転生したら、まさかの脇役モブでした ~能力値ゼロからの成り上がり、世界を覆すは俺の役目?~

水無月いい人(minazuki)

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第七章:勇者の故郷『エルムリア』

第七十九話:王城へのカチコミ

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「時間がねぇ。俺は先に行ってる。兄ちゃんと嬢ちゃんはどうにかしてリアムを拾って、ここから去れ」

ナナシの言葉と共に、彼の姿は瞬く間に部屋から掻き消えた。いつものように、何の予兆もなく。

「おい!まだ話は終わって──」

俺は慌てて声を上げたが、ナナシの姿は既にどこにもない。再び、俺とセレナの二人だけが残された。ナナシの突然の行動と、残された途方もない指示に、俺は呆然とするしかなかった。

「……どうしますか、アルス様」

セレナの冷静な声が、俺を現実へと引き戻す。ナナシの言葉を信じるならば、王都の国王はナナシすら及ばない強大な存在。

そこに乗り込み、リアムを奪還するなど、無謀としか言いようがない。

「仕方ない。魔王を拾って、あいつの言う通りに……」

俺は重い口調で呟いた。しかし、俺の心には拭い切れない疑問が残っていた。

ナナシがこの国にリアムを連れてきたこと。自分で連れてきておいて、今度は一緒に去れと言う。その行動の真意が、俺には全く理解できない。

王都の真夜中、沈黙が部屋を支配している。窓の外には、王城の巨大なシルエットが、闇に溶け込むように浮かんでいた。

あの場所に、リアムが捕らえられている。そして、あのジジイがいる。

王都にいるのに、心が全然落ち着かない。 
俺はここが、以前居た王都と同じ場所とは感じられ無くなっていた。

「……アルス様?」

セレナの優しい声に、俺はハッとした。そして、一つの考えが頭をよぎった。自分だけが危険な目に遭うのは避けたい。ならば、せめてセレナだけでも逃がすべきではないか。

「なぁセレナ。……お前とリアムだけ逃げ──」

俺の言葉を、セレナはきっぱりと遮った。その返答は、驚くほど早かった。

「嫌です」

「……早いな」

セレナは、俺の思考を見透かすかのように、小さく微笑んだ。

「アルス様の考えていることは大体分かります。ナナシ様と残るのでしょう?」

俺は何も言い返せない。セレナの言う通りだった。ナナシの真意を確かめたい。そして、この世界の謎を、王家の秘密を暴きたい。

その欲求が、俺の中に強く渦巻いている。

「……」

俺の沈黙を肯定と受け取ったかのように、セレナは続ける。

「やっぱり。なら私も行きます」

その揺るぎない決意に、俺は戸惑いを隠せない。相手は、ナナシすら敵わない強大な王家の力を持つ国王なのだ。

「けど、相手は王家だ。俺たちじゃ歯が立たねぇ」

俺の不安に対し、セレナは意外な言葉を口にした。

「そうでもないかもしれません。私に案があります」

セレナの表情には、自信と、どこか不気味な笑みが浮かんでいた。その言葉に、俺の背筋に冷たいものが走る。

「なんか怖いんだけど」

俺の本音に、セレナはさらに笑顔を深めた。

「大丈夫です。アルス様が少し傷付けば、必ずヒーローはやって来ます」

ヒーロー?何言ってんだセレナのやつ。そんな都合の良い存在が、この絶望的な状況で現れるとでも言うのか。

俺は、セレナの突飛な発言に、困惑するしかなかった。

「行くなら墓場まで一緒です」

その言葉は、セレナの俺への絶対的な忠誠と、途方もない覚悟を示していた。だが、その表現は、俺にとってあまりにも不気味だった。

「怖いこと言うなよ……」

「アルス様が命を落とされたなら、祈りを捧げた後、私もすぐにそちらに向かいます」

「だから怖いって!」

セレナの言葉は、まるで愛の告白のようであり、同時に凄まじい執着を感じさせた。

俺は、その言葉に寒気を感じながらも、セレナの揺るぎない覚悟を理解した。

俺の困惑と焦りをよそに、セレナはにこやかに笑う。

「……そうならないよう立ち回りましょうってことですよ?」

その笑顔が怖い……。俺は内心で呟いた。セレナの恐ろしいほどの決意と、どこか冷徹な計算高さが同居した笑顔は、俺にとって理解の範疇を超えていた。

だが、彼女が自分と共にいるという事実だけが、俺の心を奮い立たせる。

そして彼女もまた俺のことを想っての事だ。

「はぁ……分かった。なら行くか。王の城にカチコミに」

俺は、観念したように息を吐き、覚悟を決めた。王都の王城へ乗り込む。

それは、死地に飛び込むようなものだが、俺にはセレナが居る。

更に言えば、何を考えているか分からない男、ナナシという奇妙な仲間がいれば、もしかしたら活路が見出せるのかもしれない。

あの男なら何か……それが俺の希望となっていた。

「はい行きましょう!……ところでカチコミとはなんですか?」

セレナの声には、俺の力強い決意に応えるような響きがあった。

しかし、聞き慣れない言葉に、セレナはわずかに疑問を浮かべる。俺は、そんなセレナの可愛らしい反応に、少しだけ心が軽くなるのを感じた。

そして今夜、物語は大きく動き出す──。
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