攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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新章 第二幕 【NEO: Divergence】

Re:第二十一話「集う者達」

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──暗く深い森の中。  
重たい沈黙が支配するその場に、ただ二人だけがいた。

紅蓮と──ルクス・カエデ。

「……ルクスとか言ったな。俺様のアリスを知らねぇか?」

低く、だが切実な声だった。  
紅蓮にとって、それはただの問いではない。  
どこか焦りと、執着が滲むような、そんな叫びにも似た問いだった。

「…………アリス、ですか。ええ、知っていますよ」

淡々とした返事。  
まるで感情のない人形のように、ルクスは答える。

紅蓮は無意識に唾を飲んだ。  
この女──いや、"何か"は、ただ者ではない。  
目の前の存在が纏う雰囲気が、彼の野生の勘に訴えかけてくる。

(……こいつ、普通じゃねぇ)

「教えてくれ!あいつは今どこにいるんだ!?俺様の未来の恋人候補なんだ!」

少し焦り気味に、紅蓮は食いついた。  
だが──

「どこにいるかまでは分かりません。  
もう……関係ありませんので」

淡々と返すルクス。  
その表情に、哀愁も後悔も、ただの一欠片もない。

「……それはどういう意味だ」

(まさか、何かあったのか……)

紅蓮の胸に嫌な予感が広がる。

「心配ですか?」

ルクスは、ふと薄く笑った。

「大丈夫。彼女は生きていますよ。  
今頃“お兄様”とやらを探していることでしょう」

「お兄様……?」

その単語に、紅蓮は眉をひそめる。  
その呼び名に聞き覚えはない。  
いや、それどころか、妙な不穏さを孕んでいる。

(誰だ……そのお兄様ってのは)

剣を握る手に力が入る。

「なぁ……お前、人間なのか?」

疑念がそのまま言葉となって口をついて出る。

「……我が、人間に見えないと?」

「当たり前だ。お前の体からは……瘴気が出てる。  
それも、今まで見たこともないぐらいドス黒い……」

ルクスはわずかに微笑んだだけだった。

「目の錯覚でしょう。我は……人間ですよ」

──嘘だ。  
紅蓮は確信する。  
この女は、完全に人間ではない。  
言葉では言い表せない“違和感”が、全身を覆っていた。

「……まぁいい。アリスのことを知らねぇなら関係ねぇ。  
俺様はアリスを探しに行く。それだけだ」

そう吐き捨てるように言い、背を向けようとしたその時──

「……あなたは、あの人の孫ですね。ゲン・バルカンの」

その名前が、紅蓮の耳に届いた瞬間。

「──っ!?」

彼は即座に反応した。  
全身を突き刺すような戦慄が走る。

「な、なんでジジイの名前を……知ってやがる」

ルクスは、微笑みを浮かべる。

「やはり。……ただの勘でしたが、当たりました」

「ふざけんな。あの名は俺しか知らねぇはずだ」

「見てきたのです。  
この世界ではありませんが──彼は、我の前に何度も現れました。  
我を、“存在してはならないもの”として──」

静かに、だが確かに。  
ルクスはそう語った。

「彼は、しつこかった。  
諦めの悪い──厄介なお爺様でしたよ、あなたの祖父は」

紅蓮は拳を握り締める。  
怒りか、あるいは悲しみか……複雑な感情が胸の内を駆け巡っていた。

だが──

(……この世界のことじゃねぇなら関係ない)

