」
一瞬、ビクンと躰が跳ねた。一瞬の痛みすら、今はキモチよさに変わってしまう。尾を引くヒリヒリとした感触で、オッパイの愛撫で『イッた』ことに気が付いた。胸元の体操服が、ほんの少しだけ湿って暗くなっているのに気が付く。オナニーしていないほうの手で、体操服の上着の中に手を入れる。触れた指先を、口でペロリと舐めた。
「オッパイ、出ちゃったみたい♡」
「……えっ、えええ!?」
「飲んでみる? ちょっと甘じょっぱいよ」
肩まで体操服と下着を捲りあげ、ブラだけをつけた姿を晒す。良子ちゃんの膝枕とは、少しだけお別れ。コロンと寝転がって、『私』のカラダを見てもらうために少しだけ離れた。きっと、今の良子ちゃんには『私』のふくらみと、胸元の湿ったところしか見えていないんだろうなぁ。そんなことを思うと、下腹部がジュンと来るのを感じる。
葛藤してたのは、そんなに長時間ではない。やがて良子ちゃんは、一緒の布団に入ってきて。ちょうど、私のおっぱいを唇で咥えることが出来るように潜り込んだ。数秒と経たず、乳首の先端から吸われる感触が伝わる。
「んっちゅぅ……♡ はむっ……♡」
「はぁぁんっ♡ はふぅ……♡」
母乳の成分は血液だ、と聞いたことがある。授乳しているときは、子供に自分自身の血を分け与えているようなもので、それが原因で体力が落ちてしまう母親もいるらしい。相当にキツイものだ、とは思っていた。
しかし、今はどうだろうか。もちろん現実改変の影響によるものが大きいのだとは思うが、こうして無心におっぱいをねだる良子ちゃんを見ていると、苦痛だとかしんどいとか、そんな気持ちは湧き上がらない。不思議な多幸感に包まれてしまう。頭を撫でてあげると、良子ちゃんはますます私の乳房に顔を埋め、より強く吸い付いてきた。
「よしよし……♡ とってもかわいいよ……♡」
「はむっ……♡ ちゅっ……♡」
口元が母乳と涎だらけになるのも構わず、良子ちゃんは吸い続けた。体格は彼女の方が大きいので、私は次第に彼女の躰に包まれてゆく。すべすべで、柔らかくて、暖かい彼女の肌。抱きしめられるだけでストレスが無くなるって、本当だったんだなと思い出す。
一時間前ぐらいに、太ももだ、おっぱいだと議論していたのが馬鹿馬鹿しくもなる。やはり、どちらも素晴らしくて比べようもないのだ。そんな事を思い、チャイムが鳴るまで授乳を続けるのであった。
――――――――――――――――
あぶねぇ。あのまま戻ってこれなくなるところだった。チャイムがなり保健室の先生が様子を見に来て、部屋から二人が追い出される。すると、僕たちの状態は普段の物に戻っていた。良哉の方は、かなり運動したという記憶になっているらしく、何やらぼやいていた。「部活以外の運動とかエネルギーの無駄なんだよなー」という割には、いつも体育の時間全力で走ってる気がする。
授業が終わり、バトミントン部が終わり。日も沈んで、夕方。互いの部活動が終わった後に、駅で再び良哉と落ち合った。彼の周囲にはバスケ部のメンツもいるので、全員が各駅で降りてゆくまで適当に音楽を聴いておく。
電車の揺れに眠気を誘われ、次第に瞼が重くなる。どうせ長時間になるのだから、ここで寝ておくのもいいや。そんな事を思いつつ、電車の壁に背を預けた。
「――と、優斗」
「……んぇぇ?」
「ふたなりの男の娘って何だと思う」
「急激に眠気がぶっ飛ぶこと言わないでくれる?」
目をこすり、被りを振る。こいつ、バスケ部でもこんな会話してたんだろうか。話題について少し考えこむ。
「その二つって両立しうるものなのか……とバスケ部の連中と話している最中ずっと考えててな」
「あいつらに謝れ、会話してる相手の頭の中ピンク色とか話してて悲しくなるわ」
「大丈夫だって、あいつらとは普通の話しかしてねぇよ。こんな話してるのはお前ぐらいか?」
「要らねえんだそんな特別」
台詞こそ手厳しく言ってしまったが、ほんの少し口元が緩むのを感じた。確かに、こんな話題を多人数でするものではない。少し考えて、口を開いた。
