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EP.005 喪わないためにも
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あの事件から二年の月日が経ち、今日はエミルが冒険者育成をしている学園都市に入学するために旅立つ日である。
「お兄ちゃん、忘れ物ない?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「母さんも、忘れ物とかない?」
「ふふっ、心配性ね?ユミルは……」
ヴィオラは、エミルを港町まで見送るために一緒に行く事になっている。
どうやら、ヴィオラはレックスとジャンケンで同行するのはどっちなのかを決めていたようで、後ろの方でレックスが落ち込んでいた。
「ほら、ちゃんとしないと!父さん!」
「あ、うん…………気を付けて、行ってくるんだぞ?エミル」
「ん、長期休みには帰ってくるから……そんなに、泣くなよな親父……」
「っ……」
「じゃあ、行ってくる!」
エミルは手を振りながら、ユミルとレックスを見て満面な笑顔をしてヴィオラと共に街を出て行った。
エミルは、五年間を学園都市で過ごすことになっている。
冒険者となり、そこから派生されている“役割”に就くための勉強と経験を積むためである。
(この世界について、もっと詳しく知りたいな……)
(“役割”という存在、それが何なのかは父さんや母さんも教えてはくれない)
「父さんっ、あたしも二年後には行くからねっ!」
「えっ……!?」
「いいじゃないっ、お兄ちゃんが其処から三年も経てば帰ってくるし!」
この平穏が続くと思っていたのは、ユミルだけではなく家族の皆も思っていたのだろうか。
物語は時には残酷で、真実も時には残酷でもあるのだと思い知らされたのは次の日付に変わった時だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
いつものように過ごしていたユミルは、自室に帰ろうと廊下を歩いていた時だった。
リビングで、聞き覚えのある声と怒鳴っているレックスの声がしてユミルは気になって扉の影から様子を見ていた。
其処に居たのは、レックスと二年振りに見たモードレッドだった。
「数年前に、言った筈だ!!俺は、お前の“モノ”でもないと!それに、ユミルやエミルの事もだ!」
「それは、貴方が決める事じゃないでしょ?それに、貴方は気付いているのでしょ?自分の中から、“暴食”は消えてエミルに引き継がれたって?」
モードレッドは、レックスに近寄りレックスの頬に触れると嬉しそうな表情をしていた。
それは、長年の間も待っていたかのように。
「っ……」
「俺のモノに、なっちゃいなさいよ?そうすれば、“まだ、生きて居られる”のよ?別の“役割”が手に入れば、暴走して……死ななくて済むのよ?」
「お前のモノになるぐらいなら、俺は死を選ぶっ……!」
モードレッドは、レックスの襟首を掴み引き寄せて押してソファへと押し倒すと組み敷くとレックスは抵抗しようとするが、モードレッドはレックスの手を片手で束ねて動けなくさせる。
「……どうしても、言うことを聞いてくれないのね?」
「っ……、モードレッドっ……退いてくれ、俺をお前を幻滅させるような事はしないでくれっ……」
「馬鹿ねぇ、……俺は諦めるつもりは無かったのよ?でも、それは貴方が“呪詞”に呑まれるまでの事よ?……でも、貴方は最後まで俺を選ばなかった……」
モードレッドは、自身の影から黒い刀を取り出してレックスに向けるとユミルが慌てて扉から離れて、モードレッドの腰にしがみつきモードレッドを止める。
「嬢ちゃんっ!?」
「ユミルっ……!?」
「二人とも、どうしたの!?なんで、こんな事になってるのさ!!」
「嬢ちゃんっ、レックスから離れなさいっ!!」
「モードレッドっ、ユミルをっ……!」
モードレッドは、ユミルを抱えてレックスから離れるとレックスの周りから黒い蝶々が飛び交っていて、レックスは頭を抱えて苦しそうにしていた。
「っ……、致し方ないわっ……」
モードレッドは、ユミルを抱えて家を出ていき急いで街を出ていくと同時にユミルは信じられない光景を見てしまう事になる。
それは、黒い手のようなものが無数に家から出て周りの建物や人々を飲み込んでいくのが見えたからである。
「……嬢ちゃん、覚えておきなさい」
「えっ?」
「これが、この“世界”の真実なのよ」
「“役割”を持って、“役割”を引き継がれたり“役割”を放棄すれば“呪詞”に呑まれる……」
モードレッドは、街から離れた場所に辿り着くと直ぐにやって来ると思われるレックスを倒すために、黒い刀を構え直しながらユミルを後ろに隠す。
(俺は、あたしは……何も“知らなかった”)
(確かに、“ユグドラ・テイルズ”は好きで何度も繰り返してプレイをしていた……)
(でも、どうもモードレッドのキャラのシナリオだけは出来なくて……今更、プレイをしていたならって……先に、知っていたなら……違った結果になったのだろうかと……)
ー《本当に、今更だな》ー
ー《変えたいか?父親を救いたいか?》ー
「救えるなら、変えたいよ」
「ユミル?」
視界は何かで塞がれたが、それは一瞬の出来事で瞳を開ければエミルが心配そうな表情で見つめていた。
「ユミル?大丈夫か?」
「お兄ちゃん……?」
ユミルは周りを見渡して、首を傾げていたが直ぐに分かったのはエミルが学園都市に行く一週間前だという事である。
「ううん、なんでもないよ?お兄ちゃん」
(どういう事なんだ?なんで、一週間前に戻っているんだ?)
(いや、考えるのは後にしようっ……モードレッドが、この街に居るって事なのは確かなんだっ……)
ユミルは昼御飯を食べてから、街へと出掛けると周りを見渡しながらモードレッドを捜していた。
モードレッドならば、何かしら知っているのは確かだからである。
(見つけて、教えて貰おう……この“世界”についてっ)
(あの時、“精霊獣の恩恵”と教えてくれた理由もっ……!!)
ユミルは路地裏へと入るモードレッドを見つけて、路地裏へと入りモードレッドの後を追いかけた。
「モードレッド、さんっ!!」
「!?……嬢ちゃんっ?なんで、此処に……」
「教えて!!……この“世界”について!“役割”について!!」
「なんで、それを……っ?」
「父さんを、助けたいからっ!!あたしに、出来ることあるなら……全部、教えてっ!!」
ユミルは強い眼差しで、目の前に居るモードレッドに対して見つめているとモードレッドは微かに微笑んでから、ユミルへと近寄りユミルを壁に押し付ける。
「……“時渡り”なんて、ヴィオラだけなのかと思ったけど……流石、あの二人の子供ね」
「モードレッド、さん?」
「…………いいわ、教えてあげるわ……この“世界”の事、“役割”の事……嬢ちゃんが、知りたい事を全部……教えてあげる」
「本当にっ!?」
「…………その代わり、嬢ちゃんが俺のモノになってくれるかしら?」
それは一つの希望であり、それは一つの絶望でもある“諸刃の剣”でもある。
それでも、これから起きる様々な事を阻止するためと世界に劇薬を与えるための足掻きなんだと知ることになる。
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