ティルナノーグの扉

Erie

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プロローグ

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 "魔が栄光の冠を抱く時、遥か彼方から現れし華の乙女、妖精国の新しい光とならん”

 わずかに残る現王たちさえ、覚えていない古の予言。古語ティルナノーグ語に訳されたものが、大きな意味を持つものだったなんて、私の運命に大きく関わって来るものだったなんて思ってもいなかった。

 もし、それを知らなくても祖国に帰ることよりも愛しいあの人の腕の中に残ることを選んだのだろうか?

 未来に起こることなんていくら予言されていたとしても、その時の選択によって変わる。

 時間軸は1つではなく、幾千もあるのだから。

 最善の選択をしただどうかなんて、その瞬間までわからない。


 その運命が私に降りかかる瞬間まで、私は普通のどこにでもいる女の子だった。


 ◇ ◇ ◇

 高校に入学する前、いきなり新しい家族ができた。

 中学の時に両親が離婚して、私は佐藤里奈から橘里奈になった。

 高校も希望のところに入学できた。でも中学から親しかった子たちとはバラバラになるので、ちょっと不安かな。

 そういう気分のまま入学式を終えて、そんなに親しくはないけど、一応友達ができた。

 なんとかやってけそう。

 母親はキャリアウーマンで、保守的な父とは反りが合わず、小さな頃から両親の喧嘩を散々見て来た。だから14歳で両親の離婚を告げられた時、そんなに驚きはしなかった。

 やっぱりね。

 そう思っただけだった。

 離婚後、札幌に赴任中の父と暮らすよりも、今まで通りの暮らしを続けられるように母との生活を選んだ。そして1年と半年が過ぎた頃、中学の卒業式間近になって、

「里奈ちゃんに紹介したい人がいるんだけど」

 と母が橘さんとその息子の英治くんをウチに連れて来た。

「ママね、伸治さんと結婚することにしたの」

「……」

 そんなの聞いてない。

 恋人がいたことも。

「里奈ちゃんのことは聞いているよ。今まで大変だったね」

 人の良さそうな穏やかな声で橘さんはそういった。

「これからは僕たちがいるからね。大丈夫だよ」

 何が大丈夫なのかわからない。

 私は橘さんの口調に嫌悪を抱いた。

 父よりも自分の方が上だという感じがしたから。

「そうよ。家族みんなでこれから幸せになりましょう」 

 私の意見を聞く必要がないと思ったのだろう。

 母の結婚は、すでに決定事項らしい。

「ママもこれからはもっと里奈ちゃんといられる時間を増やせると思うわ」

 今まで、数えるほどしかご飯を食べることのなかった母との交流の時間が増えても、何を話していいかわからない。

 そうして、高校入学式の前に母と籍を入れた義父の元に引っ越すことになった。

 新しい家はマンションと違って、広々としている。

 私の部屋も用意されていたから、前のインテリアと同じようにした。

 だから部屋は落ち着く。

 でも部屋にいる時以外、自分の場所が無い。

 義弟の英治くんは私より1歳年下。無口で、何を考えているかわからない。

 帰りたくない。

 そういう風に思うことが多くなって、帰宅を遅らせるために、部活の園芸の仕事を積極的に取り組んだり、公園で本を読んだりして時間を潰した。

 数週間後、それは起こった。
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