「『男の娘』ってなると体自体は男なんだけど顔つき、体つきが華奢で女装が滅茶苦茶似合う、みたいなイメージだ」
「あと最終的に女の子にされるな、『男だろうが女の子として扱えば女の子になる』とか言ってたし」
「あー……うん」
掘られるんだろうか。
「ふたなり……となると両性具有。神様だったり天使だったりは結構そんな感じで描かれるし、多分性別という概念がないんだろう」
「どっちも持ってたら区別の必要は無いもんな……だけど美術館とかでみる絵だと短小なのしか見かけないけど、あいつら不能なの?」
「嫌だろ勃起してる絵が飾られた美術館」
ともあれ、性別の認識が無いというのがきっと重要で。
「つまり、『男の娘』は自分が男だとおもっていて、『ふたなり』はそういう認識が無い。つまり『ふたなりの男の娘』というのは、『自分が男だと認識している両性具有』だったんだよ!」
「な、なんだっ……いやそんなん語られても」
「おめーから振ってきたんだろうがこの話題よぉ!」
肩を落とす。と同時に、隣に座っていた良哉が僕のヘッドフォンをひったくって耳に当てる。
「ちょっ、おまっ」
「ほーん、電車で音楽なんて洒落てるなんて思ったが、こう来たかぁ」
「ぐっ……」
観念して、スマホのホーム画面から音声を消す。表示されていたおねロリ物のタイトルが目に移り、電車で聴いていたことを後悔し始めた。
「帰ったらなかなか鑑賞できないもんでね……」
「あー、親御さん厳しいタイプか?」
「いや、一回寝てる時に部屋に入られてな。寝ぼけて対応が遅れてしまったけど、すんでのとこで事なきを得た」
「多分それバレてるで」
「嘘やん……」
……いや、内容がバレなかっただけマシとしよう。そこを知られるのと何となくエロいのを聞いていたのだけ知ってるのとは、天と地ほどの差だ。
「その作品は……確かお前が勧めてきたやつか」
「おねロリって良くない? むしろ良いって言え」
「悪くはない、がロリおねとはやっは違うのか?」
「うむむ、ニワカな僕だと使い分けてなはい。受け攻めが固定されてれば書き方は重要なんだろうけど」
「……なるほど、ロリ側の無自覚攻めか」
「というか、可愛さにメロメロになってお姉さんが色気と搦手に出る」
「年上としてどうよそれ」
「昔は僕たちだって純真無垢な、ヒーローに憧れる少年だったんだ。今や竿役にもなれねえ」
「急に悲しいこというなや」
駅のアナウンスが、目的の駅を伝える。二人とも立ち上がって、開いたホームのドアをくぐった瞬間。全てが変化した。
※
風が吹いたのと同時に、自分の髪がゆらり、と揺れるのが分かった。背中まで伸びたストレートヘア。「着ていたセーラー服」のボタンをしっかり閉めて寒さに備える。隣に並んでいた筈の良哉は、「私」の肩ぐらいの背の高さ。学ランを来て、バスケ用具を背負っている。しかし顔つきだけ見れば、男とは到底思えない。つぶらな目をしたショートカットの女の子が、コスプレで男子制服を着ているような違和感を覚えた。
「優ねぇちゃん、バトミントンどうだった?」
「――――うんっ、新入生も参加してくれて万々歳よ」
本来の使い方(?)とは違うが、今日のうちに女子になった状態で色々勧誘してみたところ、男女問わずかなりの参加者が増えたのだ。女の子さまさま……というより、普段の勧誘がヘタクソなんだろう。
「僕もバスケでクタクタだよぅ」
「でも凄いよね、リョウ君が入ってからウチのバスケ部、とっても強くなってない? 全国出場の垂れ幕なんて、初めて見たよ!」
「えへへっ……皆が頑張ってくれるおかげかな」
『男同士』だったときも、茶化しつつ似たような事を言っていた。パス回し、シュート精度、スタミナ。全員の長所と弱点を把握し、素早い判断で最適な経路での攻撃を導き出す。今でこそ二年生なので学年リーダーに留まっているが、次の大会が終われば部長を継ぐのは火を見るより明らかだ。
――――『僕』は、『良哉』にとっての何者なのだろうか。きっと彼は、僕の知らない世界を沢山知っているのだろう。退屈でしがない『僕』は、彼の世界に存在しているのかな。
