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第15話 先進過ぎるぞ、ダイニッポン帝国
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俺はダイニッポン帝国に入国してすぐ、海沿いに建造された大きな建物へと降りていく。
その建物は変わった構造をしている。
中央は壁で隔離された海水と6隻の小さな船が浮かぶ。その周りに大人数が座れそうな椅子を数多く設置。椅子に座った者たちが中央の船を見物できるような構造になっているのだ。
「あの船を見てどうするんだろ?」
俺は地上に降り立ち、船を見ながら、ここが何をするところか考える。
周りを壁に囲まれて、船は外には出られない。なら漁業では無いな。
見物人が大勢いるが、何か見せ物だろうか?
俺は顎に手を当て、ずっと考えていた。
すると近くにいた年老いた男から声をかけられる。
「なんや兄ちゃん、競艇知らんのか?」
「競艇?」
「競艇ってのはな、ってもうレース始まるやんけ! ちょい待ちな、兄ちゃん」
「レース?」
男はレースに集中したいと言って、俺から視線を外し、中央の船に目をやっていた。
レースって言ってだけど、何だそれ?
俺もとりあえず男が言うそのレースってのを見てみることにした。
船は中央から順に白、黒、赤、青、黄、そして緑のカラーリング。船の側面には白から緑にかけて1から6の番号が書かれている。
ラッパのような音が建物内で鳴り響き、6隻の小さな船はゆっくりと動き出す。
そしてある位置まで来ると、ピタッと船は止まる。
「何が始まるんだ?」
「いいから見とき。ほら、動いたで!」
「!?」
6隻の船は一斉に動き出す。
激しい音を立てて真っ直ぐに水面を走る。
俺が今まで見たこと無いような凄まじい速さでだ。
「めちゃくちゃ速いな、あの船!? ……っておい。 あのスピードじゃ、壁にぶつかるぞ!」
俺の見たカンジ、今水面を走っている船のスピードは時速100kmを超えている。
あんなスピードで突っ込んで何するんだ!
危ない!!
俺は船に乗る6人が心配になり、『吹き荒れる風』で進行方向にある壁の前に風のクッションを作り出す。
これで大丈夫だろうと思っていると、6隻の船はありえない動きを見せる。
「お、おお、おい、マジかよ!」
「行けー、3番! 抜けーーー!!」
時速100kmは出てたスピードを少しだけ落とし、そのまま180度ターン。
6隻の船はそのまま次のストレートを走り、またありえない曲がり方をする。
あんな乗り物見たことないぞ!
すげえ……すげえぇカッケー!!
俺は見たことない高スペックな船を見て興奮。
「だークソッ、外しちまったぜ!」
さっき話しかけて来た男は怒りながら紙切れを空に向かって投げていた。
俺は船が止まるのを見てレースが終わったと判断し、男に競艇とは何かを聞くことにした。
男は競艇という競技について教えてくれた。
競艇とはモーターを積んだ6隻の小さな船で1周600mの水面を3周する競技であり、その勝敗を客が予想して金を賭ける、いわゆるギャンブルの1つらしいのだ。
「競艇……すげーな!」
「お、兄ちゃんも競艇の楽しさが分かるか!」
男は俺が競艇に興味を持ったと思っているようだ。
まぁ、間違っては無い。実際賭けてみたいなとは思ったよ。
でもそれ以上に驚いたのは、あんなスピードで動ける乗り物なんて見たことが無いのだ。
流石は超先進国ダイニッポン帝国。
遊び1つ見ても他の国とは比べ物にならない。
俺が競艇に目を輝かせていると、さっきの男とは違う、また別の男が声をかけてくる。
「トールくん。私に用があって来たのでは? 最初に来る場所がここですか」
「……あ、あ、あなたは!?」
船を見てたところから声のする方へ振り向いて見ると、そこには腰の引けてオドオドする競艇大好き男と、周りにいる客と比べてかけ離れて綺麗な格好をした、50代のイケおじが立っていた。
