ティルナノーグの扉

Erie

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エトワールの王子

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同じ年の王子、フワンソワ・ド・エトワールは私の予想を斜めいく王子様だった。

 うん、顔だけ、は素敵。金髪で碧眼の私好みのすごい美形。容姿も立ち振る舞いも優雅で王子様そのもの!

 だけど、その後の会話で熱は冷めた。

「要するに、お前は使えん、ということだな?」

「はっ?」

 お茶とお菓子を囲んで、自己紹介し終わった時、彼はそういった。

「異世界から来たというの何の魔力も宿していないのか?150年前に召喚された巫女姫は聖なる力を使って、魔王を倒し、ドワールを平和に導いたぞ。見たところ、顔も平凡、中身も平凡。一体どういうことなのだ?」

 いや、それは逆に私が聞きたい。

 唖然とした私が、言葉に詰まらせていると、妖精王が代わりに答えてくれた。

「異空間に迷い込んでいたので、私がお助けして、我が国にお連れしたのです。召喚されたわけではありません」

「だが、地球という異世界から来る者は、皆ドワールに危機が訪れる度に勇者や聖女となって現れたぞ?」

「だから、救世主ではなく、国賓としてティルナノーグに滞在していただいてるのです」

「がっかりだな。近頃、魔族の動きがおかしいのは貴殿も知っているだろう?」

「ええ。魔王は平和を愛する方ですが、王太子が即位してから、魔界も血気盛んと聞いております」

「150年前みたいに、ドワールの国々が魔王に征服されることになれば、エトワールも平和なままではいられない。妖精国にも飛び火が散る」

「ええ。だから、星見の宴を再催することにしたのです。昔から行事ですが、この宴には全ての種族の代表が出席することが義務付けられています。あちらの様子なんて、噂だけではわからないでしょう?」

 妖精王の言葉にフランツ王子が頷く。

「それなら、国交を再開させるきっかけを作ってくれ。我が国に召喚された巫女姫が先代の魔王を倒したことで、国交断絶状態なのは周知の事実だ。平和主義者の現王でさえそうなら、次に王位を継ぐ王太子がどう出るか、王も予想できるでしょう?」

「魔族だからといって皆が好戦的ではありませんよ。フランツ王子。人は見かけによらぬものです」

 同感。フランツ王子も見掛け倒しだし。

「で、娘、お前はこれからどうするのだ?」

「えっ?」

「妖精王の好意に甘えて、一生をティルナノーグで終えるのか?」

「できれば元の世界に、日本に戻りたいと思っています」

「それは無理だろう」

「えっ?」

「我が国に召喚された歴代の巫女姫や勇者は帰ることなくドワールを平和に導いたのちも、エトワールで婚姻をし、その生涯を終えている。聖なる力を宿した者たちでも戻れなかった。何の力もないお前にそれができる思っているのか?」

「どうしてそう言い切れるんですか?」

「ほどんどの者は我が王族と婚姻を結んだから、その伝記が記された書がある。他の国に召喚された者のことはわからんがな」

「じゃあ、その方法を探しに行きます」

「幸運だったな」

「えっ?」

「転移したのが、平和で自由を愛する妖精国で。王がお前を止めることはないだろう。旅に出る際、エトワールにも立ち寄ることになれば、一応歓迎してやろう」

 いいえ、行くことはありません。歴代の巫女姫や勇者が戻れなかったエトワールにはその方法を知っている者はいないと思うし。

「まだ、この世界に来たばっかりで、慣れない状態で送り出すつもりはありませんよ。可愛いリナを危険の晒すわけにはいきませんから」

 突然見つめられて、リアクションに困る。

 そうだ!話題、話題を変えよう!

「えっと、王様から聞いたんですけど、エトワールには私みたいな魔法の使えない人間がいるそうですね?」

「ああ。平民にはそのような者がたくさんいる。子供の頃には魔法が使えても、大人になるにつれて低下して、魔力がほとんどない状態になる。生まれた時には多少なりとも魔力があるのだが、16で成人する頃にはすっからかんになっている者ばかりだ」

「原因はわからないんですか?」

「波動の低下だろうな」

「波動の低下?」

「3次元から来たリナに近い波動になることで、大いなる存在との繋がりが薄れます。その影響だと思いますが」

 妖精王がさらに細かく補足説明してくれる。

「でも、巫女姫や勇者は我々よりも強い力を持っていたぞ?」

「それは、巫女姫や勇者だからです。特別な存在ですから」

「そうそう!」

 私の相槌に納得した王子が言葉を続ける。

「確かにそうだな。平凡そうなお前に特別な力があるわけないものな」

 この先フランソワ王子の言葉が本当であったならどんなに良かっただろう。

 この時の私はまだ知らなかった。

 ゆっくりと運命の輪が回り始めていることを。
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