「……ゆうねぇ?」
しまった、と考え事を止める。男装した少女のような格好で、「リョウ」が「私」を見上げていた。
「ゴメンごめん、ちょっと眠くって」
「優姉ちゃんも疲れてたんだねっ」
にへら、と笑うリョウ。……可愛い。ほっぺた軽くつねりたい。
「でもすぐ帰って宿題するのもイヤだなぁー」
「確かにね、学期はじめだからそんなに量もないし」
しめた、と切り出した。
「ねぇ、私のウチに来ない? 昔みたいに遊んだりしたいし」
「えっ……でも急に悪いよ。お母さんも心配しちゃうし、優姉ちゃんのお母さんも大変だよ」
「いいの、今日はうちの家族で実家に用事があるんだって」
『偶然にも』家を出払ってる両親。兄はそもそも一人暮らし。なので今日は、『私』が一人自由に過ごせるのだ。ならばこそ、と畳みかけた。
「久々に、一緒にご飯とか食べない? 私が作るからさ」
んー、と悩むように目と口を瞑る良哉。というか、声に出ている。可愛らしい。少し時間をかけて、リョウは頷いてスマホを取り出した。ショートメッセージを家族に送り、了承を取り付ける。
「よし、じゃぁ一緒に遊ぼう!」
口調は明るいお姉さんらしく、だけど心の中ではこれからの淫靡な時間を待ち望んでいた。
――――――――――――――――――――――――――――
「やったぁ、3連勝!」
「いやー強いねリョウ君」
自室に招いて、対戦ゲーム。やはり運動神経の強い方がこういうのは強いのだろうか。以前『良哉』に聞いた時には、簡単なコンボを理解することから始めればいいと返答を受けた。なんというか、そこを理解するのが大変なのだが。そこに苦労など全くない、という彼はやはり才覚があるのかも知れない。
家の近い僕たちだったので、リョウがメールを打つだけで自体はとんとん拍子に進んでいった。二人でご飯を食べる約束もしてしまったが、外に食べに出るのも味気ない。冷蔵庫に残っている材料をガサガサと漁る。カレーぐらいなら作れるだろうか。
「少し待っててねー」
はーいという声が僕の部屋から聞こえる。包丁で材料を刻み、洗い物を増やしたくは無いので、鍋でそのままに野菜と肉を炒める。しばらく煮て、灰汁を取り除きルーを入れ。
調理にかかったのは30分程度。サラダ等も含めて、小一時間。――――ここで熱が野菜に通り切るまで放って置いてもいいが、ワザと『リョウ』を部屋に一人にしておく。その時間が長いほど、きっとボロが出やすい。
僕たちが家に戻って、一時間。出来上がったカレーの火を止め、用意は出来た。足音を潜めて、二階の自室に戻る。そして、ドアを開ける直前で声をかけた。
「ご飯できたよ、起きてるー?」
「……っ!?」
ガタン、と部屋の中で大きな音。逃すものか、と扉を開けた。部屋は明るいものの、りょうやの姿は見えない。否、『私』のベッドの上で丸くなった毛布の塊がある。ガバッと捲ってやると、そこに彼はいた。顔を火照らせ、しかし叱られる寸前の子供のように、怯えた表情をしている。
「……あっ、うう……」
「……どうしたの?」
気づいていながら、わざと知らないふりをして質問してみる。今の彼は、制服ではない。この部屋にあった「私」の普段着にクリーム色のスカート。捲れ上がったそこには、「私」が仕舞っていた薄緑色のショーツ。それに全力で抗わんと、怒張するリョウの肉棒。
「ごめんなさいっ……! 優姉ちゃんの服、勝手に着てごめんなさい……!」
乱れた姿のロリっ娘が、ダボダボの『女の子』の服を着て、目を潤ませつつも興奮を抑えることもできずに勃っている。……これほどまで、ちぐはぐな光景があるだろうか。
ゆっくりと、彼が固まったままの布団に近づき、覆いかぶさった。怯えた『彼』の手をゆっくり包み込むように、指と指とを重ね合わせる。
「ひうっ……!」
「リョウちゃん、とってもカワイイ……♡」
耳元で、囁くように語る。戸惑いを隠せないリョウ。そのまま、無防備でとても小さい唇を犯す。
「んんっ……♡ くちゅっ……♡」