長い黒髪に、整った顔立ち、パッチリとした黒い瞳に黄褐色の肌。
ダイニッポン帝国特有の服装『着物』を着る長身の色男。
こんなとこまで足を運んでくれたのか。
おじさんが腰抜かすのも無理ないな。
だって俺の目の前にいるのはダイニッポン帝国の王、セイシロウ・リトル・スプリングなのだから。
「おっ、セイシロウさん。お久しぶりです」
「おっ、じゃないだろ。前もって連絡も無しで、急に来たらビックリするじゃないか。入国したって聞いたから慌てて来てみれば競艇場って。トールくん、王様なんだからちゃんと立場を考えてね」
顔合わせた途端、いきなり説教をされてしまった。
毎度会う度に思うが、このおじさんは口うるさい。王とはこうあるべきだって俺は何回言われたことか。
でも普段から世話になってるセイシロウには頭が上がらない。
世界安全支配機構が成り立ってるのは、実のところ、この人が出資してくれているからなのである。
俺はとりあえず謝り、そして今回ここに来た用件を話すことにする。
セイシロウは場所を変えて話そうと思ったが、せっかくここまで来たのだから1つトールとゲームをしてみようと考えた。
「トールくん。賭けをしませんか? 用件が何かはまだ聞いてませんが、トールくんがもし勝ったら無条件で話を聞くことにしましょう」
セイシロウからいきなりの提案。
「賭けの内容は?」
「もちろん、競艇ですよ」
やっぱりか。ついさっき王様ならどうとか言ってたクセに、アンタもやるんかい!
でもその賭けは俺も願ったりだ。無償で飛行船の手配をしてくれるならそりゃ助かる。
あっ、でも賭けってことは。
「俺が負けたら?」
セイシロウに問う。
俺が負けた場合のことをちゃんと聞いておかないと。じゃないと後から大金寄越せとか王様辞めろとか言われても困るしな。
セイシロウは答える。
「トールくんが負けたら1つおつかいを頼みたいんですよね。私が直接行きたいんですけど、最近忙しくて」
「おつかいって、買い物ですか?」
「……」
ニッコリ笑顔のセイシロウ。
俺はそれを見てそんな条件の賭けなら飲むしかないと考えた。
「全然大丈夫です。競艇勝負、やりましょう!」
俺は入国して早々に、ダイニッポン帝国の王、セイシロウとまさかの競艇対決を行う運びとなるのだった。
その建物は変わった構造をしている。
中央は壁で隔離された海水と6隻の小さな船が浮かぶ。その周りに大人数が座れそうな椅子を数多く設置。椅子に座った者たちが中央の船を見物できるような構造になっているのだ。
「あの船を見てどうするんだろ?」
俺は地上に降り立ち、船を見ながら、ここが何をするところか考える。
周りを壁に囲まれて、船は外には出られない。なら漁業では無いな。
見物人が大勢いるが、何か見せ物だろうか?
俺は顎に手を当て、ずっと考えていた。
すると近くにいた年老いた男から声をかけられる。
「なんや兄ちゃん、競艇知らんのか?」
「競艇?」
「競艇ってのはな、ってもうレース始まるやんけ! ちょい待ちな、兄ちゃん」
「レース?」
男はレースに集中したいと言って、俺から視線を外し、中央の船に目をやっていた。
レースって言ってだけど、何だそれ?
俺もとりあえず男が言うそのレースってのを見てみることにした。
船は中央から順に白、黒、赤、青、黄、そして緑のカラーリング。船の側面には白から緑にかけて1から6の番号が書かれている。
ラッパのような音が建物内で鳴り響き、6隻の小さな船はゆっくりと動き出す。
そしてある位置まで来ると、ピタッと船は止まる。
「何が始まるんだ?」
「いいから見とき。ほら、動いたで!」
「!?」
6隻の船は一斉に動き出す。
激しい音を立てて真っ直ぐに水面を走る。
俺が今まで見たこと無いような凄まじい速さでだ。
「めちゃくちゃ速いな、あの船!? ……っておい。 あのスピードじゃ、壁にぶつかるぞ!」
俺の見たカンジ、今水面を走っている船のスピードは時速100kmを超えている。
あんなスピードで突っ込んで何するんだ!
危ない!!
