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● 日常 ●

方言女子 × 日常

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○方言女子 (北九州)


名前 : 九州 弥生 (ここのす やよい)

年齢 : 高校2年生

備考 : 九州から引っ越してきた。
 よく喋る、ムードメーカータイプ。



-------------キリトリセン--------------




「なんばしよると?」


夕日の差し込む放課後の教室で
彼女は俺に話しかけてきた。


周りにはちらほらクラスメイトが残っているが
みな帰り支度で忙しそうだ。


彼女は、机の向かい側にしゃがみこみ
のぞき込むように上目遣いで俺を見てくる。

かわいい。


「本読んでる。」


視線を本に戻して答えると
彼女はあからさまに頬を膨らませて立ち上がり
俺を睨んできた。


「それは見ればわかる!
 なんば読んどるかを聞きよると!」


「何してるのか聞いてきたのはそっちだろ…。
これ。」


小さくため息をつき、
本の表紙を彼女に見せる。

彼女は 数秒表紙の文字を目で追いかけた後

ふーん…と言いながら、
既に帰ったのであろう前の席の椅子に
こちらを向いて座った。


短いスカートを履いているくせに
脚を広げる体勢だ。


「…面白いと?」


彼女は本を読むようなタイプではないと思っていたが
珍しく興味を持ったようだ。


「うん。」

「…私も読んでみようかな。」


椅子の背もたれに頬杖をつき
半ば独り言のような音量で、彼女が呟く。


「結構分厚いけど、読めんの?」


本に栞を挟みながら言うと
またもや彼女は俺を睨んできた。


「読めるし!
こう見えても私結構読書家なんよ!?」


馬鹿にしたつもりはなかったのだが
必死に反論してくる。


「それにしては国語の成績悪いよなー。」


「う、うるさい!
 昨日の小テストは上がっとったもん!」


挑発をすれば、律儀に乗ってくる。


「何点だったの?」


にやりと笑って聞く。


「…じ、16点…。」


「あれ何点満点だっけ?」


「50…。」



目を逸らし、口を尖らせて答える彼女に
思わず笑ってしまった。


「なんでそがん笑うと!?国語苦手なんやもん!
その分数学は成績いいっちゃけんいいやろぉお!」


涙目で怒ってくる。

怒った彼女もかわいいが
少し言いすぎたかもしれない。


「はいはい。
でもきっと、九州には短編の方が合うよ。」

「ふぅん…。」


笑いを堪えながら宥める。


すると彼女はこれには反論せず、
口を尖らせたままスマホをいじり始めた。


教室にはもう他のクラスメイトはいない。

二人きりの教室で沈黙が訪れてしまい
なんとなく居づらくなる。


なにか話しかけようと話題を模索していたら
彼女の方から話しかけてきた。


「…短編って、こういうの?」


単に飽きたのだと思ったが違ったようだ。

彼女が見せてきたスマホの画面には
俺の持っていた本と同じ著者の書いた短編が映し出されていた。


「そうそう。
でもそれなら俺持ってるし、貸そうか?」

「よかと!?」


俺の言葉を遮るくらいのスピードで
彼女はガタッと立ち上がり、言った。


「い、いいけど…」


その勢いに圧倒されながらも返事をすると
彼女は ハッと我に返り、椅子に座り直した。


「ありがとう…」


目を泳がせながらそう言った彼女の顔は
ほんのりと紅に染まっている。


うん、と返事をして、
そろそろ帰ろうと思い立ち上がる。


椅子を引いた音に、彼女の体が一瞬ぴくりと跳ねた。

そして、彼女は、背もたれ部分に組んだ腕に顔をうずめる。


俺は、先ほどまで読んでいた本を鞄にしまい
鞄を背負う。


「…ねぇ。」


その時、顔をうずめたままの彼女の声に呼び止められた。

その声は、さっきとは打って変わってとてもか細く、ギリギリ俺に届くくらいの音量だった。


「ん?」


歩こうと踏み出していた足を戻し、
立ったまま彼女と向き合った。


しかし返事をしたものの、彼女から一向に次の言葉が出てこない。


「…どうした?もしかして体調悪いとか…」

「大丈夫…!」


心配になって声をかけたが
遮るくらいのスピードで否定された。


「別に体調悪いわけやないけん、…聞いて。」


彼女の真っ赤になった耳と
伝わってくる緊張感が、妙に俺をドキドキさせる。


「うん。」


「…明日、この時間、この教室。」


「…は、」


声が小さすぎて
曖昧にしか聞こえなかった。


聞き返そうとした瞬間
彼女はガタッと立ち上がり椅子を戻し、
素早く自分のバックを背負う。


「来んやったら許さんけんね!」


振り返って俺に向かってそう言った彼女の顔は真っ赤で、しかし満足げな顔をしていた。

彼女はそのまま走り去っていく。



俺はその場に取り残され
廊下に響く彼女の忙しない足音を聞きながら立ち尽くすしかなかった。




明日も…この時間にこの教室…

彼女はそう言った。(多分。)



金縛りが解けたようにハッとしてちらりと時計を見ると


時刻は既に午後の5時半を回っていた。




-------------キリトリセン--------------



ども、作者です。

本編1話目の主役は 方言女子の、九州 ちゃんでした。

この子の容姿を決めるとしたら
小柄で(胸は小さめで)髪の長さはミディアム、ピン止めなんかしてたらいいな、と思います。


ここから 告白編、デート編 などなどと続いていきます。




方言で 喜怒哀楽を表に出す女の子
すごく可愛いと思いませんか?
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