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転生王女の決断

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 「困ったわ」

 ガートランド王国の王女、セシリア・ガートランドは岐路に立たされていた。

 悪名高い隣の国のルーレシア王国の第一皇子、ハインリッヒ・ヴォン・ルーレシアンとの婚約が決まり、国を挙げての結婚式まであと10日というところで、初恋の黒髪の美形騎士、エリアス・レスターから彼女に対する愛の告白を聞いて、国のためにハインリッヒと結婚するか、国を捨てて愛するエリアスと国外に逃れるかの選択に迫られていた。

 いつもの「セシリア」としての性格なら国民と国の平和のためにハインリッヒ皇子との婚姻は王族の義務。「エリアスが好き」という私情を天秤にかけることはない。魔法やドラゴン、精霊や魔術師に溢れたこの世界とは「異質の魔法のない異世界、ニホン」の「ジョシコーセー」で、学校の帰りに車の事故にあってこの世界に転生したという記憶が数日前に突然蘇ってから彼女は「今までのセシリア」ではなくなっていた。

「心の声を聞くべき?それとも義務を全うすべき?」

 お日様の色の金の髪と鮮やかな空の青の目を持つガートランドの真珠と謳われるセシリアが16歳になった頃、各国の王族からたくさんの縁談の話があった。宰相とガートランドの王である父の決断で、周りの小国を侵略し、属国にし始めた隣国のルーレシア王国の第一王子、ハインリッヒの元に嫁ぐことになった。

 セシリアに執着しているハインリッヒとの政略結婚でガートランド王国の安泰を図ることができる。

「やはり王族としての務めを果たすべきかしら?」

 澄み渡るような空の青が曇る。

 ルーレシアの王族は、現王もその皇子も残虐なことで知られており、女、子供でさえ容赦せずに侵略された国々の王族は全て皆殺しにすることで知られていた。王族を皆殺しにした後は、自らの皇子をその国の王にして、勢力を拡大するというのが彼らのやり方だった。ハインリッヒの母は小国の皇女であったが、数年前に流行病で他界した。現王のまたいとこであるルーレシア1番の美姫と謳われる年若きリーディア姫がその後釜に座ったが、自分の娘と年の違わない姫を迎えるために現王が前王妃を毒殺したのではないかという噂がまことしやかに流れており、その噂は隣国のガートランドにも届いていた。

「婚姻の先には死相が出ておる」

 王家に仕える魔女ヘルガによって 第一皇子によりお腹に子供を宿したまま惨殺されるという幻視の言葉と前世の「セシリアは若死にする」という朧げな、今ではうっすらとしか覚えていない「乙女ゲーム」の記憶。ヒロインなのか悪役なのか自分の役柄がわからないが、そのゲームのキャラクターとそっくりの自分の名前を覚えていたこと、ヒロインを凌辱して調教するキャラクターにハインリッヒ皇子の名前があったことを覚えており、自身がそのような状況に置かれることに拒絶反応が出たこと、「愛する人と結婚したい」という気持ちに動かされて、エリアスと共にガートランドを離れることを決意した。

 
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