つつ(憑憑)

九文里

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冬の雀

赤い着物の女の子

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 「人じゃ無かったのか。」

 童士は、男の子が消えた場所を見て呟いた。
 だけど恐ろしくは無かった。それに男の子の声は聞いた事がある様な気がした。
 真理子も暫く唖然としていたが、女の子のすすり泣く声にはっとして、うずくまる女の子の前にやって来た。
 まだ、小さい。
 下を向いて手で顔を覆っているうえに、おかっぱの髪が顔を隠しているので顔はよく見えないが、6歳ぐらいだろうか。
 赤い振り袖の着物を着ているのでどうしたのだろうと思った。

 女の子の前に膝を曲げてかがみ、声をかける。
 
「どうしたの?」

「お母さんがいっちゃった。お参りの帰りに飴を買ってって言ったら怒って先に帰ったの。」
 
 七五三のお参りの帰りだろうか。この子が千歳飴をしつこくねだったのでお母さんが怒って先に帰ったのだろうか。
 
 そんな考えが頭を過った。

「お家わかるの?」

 真理子が聞くと、女の子はこくりと頷いて、右手を伸ばして一つ下の橋を指差した。

「あそこから帰る」

 真理子は、女の子の指差した橋を見てから言った。

 「じゃあ、一緒に行こうか」

 女の子がまた一つ頷いたので、真理子は立ち上がり、それを追うように女の子も立ちあがった。

 二人が歩き出したので、童士もあとを付いて歩き出した。
 この時、童士は心に何か引っ掛かっていた。この光景を見た事があるような気がしていた。

 橋の手前まで来て、真理子は川を覗き込んでぞっとした。高さ7メートルぐらいはあるだろうか、二階建ての家の屋根ぐらいの高さがある。結構深い川だ。
 流れる水の量は、さほど多くない。その底は、セメントで固められている。
 真理子が川を覗き込んでる間に女の子はすたすたと橋を歩いて行く。真理子は、慌てあとを追おうとした。

「あっ、そうか」

 童士が叫び真理子の腕を掴む。
 その瞬間、橋が女の子もろとも消えた。
 真理子は前につんのめり川に落ちそうになったが、童士が腕を引いたので後ろに尻もちをついた。

 真理子が茫然と橋があった所を見つめていると、童士が口を開いた。

「思い出しました。僕がまだ小学校にあがる前、こちらに来る前です。同じ様に誰かを追って橋の上に上がると、橋が急に消えて下に落ちた事がありました。」

「いきなりその時の状況が頭に浮かんで来て、思わず後藤さんの腕を掴んでしまいました」

「すいません。大丈夫ですか」

 真理子は橋の無くなった、剥き出しの川を見てゾクッとした。落ちていたら全身がコンクリートに打ち付けられていた。

 童子と居ると奇妙な事が起こっても不思議では無い。
 でも命に関わる様な事がおこるなんて。

「舞鼓君、川に落ちた時、大丈夫だったの?」

「はい、怪我はしなかったと思います。」
「あの時どうしたんだろう。」
 童士はしばし宙を見て考え込んだ。

「そうだ、あの時誰かが受け止めてくれたんだ。そのおかげで怪我をしなくて済んだ」
「あの時“大丈夫か”と聞いて来た声」
「同じです」

「先ほど僕と一緒にいた男の子の声です」

「それからすぐに、何故だか僕は勝淞寺に預けられたんです」


「嬉しいよ、思い出してくれて」
 童士と真理子の背後から声がして、二人はびっくりして振り返った。
 そこには赤い振り袖を着たおかっぱ頭の女の子が立っていた。





 

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