思い直し、紅蓮は剣を収めた。

「俺はアリスを探す。話は終わりだ」

「……ええ。さようなら」

その場を離れようとした紅蓮に、ルクスはわずかに冷えた目を向ける。

「紅蓮、ですか。  
いずれ殺しましょう。……ですが今ではない」

その呟きは、あまりにも静かだった。

「我の目的は……お兄ちゃんですから」

ルクスは、夜空を見上げ、微笑んだ。

「ふふっ……そう。  
カエデは“お兄ちゃん”に褒めてもらうの。  
大好きだったお兄ちゃんに」

その声は、幼子のような無邪気さと、底なしの狂気を併せ持っていた。

「──だから、待っててね。お兄ちゃん」

夜の静寂を打ち破るように、狂気の笑い声が響く。

「あはははははははははははははははは!」

その時──

「そんなに俺に会いたかったか、ルクス」

静かに、青年の声が闇を裂いた。

その声に、狂気の笑いがピタリと止まる。

「……誰」

ルクスは表情を消し、冷たく問い返す。  
だが、その声にはわずかに震えが混じっていた。  
予想外の来訪者に、彼女の中の感情が静かに揺れる。

──闇の中から姿を現した三人。

「アスフィ・シーネット」

「レイラ・セレスティア」

「エルザ・スタイリッシュ」

順に名乗る彼ら。  
その立ち姿は、迷いのない意志を体現しているかのように見えた。

「……さぁ、ルクス。  
おいたの時間は終わりだ」

アスフィが静かに宣言する。  
その言葉は、まるで運命を告げる鐘の音のように。

「うん。レイラ達が止めに来た」

レイラは剣を構え、穏やかに、だが確固たる覚悟を持ってそう続けた。

「うむ。待たせたな、ルクス」

エルザもまた、穏やかな笑みを浮かべ、そう言葉を重ねる。

だが──

「……違う」

ルクスの声が低く震える。

「違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!」

次の瞬間、空が裂けた。

雷撃が天より降り注ぎ、咄嗟に三人は散開する。

「おいおい……  
しばらく見ねぇうちに、随分変わっちまったな。ルクス」

アスフィが軽口を叩くが、その声はどこか張り詰めている。

「その髪色……かっこいいじゃねぇか」

「アスフィよ、今はそんなことを言っている場合ではないだろう」

エルザが呆れたようにツッコむ。

「黙って、エルザ。アスフィの言葉は正しい。ルクスは、かっこいい」

レイラの肯定に、エルザは思わず天を仰いだ。

「……レイラ、お前はアスフィの事なら何でも肯定するのか」

「うん。死ねって言われたら死ぬよ?ね、アスフィ?」

「……いや、絶対そんなこと言わないから」

アスフィが真顔で返す。  
しかし、ルクスの表情は既に限界だった。

「……」

沈黙の中で、ただ怒りと悲しみだけが増していく。

「……おいおい、無視は悲しいぜ?」

アスフィの冗談も、今のルクスには届かない。

「伏せろアスフィ!」

エルザの叫びと共に、光線が放たれた。

一瞬の差で、魔の兵が庇い、アスフィは九死に一生を得た。

「……助かった。魔王エルザよ」

「ふっ、気にするな」

「……これってどっちに感謝すればいい?エルザか、その兵か」

「私に決まっているだろう!」

「…………レイラが止める。ルクスとは因縁があるから」

レイラが一歩前へ出る。

「待て、レイラ!」

アスフィの制止も虚しく、彼女は静かに言い放つ。

「大丈夫。私は怒っているから。  
アスフィを二度も傷つけた──レイラはルクスを許さない」

その瞳には、剣聖としての誇りではなく、ただ一人の女としての怒りが宿っていた。

「……ミスタリス」

その言葉を口にした瞬間、場の空気が変わる。

かつて、崩壊の象徴であった場所。  
その記憶が、全員の胸に重くのしかかった。

「……レイラ。  
その分からず屋の目を覚ましてやれ」

「……レイラ今、アスフィの為ならもう一度くらい死んでもいいと思った」

「……いや、それは冗談にならないからやめろ」

「気に食わない……」

ルクスの声が、低く冷え切ったものへと変わる。

「我に勝てると思っているその考え……不愉快です」

彼女は杖を掲げ、天に向かって呟く。

「《落ちろ》」

その瞬間、世界が変わった。

凄まじい轟音と共に、森が消え去る。  
ただの雷ではない。存在そのものを消し飛ばすような、破壊の力だった。

「っ……!」

三人は全力で回避し、かろうじて直撃だけは避けた。

だが──

(これは……本当にルクスか?)

アスフィは、心の底からそう思った。

かつての優しき少女の面影は、もうどこにもない。

「……ルクス、お前……」

そう呟くアスフィに、ルクスはただ微笑んだ。

「さぁ……踊りましょう?皆さん」

その声は、底知れぬ愛と狂気に満ちていた。

──この一言が戦いの幕開けを告げていた。
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