攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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新章 第三幕【NEO: Crossing】

Re:第三十八話『不死の病』

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 「……エーシル、生きていましたか」

 ルクスの問いに、仮面の男──エーシルはゆっくりと頷いた。

「ええ、おかげさまで。あの時は流石に終わりかと……貫かれ、罵られ、恨まれ、刺された。いやぁ、なかなか充実した最期でしたよ」

 ヒビの入った仮面の奥から、いつもの嗤い声が漏れる。

 だが、その嗤いにかつての余裕はなかった。どこか乾ききった、虚ろな音。

「あなたはアスフィのような回復魔法は使えないはず」

 ルクスの問いは、淡々としたものだった。警戒も、怒りもない。けれど、その視線は鋭く、問いを逃がすことはなかった。

「……その通り。ある者に“施された”。まったく、皮肉な話ですネェ……」

 仮面の男はゆるやかに肩をすくめ、雷に拘束されながらも、アスフィ・シーネットへと目を向ける。

「まさか、ここまでとは思いませんでしたよ……“アスフィ”」

「想定内ですよ」

 ローブの青年──アスフィ・シーネットもまた、仮面に負けじと笑ってみせた。

 場の空気が、凍りつく。

 互いに何も語らず、語る必要もない。

 彼らの会話には、“過去”が混ざっていた。

「アスフィに……そこまでの力は無いはずです」

 ルクスがぽつりと呟く。

 その声は、疑問ではなかった。否定でも、怒りでもない。

 アスフィは、あくまで回復魔法の使い手であって──それ以上ではない。

 はずだった。

「ルクス。僕を誰だと思っているのですか?」

「……」

「攻撃魔法が使えないヒーラー、ですよね?」

 それは皮肉でも、謙遜でもなかった。

 ただ、事実を述べたにすぎない。

 だがそれは、同時に“事実ではない”ことを証明する。

「僕は、世界を正すためなら、かつて悪に染まった者すらも利用しますよ」

 それが自分の“写し鏡”──ありえたかもしれない“別の自分”ならば、尚更だ。

 アスフィは、そう言って笑う。

 ルクスは一瞬だけ言葉を失った。

 その時、仮面の男──エーシルがゆっくりと目線を動かした。

 視線の先にいたのは、雷に縛られた少女──レイラ。

「…………私は……ずっと、会いたかった」

 ぽつりと、呟く。

 誰にともなく投げかけられた言葉だったが、その想いは“彼女”だけを見つめていた。

「あなただけを求め、探し続け、生き返らせようと何度も世界を渡った。……救うと、決めた。……なのに」

 その声には、もう“道化”の調子はなかった。

 ただの、男の声だった。

「……私の起こした行動は、世界を乱した愚行だった」

 その独白は、静かで、残酷だった。

「そしてある世界では、関係のない者まで巻き込んだ」

 仮面の男が、己の“罪”を語った。

 その告白に、レイラが口を開く。

「……アスフィ?」

 彼女の言葉に、仮面の下から一筋の涙が零れ落ちた。

「──っ!?……そうか」

 それは、彼が今の自分ではなく、“かつての誰か”として名を呼ばれた最初で最後の瞬間だった。

「……私は、もう……“彼女”を取り戻すことなどできない。してはならない」

 涙を流しながら、彼はそう呟いた。

 求めていた妻はもう、居ない。

 とっくに死んだのだ。

 そして、彼の目が再びルクスを見据える。

「……ルクス。あなたを元に戻して差し上げます」

「……エーシル。また我に殺されたいのですか。次は本当に殺しますよ」

「ええ……殺されたいですネェ。私はあなたの──」

 言葉の途中で、風穴が開いた。

 ルクスの雷撃が、ためらいなく放たれたのだ。

「……脆い。あなたは、我に敗れた。それが現実です……よ……え……?」

 倒れるはずの身体は、揺らがなかった。

 傷口が、一瞬で塞がる。

「……おやおや、殺してしまいましたか。まったく、話の途中だというのに、酷いですネェ」

 仮面の男は、何事もなかったかのように笑った。

 狂気すら感じるその姿に、ルクスは後ずさった。

「……なんで……生きて……?」

「アスフィ、あなたも随分と酷いことをしてくれましたねぇ」

 そう言って、エーシルはアスフィを振り返る。

 アスフィ・シーネットは、静かに微笑んだ。

「……僕も、大切な人を失えば、きっとあなたと同じ道を歩いたと思う。だけど、それでも──罪は罪です」

 その声は、どこまでも穏やかで、どこまでも冷静だった。

「あなたは僕の“もう一つの可能性”。僕が“力”を持たなかった未来の姿」

「……フフフ……」

「だから、これが僕にできる“最大の贈り物”です」

 そう言った時、エーシルの顔が、初めて驚愕に染まった。

「……まさか」

「ええ。“あの時”と同じ力を、あなたに差し上げました」

 “あの時”。

 そう、かつてフィーが地獄を見た、あの戦い。

 何度殺されても立ち上がる、あの“呪い”のようなアビリティ。

 この世界の誰よりも、死を許されなかった存在の力。

 その正体を、アスフィは口にした。

「──自動蘇生オートリバイブです」

「……お前、それは──ッ!」

 隣にいたフィーの声が震えた。

 それは、彼自身が味わった“地獄”だったからだ。

 「なぜ自分は死なないのか。そう思ったこと、ありますよね?」

 アスフィの問いに、フィーは声を詰まらせた。

「……ああ。何度だって思った。死にたくても死ねない……この力をどれほど呪ったか……」

「あなたの“死ねなかった理由”。あれは、僕があなたを蘇生していたからです」

「……!」

 アスフィの告白に、誰もが息を呑んだ。

「フィー。あなたが死ねば、“アスフィ”という存在は、全ての世界で途絶える。それは、この世界が終わるのと同じ意味を持つ」

「……だから俺は、何度でも立ち上がった……いや、立ち上がる事を強制させられた」

「ええ。あなたが知らぬ間に、僕が力を使っていた。……僕だけじゃない。世界の理そのものが、あなたを“生かした”。この世界を救うために」

 その言葉に、誰も何も言い返せなかった。

「……お前、悪魔かよ」

「悪魔、ですか。確かに、そうかもしれませんね。この世界を元に戻すためならそう呼ばれても構いません」

 ただ一人──エーシルだけが、満足そうに笑う。

「……フッ……にしてもこれがギフト、ですか。“地獄行きのチケット”ではなく?」

「ええ。どうか、たっぷりと償ってください。何度でも蘇って、何度でも苦しみながら、あなたの罪と向き合ってください」

「……フフフ……アハハハハッ!!まったく、最悪ですネェ!!」

 エーシルの笑いが、夜の森に響く。

 けれどその笑いに、もはや“道化”の色はなかった。

 ただ一人の男として。

 己の罪と向き合う“罰”を、その身に背負った、哀れな男の声だった。

「……これで、終わるのか?」

 呟いたのはフィーだった。

 だが、誰もその問いには答えなかった。

 なぜなら──終わるはずがないからだ。

 自動蘇生。  
 それは“死”を許されない病。

 倒れても、倒れても、倒れても。  
 何度殺されても、何度痛みにのたうち回っても、  
 その“呪い”は、彼を蘇らせる。

 これは──

 “贖罪”という名の、終わらない戦いのはじまり。

 終幕は、まだ遠い。

 だが、物語は確かに前に進んでいた。

「さぁ!ショーはこれからです」

 道化は笑う──。
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