攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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新章 第二幕 【NEO: Divergence】

Re:第二十話「雷神」

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──彼女の名は、ルクス・カエデ。

その存在は、かつて「あらゆる魔法を扱える才能を持つ」と言われた少女の成れの果て。

制御を逸した力はもはや“天災”とすら呼ぶべきもので、そこに以前のような面影はなく、あるのはただ、狂気のままに焼き尽くす雷の奔流だけ。

地に倒れたのは、かつての龍神・ハク。  
そして、少年アスフィ・シーネット。  

二人を焦がしたその力を前に、ただ一人、立っていた者がいる。

「……あなたは本当に、狂気・・じみている……ルクス。  
あなたが今、守りたいものは……なんですか。彼ではなかったのですか……」

──そう問いかけたのは、エーシルだった。

呻くような声。だが、その目は真っ直ぐに、彼女を見据えていた。

「……我の求めていた者ではなかった。ただそれだけです」

淡々と、冷たく。

その声からは、かつての“ルクス”を思わせる温度は微塵も感じられなかった。

「そうですか……」

エーシルは静かに目を閉じる。  
そして、ゆっくりと呟く。

「……私が見てきた世界のあなたは、どこまでも“お人好し”でした。  
それが、私は怖かった。  
人間である限り、誰もが欲を持つ。今のあなたにはそれがない。  
アスフィが好き?愛している?……違う。  
あなたが本当に彼を愛しているのなら──」

「……黙れ」

その一言とともに、落ちたのは雷──。

稲妻の閃光がエーシルへと走った。だが──

「《反射魔法リフレクション》」

彼女の前に展開された魔法障壁がそれを弾き返す。

「……忘れていましたね。我としたことが。  
あなたには“それ”がありました」

「ええ。ですから私は、あなたとの“戦闘”を避けたいのです……」

エーシルはすっと構えを解き、倒れた二人に歩み寄る。

「──その二人は、生きていますか?」

「……生きていますよ」

淡々とした返答。だが、その声に熱はなかった。

身体に纏う雷の鎧を揺らしながら、ルクスはじっと見下ろしている。

「そうですか。では──私たちは、これで失礼します」

黒焦げとなったアスフィとハクを、エーシルは両腕に抱え上げる。

その背を向けた瞬間。

──雷鳴が轟く。

「っ──!」

避ける暇などなかった。

眩い光が、夜の闇を切り裂くように襲い──  
エーシルの胸を、容赦なく貫いた。

「……かはっ……!」

背後から、雷砲が放たれていた。

その中心に立っていたのは──  
白と黒、相反する色が左右に分かれた髪を靡かせる少女。

彼女が手に持つ杖には、未だ雷光が残っていた。

「……やっぱり。信用できません。  
我は、あなたが嫌い・・・ですから」

胸元を貫かれたまま、エーシルはふらつきながら、それでも最後まで笑っていた。

「…………全く。拾いものなんて……私らしくないこと、するものじゃない……ですねぇ。  
あとは──託しましたよ……」

──アスフィ。フィー。  

その名を最後に、彼は崩れるように倒れ込んだ。

静かに、二人を抱えたまま──。

「……道化エーシル。あなたも、馬鹿な人ですね」

ルクスは誰にともなく、そう呟く。

そして、ひとつだけ──小さく、口元に笑みを浮かべた。

「でも、それは……我も同じ、ですね。お兄ちゃん・・・・・・

彼女は背を向け、ゆっくりとその場を後にした。

──雷の少女は、誰のものでもなかった。

だが、彼女がただひとり“望んだ”存在だけは、確かにあったのだ。

* * *

同時刻。世界のどこか。

赤髪に眼帯をした青年が、ぼやきながら歩いていた。

「ちっ……俺様のアリスはどこ行っちまったんだ……」

空を仰ぎ、唸るように言葉を吐く。

「惚れた女がいねぇのは、つれぇよな……  
ってか、目ぇ覚ましたらこんな意味わかんねぇ場所だしよ……  
あの観測者とかいう奴、結局何者だよ……」

吐き捨てるように言いながら、青年──紅蓮は足を止める。

「……あのジジイなら、なんか知ってるかもな。  
ちっ、久しぶりに顔出してみるか。  
じゃねぇと、状況がまるで掴めねぇ」

(……観測者。あいつだけは、俺様の本能が“危ねぇ”って言ってる)

その時だった。

空気が、変わった。

「っ──!?」

目を焼くような閃光が突如として飛来する。

それは雷。けれど、ただの雷ではなかった。  
魔力が混ざり、意志を持ったような“砲撃”だった。

紅蓮は即座に剣を抜き──切り伏せた。

「……あぶねぇ。なんだ今のは……」

剣を握る手に、雷が纏わりつく。  
まるで焼き印のように、剣身を這う。

「離れろ……このっ!」

「無駄です」

声がした。

少女──  
左右で色の違う髪。白と黒が半々に割れた、異形の髪色。

その瞳は、何も映さず、ただ静かに彼を見ていた。

「今のはお前の仕業か」

「はい。我です」

「……誰だ。名乗れ」

「我は……ルクス。何者でもないです」

「……ふざけてんのかよ」

紅蓮は剣を構えながら、一歩後ずさる。

(……なんだこの女。全く感情が読めねぇ……  
さっきの一撃だけで分かった。こいつに手を出しちゃいけねぇ)

紅蓮の本能が、初めて“逃げろ”と叫んでいた──。
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