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しおりを挟むバイト先のコンビニで、私はため息をついた。
「どうした?」
高い位置から声がした。
見上げると、隣に同じくバイトの高塚さんがいた。
彼は、有名私立大学の大学4年生だ。
深刻そうでない、軽い口調がなんだか話しやすくて、バイトでしか会わないのに、弱音も文句もつい話してしまう。
「就活です。」
私は本当のことは少しだけ隠した。
「就活きついよなぁ、でも、もう決まりそうなんだろ?」
「まあ、そうなんですけど。」
「合否結果でるまでは、そりゃ不安か。」
高塚さんはストレートの黒い髪の頭を掻いた。
高塚さんは、もう既に大手の企業に内定が決まっている。
今まで実家暮らしだったが、春から一人暮らしを始めるらしい。
今月で長く続けていたこのバイトも辞めるらしい。
「俺の彼女もさ、未だに決まってなくて、情緒不安定になってるけど、なんとかやってるし。だから、万が一、城山ちゃんも今決まんなくても全然大丈夫だと思うよ。」
そう言って高塚さんは、私を励まそうとしてくれた。
さらっと出てくる彼女という言葉に、私は何も反応しないように気をつけた。
彼女さんは、「みこと」さんという同じ学年の方、浪人したから歳は一つ上の人らしい。
みことさんの束縛が厳しいとか、結構ふりまわされがちみたいな、よく愚痴を聞いているのだが、1年半ほど付き合っているのなら、うまくいっているのでは、と思う。
「そうだといいんですけどね。」
「すぐネガティブなるじゃん。面接うまくいったんでしょ?」
「うまくいったと思うんですけど・・・。」
「なら大丈夫だって。不安なのは仕方ないけど、城山ちゃん見てると心配になるわー。」
そういうと高塚さんはいつも通りの明るい笑顔で、私を少しいじる。
この人は、裏表のない人だ。
高校でこのバイトを始めたときから、高塚さんはいた。
仕事を教えてくれたのもこの人。
私が何度やっても覚えれなかったことも、根気強く教えてくれた。
近寄ると温かくなる、からっと晴れた日のお日様みたいな人だ。
でも、直視すると、目を悪くしてしまう。
そういう人だ。
「逆に、高塚さんは病まないんですか。」
「どうだろ。あんま深く考えないしなあ。大学受験落ちた時は落ち込んだけど、病むってほどでもないし。就活も、軽く考えてたしなぁ。」
私と住む世界が違う人だ。
「羨ましい。」
私の本心だ。
「え?俺が?」
「はい。」
「そうか?まぁ、ありがとう・・・なのかな?」
そう言って高塚さんは首を少し傾げた。
が、すぐに私と同い年か、ちょっと上くらいの年のギャルたちが高塚さんの方のレジに向かったので、高塚さんは接客モードに入った。
「お兄さん、めっちゃイケメンですね!」
「そうかな・・・ありがとうございます。」
高塚さんは、あのギャルたちがいうようにイケメンだと思う。
でも、高塚さんは全く自覚がない。
そして、ああいうノリにも全然動じずにいれる、高校では陽キャに分類されるだろう人。
ギャルたちも、私が見えないみたいに、わざわざ遠い方のレジの近くにいた高塚さんの方に行った。
そういうところ。
高塚さんの取り巻く環境を見るたびに、また心が暗くなる。
でも、高塚さんのことが好きなのはなぜだろう。
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