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新たな世界
第五話 ムッツリスケベ
しおりを挟む「おはようございます……」
「ああ、おはよう。どうしたニム、なんか元気なさそうに見えるが」
「いえ、ちょっと寝られなかっただけです……」
ニムの顔はげっそりというか、徹夜明けにありがちな顔をしていた。
「寝ていてもいいんだぞ? どのみちイチカも昼寝するだろうしな」
「大丈夫です、と言いたいですがもしかするとお言葉に甘えるかもしれません」
昨夜レームとご主人様の行為を見てからというもの、すっかり体が熱を帯びてしまい、結論だけ言うと一晩中オナニーをしていたのだ。
好奇心という熱に浮かされ、色々な方法、体勢で何度も絶頂していた。
(この下にあるんだよね。あれが……)
ニムはご主人様の股間を凝視する。今は服を着ているためその姿を見ることはないが、確実に存在するそれに心奪われていた。
だがニムはそれを言えない。ニムは比較的真面目であり、それが非常識だということを知っているからだ。
ましてやご主人様はどう見たってレームを溺愛している。そこに割り込むことが至難の業であることは明らかである。自分があのように淫らにふるまえる自信もなかった。
レームは同じホムンクルスのニムから見ても完ぺきに近い。憧れすら抱くほどであった。
しっかりと家事を行い、細かなことにも気配りがある。そして夜はあの献身ぶりである。
「ニム、ニム、本当に大丈夫か? エリクサーなら好きに使っていいんだぞ?」
どうやらぼーっとしてしまっていたようで、ご主人様がニムを心配そうに見ていた。
「ああ、違います。眠気ですかね、ちょっとぼーっとしちゃって」
「休んでいいぞ。というか休め。レームに言ってエリクサーを飲んでからな」
エリクサーは体の異常を治しはするが、疲れた精神をいやすような効果はない。
そのため、異常が精神から来ているようなものの場合さほど効果はないのだ。それでも脳に影響しているような場合は回復も期待できるが。
「すいません……まだ生まれたばかりなのに」
「気にするな。急ぎの用事もないし、ゆっくりと過ごせばいい。そういう生活なんだ、ここは」
レームはイチカと台所で家事をしていた。
おぼつかない手つきのイチカを手伝い、細かいところまでしっかりと教えている。
その姿は主婦といった様相で、母親はいないニムであるが恐らくはこういうのを母親というのだろう、となんとなく思った。
「あら、どうしたのニム。元気がなさそうね」
「ご主人様にも言われました……昨日ちょっと寝られなくて」
「じゃあこれを飲んで、しっかり休むのよ。そして、控えめにね」
レームは分かっている、と言わんばかりに悪戯っぽく笑う。
ニムは昨日覗いていたことがレームにバレている、ということに気付き、顔を赤くする。
イチカは何が起きているのかわかっていない顔をしていた。
(敵わないなぁ……まさかバレてるとは、演技上手すぎるよ、お姉さま)
ご主人様の反応からすると、気づいているのはレームだけのようだった。そして恐らくは言うつもりもないのだろうと思える。
もし知られるとニムが恥ずかしいことになるのがわかっているので、それの気遣いだろう。
優しいお姉さまでよかった、と胸を撫で下ろす。
部屋に戻ってベッドに横になる。
エリクサーを飲んだおかげか、体調は万全であった。
眠気もなく、やることもない。
その状態になると、忘れようとしていた昨夜の出来事がどうしても頭をよぎる。
(ダメダメダメ! また止まらなくなっちゃう!)
