転生蒼竜チート無双記

れおさん

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23話 「闇に隠れる闇の思いは_」

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  「ちいっ!」

 数人がかりでヴィルシスの体を押さえつけてやっと磁力短剣を引き抜くことに成功した。
 しかし、その短剣が自分の前にあるだけで自分の体がその短剣の方向に持っていかれてしまう。鎧全体が反応している。
 これだけ強い磁力に引き付けられてしまえば、自分の力ともいえどもどうすることもできない。

 「ったく余計なことをしてくれたぜ……」

 その言葉には二重の意味が含まれている。一つはもちろんこの短剣を刺されて相手の大将をしとめる絶好の機会を失ったこと。
 もう一つは……。

 「あれが今のティナの心の弱さに付け込んで依存させた野郎か……」

 たとえ俺のことを信用しなくても、ティナが誰のことも信用しなければそれでよかった。なぜなら誰も信用していない中なら過去のことを踏まえれば自分が一歩も二歩もあの子の心をつかむ可能性があるからだ。
 だけど今回の様子を見て明らかに自分にとって都合の悪い展開になっているということが手に取るように分かった。
 あの時、自分がティナとの関係が良好だったあの時の目をあのよくわからない奴に対して向けているからだ。

 「くっそが!」

 思い出しただけで腹立たしい。今も自分がこうしている今もやつとティナがくっついていると考えたら落ち着かない。いらだちが募る。
 ティナは自分だけの物。ティナの笑顔も優しさも何もかも自分の物なのに。

 「くくく……好きな女を取られた挙句、その相手にそんな猫だましのような攻撃にあって……。情けないなヴィルシス」
 
 そんなヴィルシスのもとに現れたのは以前にも口論をした魔法使い。

 「うるさいぞ!アロイヴ!お前にだけは……偉そうに言われたくないな!」

 「その無駄に真剣なお前でずっと振り向いてくれなかったくせによく言う」

 ついにそのあおりに耐えられなくなり、アロイヴと呼ばれた魔術師につかみかかろうとした。
 しかし、アロイヴに届く前に何か見えない壁に当たり、彼につかみかかることはできない。

 「くくく……。お前と違ってさらにいい魔法をいただいたからな。お前は魔力が足らず相手に触れられてしまうだろうが、私には触れることもできない。お前とは出来が違うんだよ……」

 あおるのが面白いといわんばかりの反応を見せるアロイヴ。腹が立って仕方がないが触れることが出来ない以上、何もすることはできない。

 「俺はティナをティナのまま自分のもとに取り戻さなきゃ意味がないんだよ」

 「まだこだわるのか。もう手遅れだよ。あの化け物にもうあの子は心を奪われているだろうさ。戦闘時でさえあの表情。しかも戦闘していないときはいつでもいようと思えばお互いにそばにいることが出来る奴らが仲たがいでもすると?」

 「するかもしれない。俺は諦めない」

 「くくく……。さすがその状態に陥って苦い経験をした人の発言の重みは違いますねぇ!!」

 もうこれ以上こいつの煽りに付き合っていたら無駄なとこでさらにイラついたりして疲れてしまう。
 今やることはティナを取り戻すために今回の戦闘で出た課題を克服すること。ただそれだけだ。
 この短剣は後々調べると超強力な磁力を発しているとわかった。
 たぶんメオンの鎧や、前回の戦闘で得たデータをもとに俺の鎧に鉄成分が多めだということなどにあっさりと気が付いたらしい。
 力でごり押しな戦闘をする化け物のくせにそういう観点にも気が付くあたり、かなり厄介だといえる。
 あと総大将の女も正直兄以上の実力でまず真正面からぶつかって勝てるような相手ではない。

 「だが、俺には”あの方”からもらった魔法がある。あの総大将は耐久力もないし、勝てるはずだ」

 しかし、俺にとって総大将などおまけだ。まずは___。

 「あの怪物を倒さなきゃならん。あれがティナを惑わせている」

 クレマリー王国なんてどうでもいい。この国の勢力拡大も関係ない。
 俺にとってはティナがすべて。どんな世界になろうが自分のそばにティナがいてくれたらなんでもいい。
 ただそれだけが俺を戦わせる今の原動力なのだから。
 そんな様子をアロイヴはニヤニヤと見ながら

 「ここまでくるとただのストーカーとか言うレベルじゃありませんね。……生意気な小娘な事。私が来る前から常にヴィルシスのいう小娘と比べられて馬鹿にされてきた。どれほどの実力か今度拝見させてもらいましょうかね」

 ヴィルシスはすぐに兵士たちの準備と自分の装備のメンテナンスを始めようとしている。このやる気からして準備ができたらすぐにでも攻めに向かうのだろう。

 「しかし……あの猫だまし程度で危ない身になるようなお前が今回生きて帰れるか私にはわかりかねますね。あの化け物はただ見た目や力が化け物なのではありません……それに気が付いていないヴィルシス。お前は今回危ないかもですね……。それもティナという例の小娘がいれば止めてくれるでしょうがね」

 自分には止める気もない。明らかに視野が狭くなっているし、相手も間抜けじゃない。間違いなく今回奴はやられる。そんな予感がする。自ら自分も危ない目に合う必要はない。
 はた目からゆっくりと化け物とティナとか言う小娘の実力を見させてもらおう。
 私は分かる。あの化け物とあの小娘がもう離れない関係になっているだろうと。私には確信がある。
 だって私はあの目にあの目で見つめあう者の強さを知っている。
 そして私はその強さを持つことが出来なかった。
 だから今の私の考え方になった。

 「ヴィルシス。あなたはかつての私と同じなのですよ。もうそこまで来てしまったらお前の想い人は……もう二度と帰ってくることはない」

 ならば意思を_感情を乗っ取ってでも自分の愛する者が欲しい。失うことが怖いくらいならどんなに満たされない形でもいい。
 いつかは慣れる。その状態に。
 離れて行ってしまったら、見限られてしまったらそれで終わり。行方をくらまされたり、敵国にでも行ってほかの者に守られるような状態になってしまったらどんなに力を尽くしても取り戻すことはできなくなる。

 「私は……もう失うという恐怖をなくすために禁断の術を編み出した。それがどんなに非人道的だとか悪人だとか言われても構わない。ただ自分の大切な人が横にいる安心感、満足感よりも大切なものなんてないんですから」

 もちろんそんなアロイヴの思いにヴィルシスは気が付くわけもない。そしてティナが二度とヴィルシスのもとに戻るわけもないのに彼はひたすら信じ続ける。
 その思いの先走った先にあるものをアロイヴは知っているし、経験した身だった。
 
 「私は……お前と同じように自分が正しいと思ったやり方で彼女を自分のもとに取り戻す。……そのうえで彼女の愛している奴も殺す。それは……お前があるべき結果になった後に始めよう……。覚悟しろメオン。そして待っててねエルミーユ」

 クレマリー王国を支える人物たちに深くかかわる闇がこのエクラベル王国の重臣たちにあるようだ。
 この魔術師アロイヴとあの二人の関係は。いったいどんな過去があったのか。

 それをまだシュウは知らない。
 アロイヴの野望は静かに燃え上がり進行している。
 しかし、それはクレマリー王国の者達とヴィルシスには知る由もないことであった。
 
 
 

 
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