「っはぁっ……♡ 優姉ちゃん……♡」
萎みかけた『彼女自身』が、急激に硬さを取り戻す。身体を寄せつつ、私の太ももで挟み込むと、苦しげに、だけど幸せそうに彼女が吐息を漏らす。
「どうして……? 僕がこんな格好して、キモチワルイよね……?」
ああ、認識が歪んでいるのだった。彼女は自分が男だと信じ込んでいる。あどけない顔つき、ポニーテールに結ったスラリとした髪の毛、膨らみかけの乳房。それを否定せんばかりに、そそり立っていた肉棒。気持悪さなどない。倒錯的な姿は、むしろ私を欲情させる。
もう一度寝転ぶ。だけど、今度は「私」のおっぱいを彼女のまたぐらに近づけて。
「ねぇ、もしもこのおちんちんが無くなったら、君は女の子になるのかな?」
「えっ……ふわぁっ♡」
返答を待たず、爆発しそうなソレをおっぱいで包み込んだ。パイズリは案外上手く行かない。自分ならもう少し激しく動かしたほうが良いんだろうな、とか思いつつ、苦戦しながらも揺り動かす。どうかな、とリョウの顔を見てみる。
「うぁぁ……♡ ゆう……ねえちゃん……♡」
ぎこちない動きながらも、リョウはしっかり感じていた。我慢するように、口を一文字にしてナニカを耐えている。……もっと素直になればいいのに。攻めを止めないまま、リョウの胸の膨らみに吸い付いてみた。
「ちゅぅっ……♡ れろっ……♡」
「あっ……♡ ああっ……♡ ゆうねえ……♡ だめだよっ……♡ でちゃうっ……♡ うぁっ♡」
ビクンと体が跳ねると共に、そそり立っていたソレから勢いよく放たれた白い粘液。熱くドロドロな精液で、私のおっぱいはすっかり染め上げられる。
「ゆうねぇ……ごめんなさい……よごしちゃった……」
放出しきった彼女はというと、泣きべそをかいている。弱気なとこも可愛らしいんだけど、と「思い出しつつ」。「普段のバスケで格好いい姿」も、今の女の子みたいな可愛さも。両方持ち合わせているのが、正直羨ましい。だから、このベッドの上では私が主導権を握ってやるんだ。
「少し料理で服を汚しちゃったから、脱いじゃうね……」
あんまり良くないけど、精液のついた部分は服で拭う。どっちにしろ、もとに戻るし。ゆっくりと、見せつけるように一枚ずつ。スカートを脱ぎ、パンツを片脚づつ。あえて、リョウと目を合わせない。ドギマギしてるのは、正直自分も同じだから。
「ふふっ……♡」
クローゼットの扉にくっつけられている鏡が、今の「私」を写している。背が高く、一見すればスレンダーな印象も見受けられそうな立ち姿。それにそぐわない、まんまるできれいな形をしたおっぱい。強調されたソレは、決してアンバランスでなく、むしろ魅力的ですらあった。ロングヘアを軽く手で撫でると、お気に入りのリンスの香りがふわっと広がる。
「おねえ、ちゃん……」
リョウのペニスが、再び勢いと硬さを取り戻してゆく。幼い見た目に反して、雄々しくそびえ立つソレをリョウ自身は忌避している節がある。だけど、今の私にはそれだって愛おしい。
「リョウちゃん、わたしも少し楽しいことしたいなぁ♡」
仰向けになったリョウに、ゆっくり馬乗りになるように座り込む。私の秘部が、ゆっくりとリョウの雄を受け入れた。
「ふぅっ……♡ はひっ♡ たっ♡」
「んっ、あぁっ……!」
下腹部に異物が入り込む。熱が直接内臓に伝わり、おなかがあったかい。泣き出しそうだったリョウの顔がトロンと解けてゆくのをみて、全身を預ける。二人で繋がったまま、互いの躰を貪るように味わい尽くす。
「ゆうねぇ……♡ ふわふわする……♡」
「わたしも……♡ とってもキモチいい……♡」
グリグリと、腰を動かすと思わず吐息が漏れる。僅かな痛みと、それを忘れさせる充足感。抱きしてたリョウの、華奢で熱を帯びたカラダ。舌と舌を絡めさせて、彼女の唇を奪った。
「んっ……♡ んうん……♡」
もう、どちらのあえぎ声なのか解らなくなって。普段自分がそうするように、扱く勢いを早める。――――二人共、もう限界だった。
「あっ――――ああぁっ♡ はひっ♡ はふっ♡」
「はっ――――んッ♡ ううっ♡ でてるっ♡」