ニムは何回でも連続でできるタイプだった。イッているのに、またイッてしまう。指が自然に動き、体は貪欲に快楽を求めてしまう。
自分の体の構造に淫乱などは組み込まれていないのは知っている。従順、ただそれだけだった。
それなのに、まるで天然であるように、性欲が収まらない。
強い好奇心がさらなる快楽を求めてしまう。このままいけばいずれはご主人様を求めてしまうのでは、とニムは心配していた。
実際興味津々であり、機会があったら頼み込んでしまいそうだった。
だがそれはレームに対する裏切りであり、ニムはそれだけは避けたかった。
従順の範囲はレームも含まれており、従順の意味合いはニムの中だけに存在する。
ニムにとっては害さないこと、それが従順であり、ご主人様に言い寄るということはレームを害することだと認識しているのだ。
実際の所レームは怒らないどころか歓迎するだろうが、ニムはそれを知らないのだ。
だから一人で悶々としているのである。
天井を眺めぼーっとしていると、自然に股間に手が伸びる。
そしてそれに気づき、自分で戒めている。
「ダメだ。やっぱり下に戻ろう。ここにいたらまたしちゃいそう」
台所に戻り、家事を手伝うことにした。煩悩を解消するために、仕事に打ち込むことにしたのだ。
「ニム、もういいの?」
レームがにっこりと、柔らかな笑顔でそう言った。やっぱり敵いそうにない、ニムは思う。
「ええ、大丈夫ですお姉さま。だからあの事はその、秘密にしてくれると」
こっそりとレームに耳打ちする。イチカが気にしているようだが、とてもじゃないが言えない。
「勿論です。告げ口したりはしませんよ。聞かれてしまうと答えざるを得ないのですけど」
くっ、ニムはレームも従順だということを思い出す。何しろ自分たちは嘘をつけないのだ。せいぜいがごまかすくらいで、本気で問い詰められれば答えてしまう。
「大丈夫ですよ。ご主人様はそういう下世話なことはお聞きになりませんから」
レームの表情は本当にそう思っているようにしか見えない。
信じるしかない、ニムは信じてもいない神に祈りをささげる。
「そうだ、ご主人様が外にいるはずだからこれを持って行ってあげてくれないかしら」
ニムはレームの頼み事は特に抵抗なく聞くつもりだが、状況が状況なので脅されているように思える。
渡されたのは恐らくはつまみだろうと思われた。
つまりまた外で酒を飲んでいるということなのだろう。ニムはそう判断する。
「ご主人様ー? レームお姉さまがこれを」
「ああ、ありがとう。さっき頼んでおいたものだな」
「これ、なんです?」
「豆だ。前に買ってきたのをすっかり忘れていてな。まぁお菓子のようなものだ。食べてみるか?」
「いいんですか? なら一つだけ」
「おいしいですね……」
「そうなのか? 悪いな。実は俺も食べたことがないんだ」
「!? それじゃ毒見させたってことですかぁ!?」
「いやいや、普通に売っているものだから毒ではないのは分かってるんだが……味がわからんからな」
「ほとんど毒見じゃないですか! やっぱり!」
「ははは! すまん!」
酒が入って多少元気なのか、ご主人様はいつもよりも声のトーンが高い、とニムは思う。
最初の印象は何というか、暗いものだった。
心を開いていないというか、そういうものを感じたのだ。
だが今のご主人様は少し印象が違う、ニムはそう思った。
どちらが素なのか、まだ一日前後しか過ごしていないため判断はできないが、こっちが素ならいいのにな、とニムは口元を緩めた。
「そうだ、昨日言ってたし、お前も飲んでみるか?」
そう言ってグラスを差し出す。
ご主人様が口をつけたグラス、そう思うと少し緊張した。
恐る恐る、ちょびっとだけ口をつける。
「……いけますね」
喉を通る感覚は熱いが、味はニム好みのものだった。
「お前はいける方なのかもしれんな。レームはそれくらい飲んだらもう酔っていたから」
「グラスを持ってくるんだ。一緒に飲もう」
ニムがグラスを持ってくると、魔術を使い氷をそれに入れてくれた。
「乾杯」
そういうとご主人様はグッと一気に飲み干した。
その姿に男を感じ、ニムは少しだけドキッとする。
ご主人様は少しだけ幸せそうに見えた。
海を眺めている表情は何ともすがすがしいというか、そういう表情だった。
この人はどういう人なのだろうか、ニムはそう思うが、聞きはしない。聞いてはいけないような、そんな気がした。好奇心を遮るほどに。
さっきまでずっと悶々としていた性欲はどこかに消え、ご主人様ともっと話してみたいとニムは思う。
「ご主人様、どうしてこの島に? 街とか、人が住むなら色々な所があると思うんですけど……」
疑問の一つだ。なぜこんなところに、と創造された時から思っていた。
「ああ、それはだな……こういう時にする話じゃないな、今度ゆっくりしよう」
一瞬だけ、一瞬だけ表情が陰ったのをニムは見逃さなかった。
この話題は聞かない方がいいものだったか、と少し後悔する。
「すいません、言いにくいことだったんですね……」
「いや、いいんだ。というより当然の疑問だな。普通の人間はこういうところに住まないから」
「ここは安全だからだ。お前たち三人が危険な目に合わないように、こういうところにいるのがいいんだ。だが今度街にも連れてってやるからな」
柔らかな笑顔がニムに向けられて、少しだけドキッとする。
そして言外の意味に気付き、ハッとする。
ああ、そうなんだ。自分が住みたいんじゃなくて、わたしたちのためにここにいるんだ。
きっと多分、レームお姉さまはこの人のこういうところが好きなんだろうな、とニムは思う。
この人はそういう表現が苦手で、だからなんとなく暗い印象なんだ。
でもちゃんと考えてくれてる。苦手なりにでも、それを教えてくれる。
わたしも好きになれそうな気がする。ニムは口元を軽く緩めた。
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