群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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今だってあれが皐月の演技だったって信じきれてない分部もあるくらいだ。目が、偽りのないように感じられたから。なのにそれが嘘だったとは。


「焦ったんだから。人をからかうにも限度ってものがあるでしょ!?」


「ごめん。悪かったって」


「聞こえなぁーい」


「あーすーか。何か奢ってやるから」


肩を竦めぽん、私の頭に手を乗せた。


「どうしようかな」


「じゃあ特別にケーキ頼んでもいいぜ」


ケーキ。ちろりとメニュー表に目を滑らせれば、美味しそうなケーキが何種類か載っていて。ああ、とてつもなく甘い誘惑。ケーキが私を食べてと言わんばかりに見つめてくる!


「……チーズケーキ」


ぽつり、蚊の鳴くような声で呟くと皐月は笑って店員さんに追加でケーキを注文してくれた。何だろう、この敗北感。


結局丸め込まれてしまうあたり私は子供で。


「お待たせいたしましたー。チーズケーキでございます」


さほど時間もかからず運ばれてきた生クリームが添えられているチーズケーキにフォークを刺す。そして一口大に切って口に放り込む。


「ケーキ。うまい?」


頬杖をついて私の返事を待つ皐月。私の答えなんか、とっくに分かりきっているんでしょう。


「……美味しい」


「よかったじゃん」


改めて思う。皐月には、敵いません。私の負けだと白旗を揚げて、またチーズケーキを一口食べて舌鼓をうった。




―――――――――――


―――……


ガタン、ガタン、ガタン。


揺れる電車内、ドアに寄りかかりつつ窓から差し込む夕日に目を細める。明日歌とは乗り換えの駅で別れたから今は1人でいるわけだけど。


「……はぁ……」


周りに聞こえない程度に浅く溜息を吐いた。頭の中で再生されるのは、あのカフェでの出来事だ。


—――俺には不釣り合いな北欧風のカフェに入り明日歌を弄り楽しみつつライチティーを飲んでいる最中。


「……最近さぁ、思うんだよね」


表情を少し真剣なものに変え、話を切り出された。


『何だよ』と聞けば『藍の家や春さんとの問題も、浅野さんと皐月の関係のことも、碧音君のことについても進展して、そのおかげで皆楽しく過ごせてると思う』と柔和な笑顔で語った。


こいつは何も考えてなさそうで頭の中はお花畑だし救いようのない変態だけど、本当はちゃんと人のことを見てる。


そんで、しっかり相手のことを考えてる。


だから星渚や藍、碧音、勿論俺だってこいつに心を許せるんだよな。


「続けばいいのにね、この時間が」


そう言葉を溢す透歌が、あまりにも慈愛と感傷が混ざり合ったような、切ない顔をするから。……思わず抱きしめたくなった、とは口が裂けても言えねぇ。


「お前も感傷に浸ることってるのかー。『こんな時間か続けばいいのに』って格好いいこと言っちゃうようになったのかー。先輩は涙が出そうだ」


芝居がかった仕草をすれば『白々しいな!』となかなかキレのあるツッコミが返ってきた。


「でもさぁ、このままの時間が続いて本当にいいわけ?」


穏やかな時間が続いて皆が笑っていられたらいい、その考えは分かる。でもそれじゃ、俺らの関係も、距離感も。このままってことだろ。


ざわり、胸の奥で燻る感情が存在を主張し始める。


「お前、碧音とこのままでいいのかよ」


「ちょっ、ななな!まじでか今それ言う?!今それ言う雰囲気だった?!」


あわあわと忙しなく瞳を泳がせたり口をパクパクさせたりと落ち着きをなくす。分っかりやすいよなー、お前。


「碧音君にはキュンキュンさせられっぱなしだよね」


頬を両手で包み、デレデレと頬を緩ませっぱなし。もっと引き締まった顔しろ。


碧音君の色気はね、と更に語ってくるからまじかよとドン引きすればさすがにこれ以上は止めた方がいいと察したらしく『まあ碧音君の色気については置いといて』と話を元に戻した。


「碧音君って、危ういところあるから。自分が無理しててもそれに気づかないんだよね。皐月も分かるでしょう?」


「昔からずっとやってきたことは簡単には直らねぇからな。自分で立たないと、頑張らないとって自己暗示みたいに身体に刷り込んできた」


だから人に上手く弱音を吐けなくて、ずっと頑張り続ける。


俺や星渚や藍だって大学生活があるからいつも一緒にいるわけじゃねぇし、そういうところは直していけよって今までも言い聞かせてきてるんだけどな。

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