熱いものが、自分の身体のなかで暴れだしてるような感覚。多幸感と、強烈な衝撃。脱力して倒れ込んだ先に、見えたリョウの表情。幸せそうに目を瞑っているのを見て、私の口元も緩んだ。
――――――――――
「悩んでるんだ」
ふと、隣で寝ているリョウが言った。抱きつかれる力がほんの少し強くなったのを感じて、『私』も同じようにした。
「この前、試合にどこかの会社の実業団から人が来て。うちのチームで練習してみないかって言われたんだ」
先週ぐらいに、家庭の用事で良哉が休んでいた事を思い出す。平日に、プロチームの練習を見に行ったんだろう。
「プロの人にはやっぱり敵わないなぁと思ったけど、監督にもこれから伸びるって言われて。もし良かったら、また練習に来ないかって言われたの」
「――――すっごいじゃん!」
一瞬返答が遅れたのは、驚いたからか。それとも、寂しさからだろうか。
「不安なんだ。ボクはそんなに強くなんてない。今のチームだって、一人でシュートを決めてるんじゃない。皆がいるからなのに」
「……リョウくん」
「それにっ」
リョウは目を伏せ、吐き出すように口にする。
「自分の力が通用するのか、駄目だったらどうしたらいいんだろう。みんなと離れ離れになって、バスケしかできないボクが、バスケすらできなくなったらどうしようって」
「――ッ」
「高校を卒業して、大学で夏休みに皆で集まって。そんな感じで、一緒に居たいのに。一人だけ別の所に行くのが怖いんだ……!」
涙を流して、「良哉」はそうこぼした。
「一緒に練習しているのが楽しいのに、一緒に遊んでいるのが楽しいのに! 優ねぇと学校に行くのが楽しいのにっ!」
「…………ひとりは、嫌?」
宥めるように、頭を撫でる。「彼」は、意外にも孤独だったのだろうか。
「私は、バスケのプロの事もよくわからない。どんな練習なのか、どんなチームなのか、プロになったらどんな事をするのかも。――でもっ」
リョウの顔を手で寄せ、軽く口づけする。
「――『僕』は応援する。別にその道を進まなくたっていい。友達なんだから、寂しいときは電話でもするさ。遊びにだって行く。一人で抱える必要なんてないだろ」
高い声で、しかし口調は男のままになる。
「キツイなら、キツイって言いなよ。それを許さないほど、周りの奴らは冷たくないさ」
もう一度、リョウは泣きながらおっぱいに抱きつく。……不安がとけて、今度こそ甘える子供みたいになって。少しだけ肉棒が大きくなるのを感じて、手を添えてゆっくりと抜いてゆく。今度こそ、淫らに僕たちは重なり合うのだった。
――――――
……本日も寝不足。今日のは、良哉の告白に悩んで普通に眠れなかった。現実改変の影響で姿やら環境は変化しても、それは最小限。彼がスカウトを受けていることや、その相談を受けたことは事実として残っている。
「よっす」
「……おう」
「眠そうだな、『また』か?」
「ちゃうな、そもそもお前が帰ったの11時ぐらいだったから。速攻寝たつもりだったんだが、寝れなかった」
「そっか」
しばらく、ホームの音声だけが響く。
ぽつりと、良哉が口を開いた。
「昨日は、ありがとな」
「……急にツンデレキャラのデレ始め部分みたいなことを」
「言うな。――昨日もう一回悩んで、もっといろんな人に相談しようって決めた」
そっか、と頷く。
彼のことは羨ましい。だけど、良哉とはこの関係を続けていたい。特別な誰かで無くても構わない。
ホームのベルが鳴り、列車が来る。
「――優斗! ほらボサっとしないの!」
隣の少女が、僕を引っ張る。
「いっつもそんなんだから私以外の女子と話せないのよ!」
「お前は良いのかよ?」
「わ、わたしは昨日のお礼っていうか……!」
ツンデレ、か?
まあいいや。
列車に飛び込み、二人一緒の席に座る。
これからも、宜しく。そんな言葉を口にした。
「えっ……うんっ♡」
互いに笑いあった。
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