俺は船に乗る6人が心配になり、『吹き荒れる風』で進行方向にある壁の前に風のクッションを作り出す。
これで大丈夫だろうと思っていると、6隻の船はありえない動きを見せる。
「お、おお、おい、マジかよ!」
「行けー、3番! 抜けーーー!!」
時速100kmは出てたスピードを少しだけ落とし、そのまま180度ターン。
6隻の船はそのまま次のストレートを走り、またありえない曲がり方をする。
あんな乗り物見たことないぞ!
すげえ……すげえぇカッケー!!
俺は見たことない高スペックな船を見て興奮。
「だークソッ、外しちまったぜ!」
さっき話しかけて来た男は怒りながら紙切れを空に向かって投げていた。
俺は船が止まるのを見てレースが終わったと判断し、男に競艇とは何かを聞くことにした。
男は競艇という競技について教えてくれた。
競艇とはモーターを積んだ6隻の小さな船で1周600mの水面を3周する競技であり、その勝敗を客が予想して金を賭ける、いわゆるギャンブルの1つらしいのだ。
「競艇……すげーな!」
「お、兄ちゃんも競艇の楽しさが分かるか!」
男は俺が競艇に興味を持ったと思っているようだ。
まぁ、間違っては無い。実際賭けてみたいなとは思ったよ。
でもそれ以上に驚いたのは、あんなスピードで動ける乗り物なんて見たことが無いのだ。
流石は超先進国ダイニッポン帝国。
遊び1つ見ても他の国とは比べ物にならない。
俺が競艇に目を輝かせていると、さっきの男とは違う、また別の男が声をかけてくる。
「トールくん。私に用があって来たのでは? 最初に来る場所がここですか」
「……あ、あ、あなたは!?」
船を見てたところから声のする方へ振り向いて見ると、そこには腰の引けてオドオドする競艇大好き男と、周りにいる客と比べてかけ離れて綺麗な格好をした、50代のイケおじが立っていた。
長い黒髪に、整った顔立ち、パッチリとした黒い瞳に黄褐色の肌。
ダイニッポン帝国特有の服装『着物』を着る長身の色男。
こんなとこまで足を運んでくれたのか。
おじさんが腰抜かすのも無理ないな。
だって俺の目の前にいるのはダイニッポン帝国の王、セイシロウ・リトル・スプリングなのだから。
「おっ、セイシロウさん。お久しぶりです」
「おっ、じゃないだろ。前もって連絡も無しで、急に来たらビックリするじゃないか。入国したって聞いたから慌てて来てみれば競艇場って。トールくん、王様なんだからちゃんと立場を考えてね」
顔合わせた途端、いきなり説教をされてしまった。
毎度会う度に思うが、このおじさんは口うるさい。王とはこうあるべきだって俺は何回言われたことか。
でも普段から世話になってるセイシロウには頭が上がらない。
世界安全支配機構が成り立ってるのは、実のところ、この人が出資してくれているからなのである。
俺はとりあえず謝り、そして今回ここに来た用件を話すことにする。
セイシロウは場所を変えて話そうと思ったが、せっかくここまで来たのだから1つトールとゲームをしてみようと考えた。
「トールくん。賭けをしませんか? 用件が何かはまだ聞いてませんが、トールくんがもし勝ったら無条件で話を聞くことにしましょう」
セイシロウからいきなりの提案。
「賭けの内容は?」
「もちろん、競艇ですよ」
やっぱりか。ついさっき王様ならどうとか言ってたクセに、アンタもやるんかい!
でもその賭けは俺も願ったりだ。無償で飛行船の手配をしてくれるならそりゃ助かる。
あっ、でも賭けってことは。
「俺が負けたら?」
セイシロウに問う。
俺が負けた場合のことをちゃんと聞いておかないと。じゃないと後から大金寄越せとか王様辞めろとか言われても困るしな。
セイシロウは答える。
「トールくんが負けたら1つおつかいを頼みたいんですよね。私が直接行きたいんですけど、最近忙しくて」
「おつかいって、買い物ですか?」
「……」
ニッコリ笑顔のセイシロウ。
俺はそれを見てそんな条件の賭けなら飲むしかないと考えた。
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