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しおりを挟む「練習再開するよー?皐月、準備」
「分かってるって」
星渚さんが声をかけ、皆さっきの位置に戻り練習開始。私も大人しく椅子に座った。
やっぱり皆オンオフの切り換えが早くて吃驚する。
だってもう真剣な眼差しで、笑顔はないのだから。
長机に置いてある楽譜にはシャーペンで沢山線や言葉が書き込まれていて、傾ける情熱に尊敬するしかない。
多分これは碧音君のだな。楽譜を前に見せてもらったことがある。
演奏しているのはSPIDERのtrickで、敢えて不協和音が混じっているところがクセになる曲。
私も好きだ。この曲でライブしてる姿を想像しながら聞き入った。
―――――――――――――
――――…………
「藍さんは泊まっていかないんですか?」
夜食を作ったから地下室に呼びに行ったら藍さんは帰る準備をしていて。藍さんは泊まらずに家に帰るらしい。
「せっかく俺の分も作ってもらったのにごめんね。弟が帰ってくるかもしれないから迎えてあげたくて」
結人さんはあまり家に帰らないらしいとあの時の会話から分かっていた。
「いえ、それは大丈夫なんですが。これ、よかったら持って帰ってください」
ラップに包んでおいた夜食を渡す。
「わざわざごめんね」
「お節介なのは分かってるんですけど……もし弟さんが帰ってきたら、一緒に食べてください。ちょっとした会話の糸口になればと思って」
「……明日歌ちゃん」
「藍さんなら、大丈夫だって私は信じてます。応援してます」
私が直接、何か兄弟や家族の関係を修復するために出来ることなんてないけど、信じることなら。
「私なんかで良ければ、話相手として役に立てるかもしれません」
「ありがと。じゃあたまに聞いてもらおうかな」
ぽん、と頭の上に手がのせられた。温かい、温かいなあ。気持ちがふわりとなる優しい、手の温もり。
「明日歌ちゃん、また明日」
「はい。お疲れ様でした」
藍さんはガチャリ、ドアを開けほの暗い外の紺色に紛れて行ってしまった。
見送ってからリビングに行くと、3人共まだ夜食に手を付けていなかった。
「明日歌ちゃん、ここに座って」
星渚さんが、自分の隣の空いている椅子を引いてくれた。
「ありがとうございます。でも、先に食べてくれて良かったのに」
というか、待っててくれたことが意外。特に皐月が。
「お前なぁ、こういう時は全員揃ってから食うもんなんだよ」
「珍しく皐月が真面目なこと言ってる!」
「珍しくじゃねえ。常に俺は真面目だ」
いやいやいや、それは可笑しい訂正しろ。突っ込みたくなったが、言うとケンカになるので止めておく。
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