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「ここにいるってことは、結人さんmidnightのライブ観に来たんですか?」

じゃないと、こんな偶然ないと思う。

結人さんは相変わらず人当たりの良い笑みは崩さない。

「あー……うん、まあ」

なんと。仲が悪かったお兄さんのライブに来るってことは、だんだん関係が修復されつつあるんだ。

うわぁ、良かった。

笑顔にならずにはいられなくて、だらしなく頬を緩める――――と。

「ゆーいと!時間かかり過ぎだって」

「入場まで時間ない」

やたらテンションの高い声と落ち着いた声が、結人さんの背後から聞こえてきた。

結人って呼んだんだから、友達だよね。

結人さんが体の向きを変えたことで、2人の姿が露になった。

「メールも電話もしたじゃん!気づけよな」

「お前のタイミングの悪さどうにかしろよ」

金髪の人が結人さんに肩を組み言い返しているけど、全て適当にあしらわれている。

「知り合い?」

「知り合い、かな。ね?」

「あっ、はい!」

ダークブラウンの髪を片耳にかけるもう1人の人は『どうも』と軽く頭を下げてくれた。

私もこちらこそと更に深く会釈する。

この人も、中々の色気と綺麗な鎖骨の持ち主だ。碧音君の方が無駄に色香漂ってるけど。

「こいつがライブ来たいって言ったから来たんだ」

こいつ、とは金髪の元気な人。

「今日初めて知ったんだよね。兄貴もライブするって」

「あ、そうだったんですか」

それってつまり遠回しに『俺は兄貴のライブをわざわざ観に来たわけじゃない。勘違いすんな』と言われてるようなものだよね。

相手に自分の隙を見せて警戒心を持たせなくさせるような笑みを浮かべているけれど、それは本物なのか、計算し尽くされたものなのか。

こんなことを思ってしまうのもまた、藍と言い合ってるところを見たからだ。

「結人」

ダークブラウンの人が結人さんに目配せすると、相手の気持ちを直ぐに汲み取りコクン、と頷く結人さん。

「始めに観んのはこっちのライブで、次はこのブースな!」

「移動するの怠くね」

「怠けたこと言うんじゃありません!」

金髪のハイテンションな男とダークブラウンで気怠い雰囲気の男の人は、2人でゆっくり先に歩いていく。

さっきのやり取りからすると、私と結人さんに気を遣ってくれたのだろう。

私達も成り行きで、後ろを歩き始めた。

「友達と来たの?それとも彼氏?」

「友達です!か、か彼氏なんてそんなとんでもないっ」

片手を顔の前でブンブン横に振る。オーバーリアクションする芸人みたいだ。

「ははっ、大袈裟。面白いね」

「良く言われます」

「だろうね」

藍に良く似ている、笑った時の目元。勿論、口には出さない。

実際良く言われてるのは変態女とか痴女とかだけど、自分から暴露するわけがない。

オブラートに包んで面白いってことで。

信号が赤から青になるまで、通り過ぎる車を何となく目で追う。

「結人さん、結構前に藍さんからドリア渡されませんでした?」

「ドリア……あ、貰った」

合宿の最中、私が藍に結人さんと一緒に食べて欲しいからと渡したドリア。

藍に聞くのも勇気が出なくて未だに話を切り出せていないし、藍からもその話はされていなかったのだ。

お礼は言われたけど。



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